第15話

というわけで、一人一人に聞き込み調査をすることにした。誰か一人でも目を離さないように、食堂に残ったまま話すことにした。


まずは青井さんだ。


響「じゃあ、まずは青井さんからですね。青井さんは、銃声が鳴った時何をしていましたか?」


蒼介「俺は機材室にいましたよ」


響「機材室?」


蒼介「ここの隣の隣っす。寝る前に点検しておこうと思って」


響「あぁ、そういえば、私より後に二階から来ましたね」


蒼介「はい。これで、アリバイは十分っすか?」


響「可能性は大きく下がりましたが、まだ疑わせていただきます」


蒼介「マジっすか」


蒼介「マジです。手の込んだトリックとか使われてたら、と思うと、犯行が困難なんて程度では易々と容疑者からは外せません」


蒼介「へぇ…」


響「それで、過去に大きな出来事とかありますか?」


蒼介「大きな出来事?」


響「はい、そうです」


蒼介「まさかとは思いますけど、それで動機のことを推理しようとか考えてます?」


響「え、そうですけど」


蒼介「無駄っすよ。そんなの、誰が教えるんですか」


響「確かに…。じゃあ、これ以上聞くこともないです。ありがとうございました」


蒼介「はい。じゃあ、俺はもう寝ます」


あ、どうしよう。単独行動を許してしまった。しかも一人目でこれだもんなぁ。しくじった。もう!響のうっかりやさん!


しかし、動機のことを推理しようとしてたことを見抜かれるとは。そんなに都合よくはいかないか。こうなったら、アリバイだけでも聞いておくことにしよう。


次は黒子さんだ。


拓次「銃声が鳴った時か。私は自分の部屋で寝ていたところだ」


響「じゃあ、誰かに会ったとかは…」


拓次「残念ながら、そんなことはない。銃声が聞こえて、ようやく目を覚ましたのだからな」


響「そうですか」


拓次「それより、私から君に聞きたいことがあるんだが、いいかな」


響「なんですか?」


拓次「緑のことだ。あの子のことで、何か引っかかることはないか?」


響「いえ、今のところは、特に。過去のことも話してくれましたし」


拓次「過去……そうか、それなら安心だな」


響「そうなんですかね」


拓次「あぁ。頼りにしてるぞ、響さん」


なんかよく分からないけど、頼りにされた。悪いことでもないし、気にしないでいいとは思うが。


次は緑さんだ…と思ったのだが、加賀さんと別れてからはずっと一緒にいた。だとすれば、彼女に犯行はできないだろうし、わざわざ聞かなくてもいいだろう。


そこで次の人を呼ぼうとしたとき、緑さんが「ごめん、やっぱりちょっと待って」と私を止めた。


響「え、どうかしました?」


緑「あの、さっき他の人たちと話したことなんだけど………これって、本当に人が殺したのかなって」


響「どういうことです?」


緑「だって、あの部屋の様子からして、外から撃ったとしか思えないじゃない。だから、それこそ妖怪みたいなのが殺したとしか…」


響「そのことは……もう少し、真相にたどり着いたら話します」


緑「う、うん…」


軍服の人魚姫。このことを知っているのかは定かではないが、やはり人ならざるものの犯行と思われてもおかしくないのか。


これは、犯人が軍服の人魚姫とかそういったものを連想させるための細工なのか、それとも本当に何かそういった存在がいるのか?まだ分からない。しかし、真相がどうであれ、解明しないといけない。探偵だから、嫌でもしないといけないのだ。


