第16話

犯人の予測がついたところで、私はトリックのほうを推理することにした。


改めて、事件の現場となった加賀さんの部屋を訪れた。そんな場所、さすがに誰も来ないはずだ。調べることはだいたい調べられるはずだ。


そう予想して、部屋の中に入った。加賀さんの死体は私たちが見つけた時から変わっていない状態だった。変わっているほうが恐ろしいといえば恐ろしいのだが。


私は、最初に加賀さんの死体の状態を確かめた。少し動かしてみると、頭に一つ、銃で撃たれたような痕があった。それと、ガラス片でつけられたであろう傷。ボロボロだ。そりゃあ生きているはずもない。


しかも、彼女の死体のすぐそばには、大量のガラス片が散らばっていた。そう思うと、犯人の容赦のなさが透けて見える。せめて銃弾だけでよかっただろう。なのに、どうしてガラス片で傷をつける必要があるのか…。


いや、もっと気にするべき事項があった。どうやって外から発砲したのか。これが分からないと、犯人に言い逃れされかねない。ここは確実にはっきりさせないといけないだろう。


しかし、まるで検討もつかない。というか、人間ができることなのか?近くに船の類もないし、かといって窓の外に人が立てるようなスペースもない。どうやったのか?


もしかして、私が勝手に勘違いしてるだけで、やっぱり軍服の人魚姫がやったのではないか。そうとしか思えない。とにかく、どうにかしてこのからくりを証明しなければ。


窓のほうをよく観察した。そこに行くまでの僅かな距離にはガラス片がほとんどなく、歩きやすかった。窓ガラスには大きく穴が空いている。きっと、銃弾によって割れたのだ。それが飛び散って、結果的に加賀さんの体に傷をつけたと。


結果は分かるのだが、過程が分からない。今回はこっちのほうが大事な気がする。


しかし、とてもだが銃の扱いに長けていると言わざるを得ないだろう。ピンポイントで死体のそばにばかりガラス片を集めるとは。


………ん?「死体のそばにばかり」?


まさか、と思って部屋全体を見回した。ガラス片があったのは大まかに二箇所。加賀さんの死体のそばと、窓の真下。たったこれだけなのだ。


しまった。もっと早いうちに気がついておくべきだった。銃を撃ったのは外からじゃない。この部屋の中からだ。だから、加賀さんの頭に狙って撃つことができたのか。


そう思うと、さらに重要なことに気がついた。二回も撃つ必要があったのはこのためだ。部屋の中から撃つと、ただ射殺するだけで軍服の人魚姫の仕業だと思わせられない(私以外に知っている人物がいるかは抜きにして)。


だから、窓を撃つことで外からの銃撃だと思わせることができるのだ。二回も撃つのは、これをする上で必要なことだというわけだ。


だとすると、このガラス片は、犯人が別で用意して、殺した後で死体のそばに撒いたのだろう。傷については、偶然ついたのか、意図的につけたのかは分からないが、そこは特に考えないでいいだろう。


あとは、どうやって部屋に入ったかだ。ここさえ分かればいいのだが、これこそ難題だ。要は、この犯行は密室殺人というわけで、その謎が残っている限り、犯人はいくらでも言い逃れできる。


犯人に言い逃れさせないように、これはなんとしてでも解き明かしたい。そこをどうすればいいのかが分からないだけで。


まぁ、私は探偵だ。それに、密室殺人というのは決して珍しいものでもない。なぜなら、私は死神なのだからな。へこたれるな日野 響。部屋中探し回って、トリックを解き明かすんだ。


___数十分後。


なんでどこにも証拠がないんだよ、教えはどうなってんだ教えは。犯人のやつ面倒なトリックを平気で使ってんじゃねえか。分かれってのか!?


こういう探偵が生まれたのは犯人がトリックに甘えたせいだろうが!まだ考えさせるか!?くそったれ!


どこにも証拠らしい証拠がなかった。風呂もベッドもクローゼットも、その他の部屋中の色々もよく観察したはずだ。それなのに、何も見つからなかった。犯人のトリック複雑すぎだろ!


ここで諦める訳にはいかないのだが、正直すごい諦めたい。何も見つからない。一旦、ここから退散しようか。


そう思い部屋から出ようとすると、ある違和感に気がついた。あの妙な涼しさ。隙間風でもあったのか?場所的にはおかしくもないが。


いや、ここは可能性を検証してみることにしよう。そう思い、少しだけ触ってみた。するとなんてことだ!あっさりと密室に秘密の通路ができるではないか!


これは驚いた。こんなにもあっさりと悩まされていたものが解決するとは。さて、あとはこれまでの調査をもとに、犯行を暴くだけだ。楽勝だな。


そう思った時だ。また大きな音が聞こえた。まるで爆発でも起きたかのような、そんな音。


嘘だろ?まさか、第二の殺人が!?

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