scarlet 9

 レストレードの運転する車に揺られ、私たちは彼らの勤め先の警察署に到着した。

 ドラマでしか見たことはないが、あの警視庁を少し小さくしたような外観をしている。

 敷地内の駐車場に車を停め、正面入り口から入って受付へ。

 レストレードは先に向かう場所があるようでそちらへ行くことを伝えてきたが、まだ絶不調のワトスンくんを心配しているようで、「ここの食堂のプリンがうまいぞ」と教えるや否や、ワトスンくんは再びキラキラモードに変わり、「プリン!」の一言を残し食堂へと向かった。

 受付には二名の女性がおり、私がレストレードとグレグスンの名前を告げると、「こちらの許可証を首から下げて、6階の会議室へと向かってください」と案内した。

 ロビーを抜けて奥にあるエレベーターホールにやってきた。まぁ、ホールとは言ってもエレベーターは3台しかないし、そのうち1台は『故障中』の張り紙がされている。真ん中のエレベーターが運悪く登っていったばっかりだったので、私は左のエレベーターに乗った。

 内部はなんというか、古かった。ポスターとか若干剥がれかかった壁紙とか、そういうのとは違い、雰囲気のようなものがそう感じさせたのだ。各階への操作パネル、蛍光灯、茶色と黒を基調にしたこの箱は、そう・・・・・・ノスタルジックというやつだ。

 ちょっとだけ感傷に浸ったが、私は目的の6階のボタンを押した。

 ゆっくりと扉が閉まってゆく、その時だった。

 エレベーターの外から、何者かが下品な足音を響かせて走ってきていた。そして、閉まりかけていたエレベーターのドアの隙間に、手を差し込んできたのだ。

 すぐさまエレベーターの安全装置が作動し、ドアはその手を挟むことなく開きだした。

 なんて常識のないやつだ、と思いつつ開いてゆくドアの向こうの人物に注目した。

 坊主頭の男で、薄茶色のスーツを着ている。よっぽど急いでいたのか、肩で息をしているほどだった。

 かすれた声で私に向かい、「すいません・・・・・・すいません・・・・・・」と謝るばかりかと思えば、後ろを振り返って精一杯の声で叫んだ。

「エレベーター・・・・・・捕まえましたぁ!」

 私はエレベーターから男の視線の先にいる人物を覗いて見た。

 そこにいたのは、真っ黒いコートを着たすらっとした男だった。

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ミスターホームズは眠りたい 2 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto

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