第10話
___三時間ほど経過した。
緑「やったー!また私が勝っちゃったね!」
イソク「また負けるとは…もう一回、もう一回だけお願いします」
緑「えぇー?そんなこと言って、まだ勝てると思ってるの?」
イソク「うぐっ」
緑「ま、どーしてもってことなら、特別にいいよ。響ちゃんも、それでいいよね?」
響「…もう勝手にして」
ずっとこんな調子だ。緑さんが勝って、イソクさんがリベンジを申し込む。何回このやり取りを見させられたことか。見るだけでも十分に飽きる。
思えば、もっと早いうちに止めておくべきだったかもしれない。二回、三回というのはまだいい。今ので何回目だ?五回目から数えてすらいないから、どうなのかが分からない。分からないままでいいかもしれない。もうどうでもいい。
イソク「僕からもお願いしますよ。あと一回だけでいいので」
響「あなたそれ何回目ですか。もう勝てないものは諦めて割り切った方がいいですよ」
緑「だってさ。これはもう、降参、するしかないんじゃない?」
イソク「うぅ、こんなことで、諦められない…!」
私がお願いしたいぐらいだ。諦めてくださいと。付き合わされる私の身にもなってくれ。
すると、突然放送が鳴り出した。
機械音声?「皆様、夕食の準備が出来ました。二回にあります、食堂へ起こしください」
無機質な女性の声だった。よくある機械音声だろうか。今日会った人の声は、誰一人として似てもいなかった。
緑「あれって、誰の声かな?」
イソク「なんとなく、機械音声っぽいですけどね」
響「私もそう思います。私が今日話した方は、あんな声ではないので」
緑「じゃあ、あれは機械かー」
響「多分そういうことになりますね」
緑「…機械あるのに、動き出す時にアナウンスしてたんだね、整備係の人」
言われてみれば、確かにそうだ。青井さん、かなり忙しいんだろうな。頑張れ。
私たちは、プレイルームから持ち出した道具を持って、二階へと向かった。そこにプレイルームもあるし、片付けようと考えたわけだ。
そのときに、気になっていた部屋割りをしっかりと確認した。そんなことをいつ気にしたのかって?二人のリバーシ対決を見ることに飽きていた間に考えた。
階段を基準にしたときに、左側に私の部屋はある。そこから奥に行くと、青井さん、黒子さん、緑さんの部屋と続いて、最後は倉庫だ。右側が、黄島さん、鈴さん、イソクさん、加賀さん、そして、金村さん。
金村 銀史郎。今まで忘れていたが、よく考えてみれば怪しさがとてつもない人物だ。自動で動く船を持っていて、さらに人を招けるときた。富豪という肩書きは驚かないが、実在するのかさえも疑わしい。
思えば、事件の予感がしている原因は、この人の存在が大きいのかもしれない。この人だけは、一度も姿を見ていない。やはり怪しい。さすがに食事には現れると思うし、杞憂かもしれないが。
プレイルームに道具を全て返して、そのまま食堂へ向かった。相変わらず足の踏み場が確保されているだけで、お世辞にも綺麗とは言い難い。というか、普通に汚い。図書室とかは整理整頓されているのに、なぜここだけ汚いのか。
なんとか部屋の汚さに苦労させられつつも、借りたものは元の場所に返せた。気が向かないのでまずそんなことはならないが、気が向いたら掃除しようかな。
そのまま、私たちは食堂へ向かった。食堂は、綺麗な洋風のレストランのような感じだった。真っ白なテーブルクロスがひかれた大きなテーブルが目を引く。その白さのせいで、余計に、プレイルームの汚さを実感させられる。
テーブルの上には、ネームプレートが置かれていた。食事の際に座る席は指定されているらしい。人数も少ないし、そこはあまり驚くようなことでもないが。
私たちは、それぞれ自分の席についた。
響「楽しみですね。どんな料理が出るのでしょうか」
イソク「どうせなら、普段食べないようなものが食べたいですね。海軍式カレー?ってやつ、僕気になってて」
緑「海軍式カレーねぇ。………お父さん」
響「…お父さん?」
緑「えっ?あ!?ごめんごめん、気にしないで!?」
「お父さん」か。何か引っかかる。黒子さんのことはそんな風に読んでいないはずだ。それに、尋常ではない焦り方だ。やはり、何か隠しているというのは間違いないだろう。
こんなやり取りをしていると、続々と人が集まってきた。五分もすれば、全員が揃った。そして、青井さんが一人ずつに料理を置いていく。彼の分まで置いたところで、彼も席についた。
蒼介「はい、お待たせしました。じゃあ、早速、夕飯ってことで」
進次郎「待ってくれ。ひとついいか?」
蒼介「どうしました?黄島さん」
進次郎「金村とかいう男はどうした?あいつの姿がまるで見えないぞ」
蒼介「金村さんは…なんか、あとで一人で食べるらしいっす」
怪しい。どこまで怪しいんだ金村。こんなに疑わしい人物、なかなか会わないぞ。嬉しくなどないがな。
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