第9話

プレイルームには、他に誰もいなかった。まだ船が動き出したばかりなので、まだそれぞれの部屋にいたのか、海でも見ているのか、それは分からない。


しかし、誰もいないという事実は間違いないのだ。そのため、私たちは周りの目を気にすることなく楽しめるのだ。特に、年代が近い者同士であることもあり、楽しくなることは確信できる。


プレイルームには、様々なゲームがあった。ビリヤードや麻雀、トランプをはじめとしたカードゲーム、リバーシなどのボードゲーム、さらにはテレビゲームまである。


おかげで、部屋の中はごちゃごちゃしていた。ビリヤードの台や雀卓などが持ち運べるとは思っていないだろうが、それ以外は部屋にでも持っていけと言わんばかりだった。


しかし、足の踏み場が確保されているのでまだ許せはする。一切の踏み場が無かったら、我慢出来なかったかもしれない。乗客が何を偉そうに言ってるのかというところではあるが。


結局、プレイルームからトランプとリバーシを持ち出した。三人で遊ぶには飽きてしまいそうな量だが、また飽きたら取りに行けばいいという考えなので、大して問題はないという発想だ。


そして、道具を持って私の部屋へと向かった。


緑「ここが響ちゃんの部屋かー。お邪魔します」


響「はいどうぞ……って言っても、私の家でもないですけどね」


緑「たしかに」


イソク「まあ、帰るまではここが響さんの家みたいなものですし、いいんじゃないですか?」


響「それもそうですね」


ここが私の家か。案外悪くはないかもしれないな、とは思った。ベッドもシャワーもあるし、それなりに広い。今の生活が嫌ということではないのだが、ここもここで設備自体は整っているため、生活するうえでの問題点は少ないだろう。


しかし、その考えは、本当にしょうもないものだ。船乗りでもないのに、ずっと船に乗り続けていられるとは到底思えない。やはり、たまに乗るぐらいがちょうどいいのかもしれない。


そして、部屋のテーブルに道具を置いたところで、なにか遊び始めるわけではなく、まずは部屋のつくりについての話になった。きっかけは、緑さんがずっと部屋をキョロキョロと見回していたことにある。


響「どうしたんですか?緑さん。そんなに部屋中を見回して」


緑「そんなに大したことじゃないんだけど、なんか私の部屋と似てるなーって」


イソク「うーん、同じ船ですし、部屋のつくりが似ていてもあまりおかしくないのでは?」


緑「そうなんだけど、なんか気になっちゃうんだよね」


響「まぁ、このことを気にしてもどうにもならないんじゃないですかね。部屋のつくりが同じだからといって、何か特別なこともないでしょうし」


緑「それもそうだね。じゃ、このことはおしまいってことで」


適当なことを言ってなんとか話題を変えることができたが、どうしても気になってしまう。まずい。探偵としての癖が出てる。何でもかんでも疑うのは良くない。分かってはいるが、それが出来ない。困ったものだ。


しかし、念の為、部屋のつくりは気にかけるようにしよう。これから入る全ての部屋のをだ。事件が起こる可能性を考慮して、念の為に。


イソク「じゃあ、どれからします?」


響「私はどれでもいいですよ」


緑「私もどれでもいいかな」


イソク「それなら、まずはリバーシで対決しましょう」


緑「おっ、いいねー。私とやってみる?こう見えて、私結構強いよ」


イソク「望むところです。僕も負けていませんよ」


緑「ほうほう、なかなか自身有りげな様子で。キミみたいな子には負けてられないな」


イソク「それは僕のセリフですよ。そこまで負けないと思っているのであれば、僕も手加減なしで行きますよ」


今日出会ったばかりの人たちが、リバーシの勝負ひとつに本気を出そうとしている。もはや、私は蚊帳の外だ。多分、しばらくはいないものとして扱われているのだろう。


緑「よし、それじゃ、響ちゃんにお願いしたいことがあるの」


響「私に?なんですか?」


緑「今から私とイソクくんでリバーシ対決するから、その審判をしてほしいの」


響「…………審判?」


一対一の勝負である以上、誰かが余るのは仕方がないことだ。そうなることは覚悟していた。しかし、まさかの審判とは。リバーシにいるのか?特に、今回はライトな感じなのではないのか?


イソク「響さん、見ててくださいよ。絶対僕が勝ちますから」


緑「言うねー。本当に私に勝てるのかな?」


完全にペースに飲まれている。これは、もう審判をするしかなさそうだ。


響「えっと、審判って、何をすればいいんですか?」


緑「え?何って…」


響「まさか、適当に言ったとかじゃないですよね」


緑「あはは………」


これは適当に言ってたやつだな。やっぱり、今回については、審判なんてものは、絶対に必須というわけでもなさそうだ。

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