第12話
マーメイド号の銃声 file12
目の前にある玉に狙いを定めて、集中して、正確に…
スカッ
赤音「あんたどんだけ下手くそなのよ」
イソク「えーっと、今ので何回目ですっけ?」
赤音「六回目。しかも、全部ミスってる」
響「うっ」
赤音「自分でビリヤードしようって誘っておいて、ここまで下手なことある?」
イソク「しかも、ルールとか関係なしに、ただ玉を打とうってだけなのに」
響「んぐっ」
赤音「それに、あんなに至近距離で外してるの、意味が分からないわよ」
イソク「構え方は上手そうなんですけどね…」
響「ああぁぁ」
緑「もうやめてあげて!?そろそろ響ちゃんのメンタル壊れるよ!?」
緑さん、こんなこと言えたもんではないのですが、もうとっくにメンタルはボロボロです。誘っておいてこれとは。ここまでビリヤードに向いてないとも思っていなかった。
赤音「これじゃ、ルールがどうとか言ってる場合じゃないわね」
イソク「そこまできっちりとしないでよかったですね」
緑「んー、それはそうなのかも」
ついに緑さんが私の擁護をしなくなってしまった。味方がいない。
食事を終えて、私、緑さん、鈴さん、イソクさんの四人はプレイルームに入ってビリヤードをしていた。発案者は私だ。一番下手なのも私だ。どうなっているんだ。
こうなるぐらいなら、ビリヤードなんて提案しないほうが良かっただろうか。かといって、他に何があるのかといったところではある。全員で楽しむようなものが思いつかない。
あるとは思うのだが、何も思いつかなかった。その結果がこれだ。こんな展開はさすがに予測しようがない。
その後もビリヤードを続けたのだが、一向に上達しなかった。途中から青井さんが入ってきたが、青井さんからも「え?…………え?」と困惑しながら言われてしまった。
その様子の酷さを見かねられて、何か別のゲームをすることになった。申し訳ない。どのゲームをするのか、というところだが、結局はトランプに落ち着いた。
まずはババ抜き。最初にジョーカーを持っていたのは私だ。しかも、最初の段階で一枚も揃わなかった。また負けるのか、そう思ったが、ここは上手に相手を欺いて勝った。
一人、二人、三人と抜けていき、残ったのが私とイソクさん。なんと、それまで一度もジョーカーを引かれなかった。しかも、イソクさんは二枚、私はジョーカーを含めた三枚。勝つために重要なのは、ここからの逆転劇だ。
イソクさんが私の手札からカードを引く。ここでジョーカーを引かれなかった場合、イソクさんが残り二枚で私が残り三枚という状態から、まず一組揃い、私が最後の一枚を引き、負ける。
つまり、ここで相手にジョーカーを押し付けなければならない。三分の一だ。相手が気が付かないようにしつつ、ジョーカーを引かせる。難しいことだが、やってしまった。
そして、ジョーカーを引かせることが本当に成功したわけだ。そして、私が一組揃えて、そのまま逆転勝ちというわけだ。
イソク「うわぁ、やられた」
蒼介「すごっ、どうやったんすか?」
響「そんなに手の込んだことはしてませんよ。ただ、相手に思い込みがされていると想定して行動しただけです」
イソク「思い込み?」
響「私が最初からジョーカーを持っているということに気がついていたのでは、と私が予測したんです。そして、ずっと一番左にあるカードばかり引かれない。だから、一番左のカードがジョーカーだと予測されていてもおかしくないと思っていました」
蒼介「ちなみに、一番左がジョーカーなのは?」
響「これは本当です。そして、一対一になった時に、わざとカードの並びを替えるふりをしたんです。そして、一番左のカードをやや相手の方によせる。こうすれば、ここにジョーカーがあるから引いて欲しいという気持ちがあると思い込ませることができるんです」
イソク「え?でも、僕が引いたのが一番右だったのに、なんでですか?」
響「単純ですよ。『一番左がジョーカーじゃなかった』というだけのことです。たまたま一番左ばかり引かれなかったし、そこに引いたカードを入れなかったので、別のカードがジョーカーだってバレなかったというわけです」
赤音「これが探偵の底力ってやつね…」
イソク「これは勝てないなあ」
運が味方したというのもあったが、今回は間違いなく私の勝利だ。探偵のことを舐められては困る。
そこから、トランプを使ったゲームをし続けた。ババ抜きでイキっておいて、七並べでぼろ負けするというギャグのような展開もあった。そうして、時刻は丁度日付が切り替わるぐらいだった。
蒼介「あ、もうこんな時間。それじゃ、俺は寝ます」
赤音「じゃあ、私もそうしようかな。はぁぁ、いい男なんていなかったなぁ…」
イソク「僕も、もう寝ます。また明日」
響「はい、また明日。おやすみなさい」
緑「おやすみー」
プレイルームに残っていたのは私と緑さんの二人だった。私も本当は寝るつもりだったのだが…
緑「ねぇ」
響「え?どうしました?」
緑「響ちゃんに、話したいことがあるの」
響「話したいこと?」
緑「私とおじさんのこと。気になってたでしょ?」
響「…まぁ、正直に言うと、とても気になってますね」
緑「やっぱりそうだよね。だから、誰もいないうちに、話しておきたいの。いい?」
響「は、はい、わかりました」
そう答えると、彼女は話を始めた。彼女の身に何があったのかを。
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