第14話

しかし、どうしたものか。薄々こうなるだろうとは思っていたが、いざ起こってしまうとどうすればいいのかが分からなくなる。


とりあえず、まずは全員を一箇所に集めることを優先させた。殺人鬼がマーメイド号にいるかもしれない以上、単独行動は控えておきたい。それに、まだ殺害のターゲットは残っているかもしれない。不安はひとつでも多く消しておきたいのだ。


上手いこと説得をして、なんとか全員で集まる口実を作り出した。殺人鬼を野放しにしている方が危険だとか、一人でも多い方が解決できそうだとか適当なことを言ったが、やはり納得してくれない人もいた。そんな彼を納得させるための言葉が、これだ。


響「どうせ寝れないんですし、一人でいる意味なんてないのでは?」


何を言っているのかが分からないって?奇遇ですね。私も分かりません。分からないが、この言葉でようやく納得してくれたので、結果的には良かったのかもしれない。


私たちは、食堂へと向かった。互いの顔を見ながら会話できるため、個人的にはありがたい。アリバイや証拠を集めるには効果的だからだ。


しかし、正常な感性をした人にとってはそれどころではないらしい。落ち着いた様子ではなかった。すぐそこに殺人鬼がいるかもしれないという状況で落ち着けというのも無茶だとは思うが。


そんな中で、たった一人だけ、私と同じ感性をした人がいた。青井さんだ。他の人が冷静さを欠いていた中で、彼はそれまでとまるで変わらない様子だった。


蒼介「さて、響さん」


青井さんが話し始めた。


蒼介「これ、どうするんすか」


赤音「どうするって、何よ」


蒼介「殺人事件っすよ?そんなことが起きて、何もしないなんて危ないんじゃ?」


進次郎「フン、偉そうに言えたもんだ。そんなことを言えるぐらいなら、何か考えはあるんだろうな?」


蒼介「いや、何もないっすけど」


進次郎「だったら何も言わないでくれないか。 かえってイライラさせられるんだ」


蒼介「えぇ〜………ごめんなさい」


黄島さんが青井さんに対して怒りをぶつけていたが、とてもだが見ていられなかった。青井さんは悪くないのに、なぜ責め立てるのか。


そんな黄島さんの態度に、近くにいただけの私がイライラさせられた。そう思い、彼に言い返すことにした。青井さんを庇うというよりも、黄島さんに嫌がらせをしたいといった気持ちのほうが強かった。


響「黄島さん、あなた言い過ぎじゃないですか」


進次郎「なんだ、女のくせに!黙ってろ!」


響「は?嫌ですけど」


進次郎「じゃあなんだ、何か解決策でもあるっていうのか?」


響「いや、そういうのは特にないですけど」


進次郎「だったら尚更何も言わないでくれ!」


響「だから、今考えているんです。それより、なんでそんなにイライラしているんですか?」


赤音「確かに、やたらと機嫌悪そうね」


拓次「何か隠してるんじゃないのか?ほら、言ってみろ!」


進次郎「うるさい!私は、お前らのような凡人とは違うんだ!」


ここまでくると、さすがに見苦しい。よくある、「自業自得でありながら危険が迫ると自暴自棄になる系のクズキャラ」的なやつだ。


…待てよ、まさか。


響「黄島さん、あなたに聞きたいことがあります」


進次郎「なんだ」


響「あなた、もしかして犯罪歴とかあるのでは?それもかなり重たい罪の」


進次郎「は!?な、なにを言ってるんだ、そんなわけ」


響「無いならいいんですけどね?ただ、探偵としての経験を踏まえると、こういう時に余裕がない人って、だいたい前科持ちなんですよ。で、本当に何もないんですね?」


進次郎「あるわけないだろ!いい加減にしろ!」


響「あ、そうですか。じゃあ、この話は終わりにしましょうかね」


やりすぎただろうか。あまりにも怪しかったから、何か炙り出せそうだと思ったのだが、そうはいかない。怪しいけども。


しかし、これ以上詮索しても無駄だろう。仕方がないので、別のことを訪ねよう。探偵として、事件を解決しなければならないし。


響「じゃあ、私からひとつ、皆さんに協力してほしいことが」


緑「協力?」


響「まだ詳しくは言えませんが、一人一人聞きたいことがあって。いいですよね?」


進次郎「まったく、仕方がないな。こればかりは、協力してやろう」


恐らく、一番の鬼門だった黄島さんの協力をなんとか得られたので、私のやろうとしていることはスムーズにいけそうだ。


銃声が鳴った時のアリバイと、過去に巻き込まれた事件。この二つについて聞くことにした。犯人と思しき人物を絞るには、こういった地道なことをする必要がある。


というわけで、聞き込み開始だ。友人から連絡が来ていたが、それはまた後で相手することにしよう。

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