第2話 二次試験

「あなた、私と組みなさい」

全員の視線が僕にくぎ付けになっている中、一人の少女が名乗りを上げた。

クルクルの金髪パーマに黄色の目、如何にもなわがままお嬢様である。

「……は……ハィィィイ…」

僕は何とも言えないビブラートをかましモブらしい演技でそのお嬢様に首根っこをつかまれ連行されていく。


「では、二人一組ができた方はこちらへ」

そう案内された場所は先程の会場から出てすぐの闘技場のような場所だった。

「二人とも、別々の入場ゲートから入場をお願いします」

「勝った方が合格、以上です。単純でしょう?」

「当然ね、早く行くわよモブ犬」

勝気なお嬢様は俺の首根っこから手を放し、さっさと別の入場ゲートへ向かう。

俺は目の前にそびえたつ入場ゲートの前で一人嬉々とした表情でそれを眺めていた。


「ちょっと何あれ……キモ」

「めっちゃ嬉しそうな目で入場ゲート見てるぞ……」

「変態よ変態」

なんか周りでいろいろ聞こえるけど別にいい。全く関係ない。

僕はこの後起きるであろうモブイベントに心躍っていた。

ここで華々しく負けた僕は泣く泣く実家にとんぼ返り、これでフィニッシュだ。


僕はスキップしながら入場ゲートに入っていく。

入場ゲートを進んでいくと、中から歓声が聞こえる。

どうやらもう少しで闘技場の中につくらしい。

今は扉でふさがれており、まだ入場はできないっぽい。


「では、入場していただきましょう!!」

「西側、王都の第四階位貴族、クレア・アストレア!!」

その瞬間、会場内からあふれんばかりの歓声が上がった。

ちゃんと血のりの用意はよし、関節を外して脱力感も演出、完璧である。

関節を外しておけば、弱そうに歩けるし、やられた後の脱力感も演出できる、一石二鳥である。


「続いて東側、辺境の地から第十五階位貴族、スレイ・ウェーカー!」

いや、おかしくない?なんか1個ビックリマーク少なくない?

「田舎の貧乏貴族が!今日はちゃんとおむつ持ってきたんだろうなぁ!」

「さっさと帰れやられ役のくせに!!」

そう、今の僕はやられ役。

あくまで鮮やかに、それでいて薄味に、誰の記憶にも残らないように。


「では……始め!!」

スタートの合図と同時にお互い一定の距離を取る。

召喚士は性質上近接に持ち込まれたら詰みなため、こうするのがセオリーである。

「答えなさい……!ザドキエル!」

さすがは王都の優良物件なだけはある、高位の悪魔族を手なずけているようだけど、それに見合った魔力はある。


「あの年で悪魔族を……!?」

「しかも高位の……!こりゃぁ勝負あったな」

観客の視線が途端に諦めムード全開で僕を見つめてくる。

もはやこのフィールドでの主役は完全に彼女。

僕は大人しく何もせず退場を……。


「食らいなさい!インフェルノブレス!!」

悪魔族は口から火を噴き、それが僕めがけて飛んでくる。

あぁ……悔いのない人生だったよ。

僕はそう思い、その業火に身を預けた。


……あれ?

何分くらい経っただろう。

目を閉じて五分くらい経つのに全然審判の勝負あり宣言が来ない。

しかもなんだか周りが騒がしい。

僕は恐る恐る目を開けてみると、そこには燃えカスと化したあの悪魔族がいた。


「……え?」

僕がそんなカエルの死んだような声を出すと、わがままお嬢様の悲鳴が聞こえる。

「う……うそ……そんな…」

「こ……こんな…こんなぁぁっぁっぁぁっぁぁぁっぁぁ!!」

いい加減うるさいのでやめてほしいけどなんでだ?

確かに僕はブレスに全身を焼かれたはず……?


「う……うそだろおい……」

「あいつ……ブレスを弾き飛ばしやがったぞ……!?」

弾き飛ばした?あれ、そういえばメタルスライムのスキルにそんなのあったっけ?

「なんであんたみたいなやつが……うそ!なんか不正したでしょ!?そうなんでしょ!?」


わがままお嬢様らしいいちゃもんに僕もさすがに笑みがこぼれる。

「何がおかしいの……殺してやる…!!」

お嬢様は手を前に掲げると、地面に魔法陣が現れる。

「いでよ、異界の番人。ゾルダーク……」

その瞬間、会場の中が一気に暗雲が立ち込める。

あれ……僕なんかやばいことしちゃった感じじゃないのこれ……。


僕は魔法陣から出てくるなんかやばそうなやつを見て、心底後悔した。

いや、あるけどね?こういう試験中にヤバいのが乱入して次回こうご期待!ってパターン。


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転生したらメタルスライムで経験値狩りモンスターとして生きていくのはうんざりだったので人間として学園生活を送ることにした 西村洋平 @gabigon

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