第17話
爆発のような大きな音を聞いて、急いで加賀さんの部屋を飛び出した。なんだかんだで、私も敏感になっていたのだろう。すっかり余裕をなくしたまま、音の出処を探った。
すると、とある部屋だけドアが開いていたのに気がついた。まさか、と思い部屋に入ってみた。
もう寝ていると思っていたのだが、入ったその時点で何か妙な感じがした。何故か、本来いないであろう場所にいるのではと、そんなふうに思った。
実際にベッドのほうを見てみたが、人の姿はなかった。そこにあったのは、ライブハウスにあったはずのギターケースぐらいだった。何個かあったから一個ぐらい持ち出せるとはいえ、この人にとっては必要なのか?
そして、部屋の他の部分まで探すことにした。次に見たのは、風呂だった。そして、たったそれだけで探していた者は見つかった。
響「はぁっ、はぁ、はぁ、黄島さん、黄島さん!」
そう、そこにいたのは、意識を失ったような目をしていた黄島さんと、スタンガン、それに壊れたスマホだった。水の溜まった湯船の中に、それら全てがあった。
水と電気、それにあの爆発音。どう考えても、死んでいることに間違いないだろう。捜査にばかり夢中になりすぎた。防げたかもしれない殺人なのに。
そして、爆発音と私声とを聞きつけて、他の人たちも続々と集まってきた。この中に、誰か犯人がいるのか。二人も殺した犯人が。
その正体は見当がついている。今すぐにでもそのことをばらしてしまいたいのだが、どうやらそうはいかなそうだ。
緑「響ちゃん?どうしたの?」
響「…多分、察しがついていると思いますが、黄島さんが殺されました」
緑「…え?嘘でしょ…?」
響「嘘なんかじゃないんです。本当に、誰かが殺したんですよ」
拓次「そうか…。また被害者が…」
誰だって怯えたはずだ。次に殺されるのは自分かもしれない。そういう思考は嫌でも脳裏によぎってしまう。だからこそ、なるべく急いで、この事件を解決しなければ。
響「すみません。もう少しだけ、時間をくれませんか」
そう一言だけ告げて、ドアを閉めた。殺人鬼がすぐそこにいるというのに何をしているんだ。焦りすぎた。
しかし、推理については自分のペースでできる。確実に推理をして、真相を解明する。それが、今の私の役目だ。
とは言うものの、なかなか難しいものだ。なぜなら、死体に一切触れられそうにないからだ。スマホが壊れるほどの爆発があったわけである。慎重にいきたい。
そもそも、なぜスマホが爆発したのか。まずはここからだ。これを手で持つわけにもいかないし、ぱっと見た限りでは、黄島さんが持っていた形跡もなさそうだ。黄島さんの体にあった傷は、首筋のものぐらいだ。
そうなると、可能性は絞られる。スタンガンだ。これの電流によって引き起こされたのだ。水によって通されたスタンガンの電気により、スマホが爆発を起こした。これが、私が第二の殺人に気がついたきっかけなわけだ。
そして、これによって死因も大体特定できる。スタンガンによる感電死だろう。スマホの爆発はその時の副産物に過ぎない。
これで解決、といきたいところなのだが、そう都合よく展開は進まないのだ。割ととんでもない早さでトリックや死因を推理しているが、それとこれとは話が違う。
さて、何が問題なのかというところだが、現場の状態、それとギターケースの謎ぐらいだ。それぐらいだが、難しいものは難しい。
現場の状態については、ドアこそ開いていたものの、犯人らしき人影がなかった。爆発音が聞こえてすぐに駆けつけたにも関わらず、だ。
爆発までタイムラグがあったということも考えてみた。しかし、それでは不都合な点がある。スタンガンを投げ入れた湯船の中で、時間が経ってからようやく電流が流れる。そんなことが起こり得るのか?
考えられるパターンは次のうち二つだ。先に別の場所で黄島さんを気絶させて、全部を湯船に放り込んでから水を溜める。または、もとから水が溜まったところに放り込む。
正直、前者は可能性がないとは思う。もしそうなっていたのであれば、水は入った時点で溜まり続けていたはずだ。だが、実際はそんなことはなく、水は流れていなかった。
となると、やはり後者か。だとすると、トリックを使いまわしているのでは…。そう思い、加賀さんの部屋でしたようなことを試した。成功した。
しかも、改めて観察してみると、私はや加賀さんの部屋とは左右が反転したような作りになっている。犯人には申し訳ないが、動かしようもない証拠だ。
あとは、ギターケースか。このギターケース、なんで持ち出したんだ?もしかしたら、黄島さんにギターを弾く趣味でもあるのか?
そう思って、ギターケースを見てみた。すると、とんでもない事実が判明した。ギターがない、というか中に何も入っていない。
尚更なんだこのギターケース!?どういう意図で持ち出されたんだ?しかもやたら大きいし。人一人分ぐらいなら、ワンチャン入れるのではないか。
…ん?「別の場所で気絶させて」「人一人分ぐらいなら、ワンチャン入れる」
そういうことか!まさかのことだ。だから、こんな所にあるのか。
よし、証拠は一通り揃ったはずだ。じゃあ、始めよう。マーメイド号の銃声、解決編。
響「お待たせしました。ようやく終わりました」
蒼介「響さん、やべえっすよ!」
響「え?何かあったんですか?」
蒼介「今さっき確認してきたんすけど、この船、もう帰路に着いてたんすよ」
響「は!?」
蒼介「しかも、日付がまわったあたりで」
危ない。もう少し推理が遅かったら、いや、犯行が遅かったらどうしようもない状態になっていたかもしれない。青井さんもよく気づいたな。
響「いや、大丈夫です。もう事件は解決できそうなので」
蒼介「マジっすか!?よかったー」
さて、早速だが、犯人にボロでも出さそうか。
響「あ、そういえばですね、部屋の中になんか変なものがあったんですよ」
赤音「変なもの?」
響「空のギターケースです。なんでこんな所に…」
イソク「それって、緑色のやつですか?」
響「そうそう、それですよ………なんで緑色だって分かったんです?」
イソク「え?いや、それは…」
響「私は『空のギターケース』としか言ってないのに」
イソク「………っ!?」
響「早くもボロを出したな。連続殺人鬼、『軍服の人魚姫』。いや………」
____チャ・イソク!
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