第4話

マーメイド号の銃声 file4


次の日、不満に不満を重ねた私が向かったのは、変な店だ。変な店、と言うと伝わりにくいとは思うが、間違ったことは言ってないと思っている。


何が変なのかというと、主に外観だ。店の外にはどこかしらのチェーン店のキャラクターらしき人形とよく見るタイプのソフトクリームの置物、それとどこに売っているのかすらも検討がつかない巨大な折り鶴。


元から把握していないと確実に気づかない……というか、把握していても思わず目と頭を疑う。一応看板もあるのだが、名前しか書かれていないため、何の店なのか分かるはずがない。


「アオイの家」という名前のその店に、私は足を踏み入れた。中は酷く散らかっていて、あまりにも歩きにくい。何度物を踏んでしまったことか。


物音を立てながら店の中を歩き回っていると、一人の男性が出てきた。


蒼介「ん?誰だ?」


響「あ、すみません。お忙しい中」


蒼介「いや、別に暇してたんでいいすけど。それより、なんか用すか?」


響「今度のマーメイド号の初航海に乗るってことを、友人から教えてもらって」


蒼介「マーメイド号……あー、あんたも乗るんすか」


響「そうなんです」


蒼介「その話、また今度でいいすかね。俺いま凄い眠くて」


響「あぁ、そうですか。じゃあ、また明日来ますね」


ものすごく無愛想な人だった。かなりあっさりと断られてしまった気がする。まぁ、次の日に行くことができるので、まだ交流そのものは可能なのだろうと思う。そうであってくれ。話が進まない。


翌日になり、再びアオイの家に向かうことにした。昼間の閑散とした電車に揺られながら、今度こそは相手してもらえるだろうかと不安になっていた。


電車を降りて、駅を出る。そこから歩いて20分ほどの場所に店はある。最初は大通りといった感じで、とても賑やかな雰囲気があるのだが、気がつくと昼間なのに少し薄暗いと感じるような裏路地に入っていた。


そんな裏路地の中でも、石田の家は一際目立っていた。不気味さすら感じるが、周りと比べて賑やかなのは間違いない。


勇気を出して、店の中に入った。相変わらず中は散らかっていた。商売をする身なら、少しぐらい整理しろよとは思う。


昨日に引き続き散々物を踏みつけて、昨日と同じところに着いた。そこにいたのは、例の男性だ。見た目は昨日とそこまで変わらないのだが、話した印象は大分違った。


響「こんにちは」


蒼介「こんにちは。あ、もしかして昨日のお客さん?」


響「そうです」


蒼介「昨日はすみませんね。あまりにも疲れていたもので」


疲れていたのなら仕方ない……のか?あまり気にしすぎるのも良くないとは思うが、昨日の無愛想さ(というか無気力さ?)を知っていると、本当に同一人物なのか疑わしい。


蒼介「それじゃ、一応自己紹介を。俺は青井 蒼介(あおい そうすけ)。便利屋やってます」


たった今本人から説明されたが、この人は便利屋をしている。便利屋と言われても、あまりピンとこないが。


響「私は日野 響。探偵やってます。こちらこそ、よろしくお願いします」


蒼介「探偵?普段何してるんすか?」


響「まぁ……色々ですかね……」


さすがに「殺人事件解いてます」なんてことは言えない。別に、毎回殺人事件だとは限らないのだが。


響「そういう青井さんは、何をしてるんですか?便利屋って言われても、あまりピンとこないというか」


蒼介「そりゃそうでしょうね。便利屋なんて、俺も会ったことないですもん」


響「じゃあ、なんで便利屋を名乗ってるんですか?」


蒼介「俺の仕事的に、何かっていう職種の説明が難しいんすよ。で、とりあえず便利屋ってことにしようと」


響「はー、なるほど」


蒼介「何でもやりすぎて、俺自身が理解出来なくなってるんすけどね。仕事として何してんのか、さっぱり分かんないですよ」


よくそんな状態で仕事続けられるな……。これがプロってやつなのだろうか。


蒼介「それで、要件は何でしたっけ?」


響「そうだ。マーメイド号についてのことなんですけど」


蒼介「マーメイド号……。あー、多分俺に聞いても微妙なんじゃないすかね」


響「微妙?なぜ」


蒼介「俺は別に乗客として呼ばれた訳じゃないんすよ」


響「乗客じゃない?」


蒼介「俺、船の整備士扱いで乗ることになったんすよ。一応、自由時間自体はあるっぽいすけどね」


確かに、明確に仕事があるのなら、普通の乗客と違うというのも間違いではないか。


蒼介「なんか、俺に聞きたいこととかある感じすか?」


響「そうなんですよ。『軍服の人魚姫』ってご存知ですか?」


蒼介「軍服……どこかで聞いたことある気はするんすけどね。よく分かんないっす」


響「そうでしたか。すみません、こんなこと聞いちゃって」


蒼介「気にしないでいいっすよ」


響「じゃあ、用事も済んだので、私は失礼します」


蒼介「あー、マジすか。じゃ、また今度」


こうして、ただ挨拶を済ませただけで店を出た。帰りの電車は、少しばかり人が増えた気がする。その電車の中で、こんなことを考えた。


まさかとは思うが、友人がここに行かせたのは、何か意図があるのか?だから、わざわざマーメイド号で会うはずの人の所に行かせたのではないか?


そんなことを考えたが、最終的にはそんなことどうでも良くなった。私がマーメイド号に乗って、軍服の人魚姫を調べることは確定してるので、今更何か意図があると気づいたところで、何か特別なこともないだろう。


そう思い、瞼を閉じた。全く関係ないが、この後3駅ほど寝過ごした。

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