第3話 落ち延びた先に

雪に連れてこられたのは越後と越中の境目の難所親知らず子知らずの手前にある料理屋だった。

「利平様、よくぞご無事で!」

「助さん姿が見えないと思ったらこんな所にいたんですか!」

俺は越後屋の番頭であった助に会えたことを喜ぶ。

「ええ、甚助から報せを受けまして身を隠していたのです、それと角の奴もこっちに向っております。」

「甚助と角もいるのか?」

甚助は店の用心棒であり、仇討ちを果たして抜け殻になっていた所を俺が雇い入れて今日に至っていた。

角は鍛冶職人であり、親の代から契約をしてくれている腕利きの職人である、こんな所に来ずとも独立してやっていける人物である。


「二人共、越後屋を見捨てる気は無いと言ってましたよ。」

俺の瞳に涙が浮かんでいた。

「助さん、俺の事を忘れてませんか!」

店の奥から料理人の八兵衛が現れる。


「八兵衛!そうかこの店は八兵衛の店か!」

以前うちに奉公に来ていた八兵衛は料理の才能があり、本人の望みもあって料理の修行に出したあと資金援助と共に店を持たしていたのだった。

「利平様、俺達は利平様にして頂いた御恩を忘れたりはしません、必ずや越後屋を再建致しましょう!」

「八兵衛・・・みんな・・・」

苦しい時にこそ人の情が身に沁みる、俺は泣き続け、そのまま寝付いてしまうのであった・・・


「利平様、お可哀そうに・・・」

「雪、利平様はまだ若い、その御心も疲れる時はあるだろう、寝所に寝かして差し上げろ。」

「はい、もちろんです。」

助は利平を奥の部屋に運び、雪を置いて再び店に戻る。


「それでどうなっているかわかったか弥七。」

助が声をかけると奉公人として働いていた弥七が闇から現れる。

「長尾は資金繰りの為に利平様を嵌めたようだ、中条の奴と話しているのを聞いた。」

弥七は元々伊賀の忍びであり、偶然の縁が重なり越後屋に居候することとなり、気がつくと奉公人として働くようになっていた。


「おのれ中条!!」

「あとたぶん海屋も裏で糸を引いてる、権蔵が登城して3人で話していた。」

「おのれ!!」

甚助、角は声を荒らげ怒りをあらわにしていた。


「落ち着け、まずは利平様の身の安全が最優先だ、このままだと再起しても長尾に潰される未来しか無いだろう。」

「ならば別の領地に向かうしか無いが・・・」

角は一先ず怒りを抑え考える。


「堺に向かわないか?経済の中心は堺だと聞く、田舎で再起をはかるより目があるのでは無いだろうか?」

「ふむ、悪くないかもしれん、利平様の目が覚めれば進言致すとしようか。」

利平が眠る中、夜遅くまで今後について談義するのであった。

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