さて、気を取り直して次は黄島さんだ。


進次郎「私は自分の部屋で小説を書いていた」


響「そのことを証明できる人はいますか?」


進次郎「いないが、それがどうした。まさか、私を犯人だと言うつもりではないよな?」


響「いえ、まだ断定はできません。あなたが犯人である可能性はありますけどね」


進次郎「ふざけるな!なぜ私が疑われるのだ!」


響「あなただけじゃないですよ。ここにいる全員、当然、私も容疑者です。あくまでも『可能性』です」


進次郎「そうか。じゃあ、もうこの話は終わりでいいな?」


響「そうですね。…あ、そうだ。最後にひとつだけ」


進次郎「なんだ?」


響「私は男です。『女の癖に』だなんて、私には全くどうってこともないですよ。残念でしたね」


今回は効果的ではなかったが、中性的というのはいざという時に便利だ。女だと思って油断する人とかいるし、この方が話せる相手も増える。なんて便利なんだ。勘違いしないでほしいが、決してそういう癖ではない。


さて、気を取り直して、次だ。次は鈴さんだ。


赤音「私は自分の部屋でシャワー浴びてたわ」


響「そのことを証明できる人は…さすがにいないですよね」


赤音「いや、もしかしたらいるかも」


響「そうなんですか?」


赤音「あの黄島ってやつとか、あとはイソクくんとか、この辺が隣の部屋だから、もしかしたらシャワーの音が聞こえているかも」


響「なるほど。あとでイソクさんに聞いてみます」


それじゃあ、ラスト。イソクさんだ。


イソク「僕は、部屋で曲を聴いてました」


響「曲というと?」


イソク「デビュー曲です。本当はまだ覚えきれていないので、今のうちに聴いておきたいなって」


響「じゃあ、隣の部屋の音とかは…」


イソク「分からないですね。すみません」


響「いえいえ、お気になさらず」


イソク「お疲れ様です」


これで全員分終わりか。少なくとも、緑さんしかアリバイが確保できていないということは確定した。あとは誰が犯人かだが、まだ分からない。加賀さんの部屋をじっくり調査しないといけないだろう。


そういえば、今回の船に乗っているはずの人物で、まともにアリバイを聞けていない人物がもう一人いる。金村 銀史郎。もはや、実在しないものだと割り切っておこう。ここまで正体を明かさないなら、多分そういうことだ。


さて、トリックだのなんだのを推理したいところだが、その前に…


友人の相手をしないといけないのか。まあ、そんな大層なことでもないだろうし、さっさと終わらせよう。


響「もしもし」


友人「もしもし、響。もう、待たせすぎ。男なら、レディのことは待たせちゃダメなんだぞ♡」


響「よく言うよ。野蛮野郎が」


友人「野蛮って何よ!?誰が野蛮だコノヤロウ」


響「で、用事でもあるの?」


友人「あぁ、そのことね。そうそう、あんたに伝えないといけないことがあって…」


響「何?」


友人「軍服の人魚姫のことなんだけど、あれもうウチだけで解決したわ」


響「…本気で言ってる?」


友人「当たり前でしょ」


響「マジか。じゃあ、その内容送ってくれない?」


友人「いいけど、意外かも。アンタこういうのに興味あるんだね」


響「いや、興味はないけど。ただ、わざわざこんな船に乗せられることになったきっかけだし、知りたいってだけ」


友人「こんな?なんかあったわけ?」


響「殺人事件だよ。もう疲れた」


友人「あらそう、じゃあ頑張ってね。バイバイ」


響「バイバイ」


殺人事件に巻き込まれていることを受け入れるとは。なんて恐ろしい女だ。直近だと蜘蛛屋敷ぐらいか、一緒に巻き込まれたのは。鞍馬 凪(くらま なぎ)、なんて恐ろしい。


そのことはさておいて、軍服の人魚姫のことだ。何かこれで分かるといいのだが………


………………嘘だろ!?


どんな真相だ。まったく。


いや、ここで悪く言っていいもんではない。これのおかげで、犯人は一人に絞れた。まだ可能性に過ぎないが、ほとんど決まったと思っている。


こんなマイナーな都市伝説、あの人以外に知っている人がいるとは思いがたい。


あとは、そのことをハッキリと証明しないといけないのだが、ここが上手くいくかは分からない。それでも、やるしかない。覚悟しろよ、「軍服の人魚姫」。

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