第3話

さて、軍服の人魚姫について調べることが確定したわけだが、問題はどのように調べるかだ。ネット上にサイトがある以上、ある程度なら彼女も知っているはずなので、それを調べさせるなら、私が調べる難易度はかなり高いように感じる。


というわけで、具体的にどうすればいいのか聞いてみることにした。


響「調べ方とかどうすればいい?」


友人「調べ方とか好きなようにやっていいんだけど」


響「簡単に調べられるやつなら知ってるかなと思ってさ。どう?」


友人「うわ真面目。ちょっと引くわぁ」


引くな。


友人「ま、せっかくだし、いいものをあげよう」


響「いいもの?」


友人「画像送るから、それ確認して」


送られてきた画像には、なにかのチケットがあった。いまいち分からなかったが、船のようなものがあったことから、乗船券なのかと思った。


響「これって何?船のチケット?」


友人「そそ。マーメイド号ってやつの」


響「なんでそんなもん持ってんのさ」


友人「なんか、招待状として貰ったんだよねー」


響「招待状?」


友人「このマーメイド号ってのが、新しい船なんだって。それで、完全自動航海技術の開発記念として、今度初航海するの」


響「だったら、尚更あんたみたいなただの妖怪オタクがもらったのは変じゃない?」


友人「そうなのよ。ウチもしょーみあんまりよく分かってないけどさ、こんな手紙が添えられてたの」


彼女から、手紙の写真が送られてきた。そこには、濃い、太い文字でこのように書かれていた。


???「あなたには、マーメイド号の初航海に特別にご招待されました。同封されているチケットに書かれている日にこちらにお越しください」


その手紙の差出人の名は、金村 銀史郎(かねむら ぎんしろう)。調べても、その正体が謎の富豪であるということしか分からない。よっぽど、この人のほうが都市伝説であるのではなかろうか。


響「なるほどね」


友人「このチケットさえあれば、マーメイド号に乗れる。そうすれば、軍服の人魚姫に近づけるはず!」


響「軍服の人魚姫とマーメイド号のふたつに、関係とかあんの?」


友人「あるよ、大ありよ。実はね、このマーメイド号、軍服の人魚姫から名前を取ってるの」


響「あー、そういうことね」


友人「だから、もしかしたら軍服の人魚姫について、何かしら分かるかと思ってね」


このときは、正直感心していた。自分の趣味についてここまで真剣になれること、これが私にとってはなんとも難しい。私に趣味といえるものがないから、このように感じるのだろう。


しかし、肝心なことを忘れていた。軍服の人魚姫について調べるのは私だ。つまり……


友人「じゃ、今度これ渡すわ」


響「え?」


友人「え?」


響「え、あんたが乗るんじゃないの?」


友人「アホかアンタは。昼食奢るから調べるって約束やろがい」


響「…忘れてました」


友人「何しとんねん」


響「でも、それあんた宛でしょ?私が行っていいのかな」


友人「いいのいいの。そんなことバレないって」


えらく能天気な人だ。バレたところでさほど問題もないだろうとは思うが、バレる可能性をまるで考慮していないのではないか。それに、それで怒られるようなことがあったら、私に被害が及ぶのだが。


それに、私は早くも嫌な予感を感じていた。謎の富豪による招待状、謎の怪物、自動で進む船。いかにもな事件が起こるシチュエーションではないか。


そんなところに死神を行かせてみろ。連続殺人待ったなしだぞ。少なくとも、割と最近そんな感じの事件があった。それはまずい。なんとしてでも阻止しないと、また惨劇が起こってしまう。


響「いやー、正直きついかな…」


友人「きつい?なんでよ」


響「なんていうかさ、殺人事件とか起こりそうな気がしてさ」


友人「確かに、犯人の肩書きとかにありそうな感じするもんね。『軍服の人魚姫』とか、しっくりくるかも」


響「というわけなので、マーメイド号に乗るのはお断りさせてください」


友人「だめ」


響「お願いだから」


友人「諦めて」


響「殺人事件起こったらまずいから」


友人「あのさ、まるでウチだったら安全みたいに思ってるじゃん。一応言っとくけど、ウチも大概事件巻き込まれがちなの」


なんだその不幸自慢。


友人「はい、これに反論は?」


響「ありません」


友人「じゃあ、絶対行ってよ」


駄目だった。結局、マーメイド号に乗ることが確定してしまった。


友人「一応、便利屋やってるっていうオッサンがいるっぽいし、その人に会ってみたら?」


響「そうなんだ。わかった」


友人「じゃ、あとはヨロピク☆」


クソが!なにが「ヨロピク☆」だバカにしてるだろ。行くことになったし、もう諦めるけどさ。

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