最終話
マーメイド号の事件から二ヶ月ほど後、刑務所に入ったイソクさんに会いに行った。
響「お久しぶりです」
イソク「どうも。以前は、本当に迷惑をかけてしまって…。すみませんでした」
響「いえいえ、そのことはお気になさらず。今日は、話があって来たんです」
イソク「話?」
響「あなたのお姉さんについてなんですけど…」
イソク「いや、いいです」
響「え?」
待て待て待て待て。まだ内容についてほとんど触れていないぞ。いくらなんでも返答が早すぎる。
響「いや、あのですね、話っていうのは…」
イソク「いいんですって。聞きたくないんですよ」
響「なんでそんなに嫌がるんですか」
イソク「だって、自分の殺人事件を解決した相手からの話ですよ?何言われるか分からなくて怖いんですよ」
響「そんなに非情なことはしないですよ」
イソク「本当ですか?」
響「んー、私だけじゃ埒が明かないですね。ちょっと待っててください」
そもそも、本当は私は用事がないので、こんな所来なくてよかったのだ。それでもここに来たのは、ある人から頼まれたからだ。
響「いやー、お待たせしちゃいましたね」
イソク「いや、そんなに待ってないですけど。それで、なんでこんな所に来たんですか」
響「用事があるのは私じゃないです。もう、入ってきていいですよ」
そして、私はその人を呼んだ。
イソク「え…なんで…」
ジウ「久しぶり。元気にしてた?」
イソク「なんで、姉さんがこんなところに…?」
その人とは、イソクさんのお姉さんであるジウさんだった。
イソク「なんで、なんで?」
ジウ「あまり詳しくは言えないんだけど、会いたいって思って教えてもらったの」
イソク「じゃあ、もしかして僕の事件のことも?」
ジウ「うん。そのことも教えてもらった」
イソク「だったら、なんで会いに来たの?平気で人を殺すような最低なやつなのに、どうして?」
ジウ「いや、私はイソクのことを最低だなんて思わない。イソクが人を殺したのも私のためでしょ。それを最低だなんて思うほうが、よっぽど酷いじゃない」
イソク「姉さん…」
ジウ「確かに、イソクがしたことは許してはいけないこと。あらゆる人から非難されても仕方ないとは思う。でも、私のためにしてくれたことなら、私はむしろ感謝したいわ」
イソク「姉さん…!」
ジウ「ごめん、日野さん、二人にしてくれない?」
響「わかりました」
ここから先、姉弟が何を話したのかはよく分かっていない。これ以上は私にとってほとんど無関係なことでもあるし、正直どうでもいいのだが。
そして、私は刑務所を出た。出所みたいな言い方だが、私はまだお世話になっていない。安心してほしい。
出たところで、青井さんと緑さんが待っていた。
緑「お疲れ様。どうだった?」
響「どう、とは?」
緑「何かトラブルとかはなかった?」
響「そのことですか。大丈夫です。何の問題もなく進みましたよ」
緑「それはよかった」
蒼介「しかし、ビックリしましたよね。合わせてくれだなんて言われるとは」
そう、少し前のことなのだが、青井さんの元に依頼が届いた。その依頼人こそがジウさんで、内容は刑務所にいる弟に合わせてほしいというものだ。
最初は疑ったが、イソクさんに姉がいるということを元から知っていて、それに加えてマーメイド号に乗っていた青井さんのところに依頼が来たのだから、信じるしかなかった。
響「それにしても、どうやってこんな機会設けたんですか?いくら便利屋とはいっても簡単にはできませんよね?」
蒼介「そりゃあ大変でしたよ」
緑「まさかとは思うけど、賄賂とかなんかそんな感じのを…」
蒼介「そんなことはしないっすよ!ちゃんと倫理的で法律に引っかからない方法っすよ」
響「あぁ、そうですか」
ここからは企業秘密ということだろう。多分聞いても教えてもらえない。だったら、これ以上聞くだけ無駄なのだろう。
緑「なんだかんだ大変だったけど、これで一件落着ってことでいいのかな?」
蒼介「そういうことでいいんじゃないすかね」
響「それじゃあ、今回はこれで解散ということで」
緑「そうだね。ちなみに、二人のこれからの予定は?」
蒼介「俺は後は暇っす」
響「私も、今日は他にはすることはないですね」
緑「じゃあさ、うちに食べに来ない?ほら、もうお昼だし」
蒼介「どうします?響さん」
響「せっかくですし、ここはお言葉に甘えさせてもらいましょうかね」
そうして、私たちは「いざなみ」へと向かった。人気なだけあって、とても美味しかった。
しかし、私には気になることがある。緑さんと黒子さんのこととか、ジウさんのこととか気になることは他にもあるが、もっと気になることがある。
今回の事件の黒幕だ。犯人はイソクさんだったわけだが、彼はあくまで結果としては誰かに唆されて殺人を犯しただけで、殺人をする覚悟は彼一人では決められていないはずだ。
だとすると、そいつは誰なんだ?都市伝説にいた猟奇的な怪物ではない、操り人形としての「軍服の人魚姫」の裏に潜む別の怪人は、誰なんだ?いや、分かるはずがない。情報が少なすぎる。
とりあえず、マーメイド号の銃声によって起こった事件そのものは解決した。その裏側を知るのはまた後にしよう。私なら、事件に今後も巻き込まれ続けるはずだ。
人の命を無駄にしてしまうことは間違いない。それでも、その正体にたどり着きたい。私が探偵をしているのは、きっとそういうことをする運命にあるから。その運命を受け入れ、その後で抗うのだ。
断罪の探偵 4 マーメイド号の銃声 柊 睡蓮 @Hiragi-suiren
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