第18話
こんなに強引な手段で犯人を炙り出すことになるとは思わなかったし、成功するとも思っていなかった。ただ、結果として成功したのだからまあいいだろう。当然、相手は反論してくるのだが
イソク「え?何言ってるんですか、そんなわけないでしょう」
響「だったら、なぜギターケースの色を答えられたんですか?」
イソク「それは…ライブハウス、ライブハウスに行ったんですよ」
響「ライブハウス?」
イソク「そうそう。事件が起きて気が滅入っちゃってね、ダンスでもして気を紛らわそうかと」
確かに、その発言が本当なのであれば、ギターケースの色が答えられる可能性は十分ある。実際、イソクさんに初めて会った時に私も見ている。
しかし、その程度の理由、いくらでも言える。たとえ嘘だとしても驚くほどのものでもない。
だから、このことを嘘だという前提、そして彼が犯人だという前提で話を進めていく。私が間違えているかもしれないが、そんなことは考慮せず突き進むしかないのだ。何度も調べている猶予は残っていないのだから。
響「確かに、ギターケースの色だけで犯人だと決めつけるのは安直すぎましたね。それは申し訳ありません」
イソク「ですよね。僕は犯人じゃないんですよ。信じてください」
響「それは出来ません」
イソク「は!?」
緑「ちょ、ちょっと待って。え?響ちゃんは、イソクくんが犯人だって思ってるの?」
響「…そうですよ」
緑「なんでよ!?ほんのちょっと前まで一緒に遊んでいた相手よ!?そんなふうに疑うなんて、酷すぎじゃない!?」
拓次「緑、落ち着け」
緑「落ち着けって言われたって、そんなの無理よ!」
拓次「いいから静かにしなさい。これは響さんとイソクさん、二人の問題なんだ」
黒子さんが緑さんを黙らせた。しかし、緑さんの考え自体はもっともだ。私だってこんなことは考えたくないのだが、避けられない。探偵というものの運命、とでも言うべきか。
響「そうですね。じゃあ、今から証明しましょうか」
緑「証明?証明って、何を」
響「犯人がとった行動です。犯人が殺害の時に行ったこと、そのトリックを」
まずは、現場にいるということもあり、黄島さんの殺害を推理していく。
最初に見せたのは、風呂場だ。湯船の中の死体、そして証拠品のスマホとスタンガン。何人かの見ることができる人たちだけだがしっかりその目で見た。
蒼介「これは…実にむごい」
しっかりと死体の様子を見て、青井さんが言った。
蒼介「これ、どうやって殺したんすか?」
イソク「な、なんで僕の方を見ながら言うんですか」
蒼介「だって、今一番怪しいのって、イソクさんじゃないすか」
イソク「だから、違いますって!」
響「青井さん、一度私の話を聞いてからで」
達観した人間ほど恐ろしい存在もなかなかいないかもしれない。今後は警戒するようにしておこう。
蒼介「で、肝心の殺し方ってのは?」
青井さんが尋ねてきた。
響「そこまで複雑でもないですよ。ただ、ここにある道具で殺したってだけです」
蒼介「ここにある道具って、スタンガンとスマホぐらいっすよね?」
拓次「スタンガン…まさか、感電死ということか!?」
響「感がいいですね、黒子さん。そうです、死因は感電死でしょう」
蒼介「『でしょう』って、なんで急に適当な感じなんすか。やっぱり、推理できていないんじゃ…」
響「そういうわけではありませんよ。ただ、私は検死というものができないので、死因は憶測でしか語れないってだけです」
こういう時に検死の能力か知識さえあればなあ。もっと自信をもって推理できるんだけどなあ。
響「で、このスタンガンなんですけど、これが殺害のトリガーとなったわけです」
蒼介「んー、さっぱりわかんないっす」
響「単純です。この湯船に溜まっていた水が電気を良く通すものだったんです。感電させるにはいいんでしょう」
蒼介「あー。だから、水が溜まってるんすね」
赤音「ん?でも、少し待ってくれない?」
響「どうかしました?鈴さん」
赤音「あんたは水だかお湯だかが溜まった湯船に黄島とスタンガンを入れて、殺したって言いたいんでしょ?」
響「まぁ、そうですけど」
赤音「だとしたら、どうやって部屋に入るのよ。風呂入るなら、鍵が掛けられてもおかしくないでしょ?」
響「そのことは…あれが証拠です」
そう言って、私はその証拠品を持ってきた。空の緑色のギターケースだ。
赤音「それ?それでどうやって…」
響「実は、これ結構大きいんですよ。人一人ぐらいなら入れるほどに」
赤音「それが、どうやって…」
響「それと、もうひとつ黙っていたことがあります。黄島さんの体には、明確に傷痕があるんですよ。それこそ、スタンガンでつけられたような」
蒼介「それとこれと、どう関係が?」
響「今までの証拠と推理とも合わせて、黄島さん殺害の一連の流れを説明しましょうかね。まったく話していない部分もあるので、置き去りにしてしまうかもしれませんが」
まず、殺す前の下準備として、犯人は黄島さんに攻撃をすることにした。
犯人は、何らかの方法で黄島さんをライブハウスに呼び出した。そして、現れた彼の首筋にスタンガンで攻撃。こうして、黄島さんは気絶してしまった。
そして、犯人は黄島さんを別の場所、彼の部屋で殺すために移動した。この時にしたことは二つあるはずだ。鍵を奪うこと、そして、ギターケースに彼を入れること。
ギターケースの大きさを利用して、その中に死体を入れた。スタンガンぐらいなら合わせて入れられる。それに、持ち運んでいても怪しまれにくい。都合がいいものなのだ。
そして、黄島さんの部屋に入り、湯船に水を溜める。溜まってきたところで、ギターケースから黄島さんを出して、湯船の中に入れる。
そして、ここからが本番だ。まずはスマホ、そしてスタンガンを入れる。こうして、感電死による殺害が成功したわけだ。私たちが聞いた爆発音はこのようにして鳴ったわけだ。
そして、何らかの方法(これは後述)で部屋を抜け出し、私たちに合流する。まるで、殺人に気がついて駆けつけただけの人物かのように。
ただ、この時処理できたはずなのに残ってしまった証拠がある。空のギターケースだ。恐らく、爆発音のせいで他の人が駆けつけることに気がついたのだろう。
犯人も、焦りがあったのかは知らないが、現場を塞いでいなかったのだ。だから、私は何事もなく入れたわけである。部屋を慌てて抜け出すはめになり、証拠を処理できずに残してしまった、といったところだろう。
響「…どうですか?こういう流れで犯行を行ったというわけですが」
赤音「ごめん、理解が追いつかないわ」
響「あ、そうですか。まぁ、『先に気絶させてからここで殺した』ということが伝わればいいかなって」
拓次「じゃあ、聞きたいことが二つ」
響「なんですか?黒子さん」
拓次「スマホを壊した理由は?」
響「スマホを壊した理由…。多分ですけど、自分が呼び出したというトリックの最初の部分が見抜かれないためかと」
緑「じゃあ、スマホは最初から壊すつもりで…」
響「そこまでは分かりません。ただ、スタンガンに加えてスマホを入れた理由はここにあると思います。過剰なことしてますしね。だからこそ、スマホが壊れた爆発音を防げなかったのかもしれませんが」
拓次「じゃあ、もうひとつ。部屋を抜け出した、というのは、どのようにして?」
響「そこは、また後で話します」
今回の事件は黄島さんだけではない。もう一人、被害者がいる。
響「それじゃあ、着いてきてください。もうひとつの殺人を証明します」
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