第6話恋の芽生え

週末、長谷川は少し残業して、同じくこの繁忙期の残業をしている竹内に近付き、

「お陰様で、お腹の調子が良くなったよ。一緒にどうだい?」

と、長谷川飲むジェスチャーをした。

「あっ、もうこっちは終わりますけど、長谷川さんは?」

「面倒くせぇ仕事に限って、金曜日の午後に依頼されるんだ。こんなん、今日終る訳無いから、諦めて月曜日に回すよ」

「じゃ、行きましょう」

2人は帰り支度をして、一緒に会社を出た。

「竹内、この前の話だが、オレに話って何?」

「今、ここでは言えません。お店で」

「今から行く店は、たこ焼き居酒屋だよ」

「へぇ〜、珍しいですね」

「蛸ん壺って店だ」


2人は電車で向かった。

店内には、3人の先客がいた。ここは、6人入ると満員だ。運が良かった。

「さぁ、たこ焼きでビールだ!」

2人は乾杯して、ビールを飲み始めた。

「あの、薬は効くね。ポリフルって薬」

「良かった〜。やっと、長谷川さんの悩みが消えて。安心です」 

「で、竹内。いくら渡せば良いのかな?」

竹内はアツアツのたこ焼きに顔をしかめ、ビールで流し込んだ。

「……何の事ですか?」

「言ってたじゃないか!大事な話って。お金だろ?」

「長谷川さん、……ここのたこ焼きめっちゃ美味しいです。え、お金なんて関係ないですよ。私は、コツコツ貯めてますから」

長谷川は頭を捻り、ほうれん草とアサリのヌタを食べた。

「えっ、じゃ、何だよ?教えてくれよ!」

「この店出たら、教えます」

「焦らすなよ〜。オレはイボ痔だけど……」


「これ、お姉さんに」

と、大将が竹内に生牡蠣を出した。

「ありがとうございます」

と、言って、直ぐにつるんっ!と、牡蠣を食べた。

「いいなぁ、お前は」

「マスター、ありがとうございます。美味しかったです」

「長谷川の旦那のお友達だからね。これからも、たまには来てね」

「はい」

大将は、タバコを吸いながら言った。

2人は蛸ん壺に2時間ほど滞在して、店を出た。5420円だったが、大将が5000円で良いよ、と言った。

2人はお礼を言った。


2人はプラプラと、次の店に向かって歩いていると、

「長谷川さん、今、言いますね」

「やっとか!」

「長谷川さん、私はあなたが好きです」

長谷川は笑った。そして、タバコに火をつけた。

「またまた〜、心にも無い事を」

「長谷川さん、本気なんです」

「マジで?」

「マジ」

「この、下痢男で44歳のオッサンのどこが良いのさ〜?」

「そう言うとこです。あっ、2軒目は私の行きつけの店でいいですか?」

長谷川はちょっと驚き過ぎて、

「い、いいよ」

とだけ言った。竹内が紹介した店は、きったねえ外観の中華屋だった。

何やら、知り合いが店長らしい。

また、2人はビールを飲みながら話し始めた。外観の割には、店内は清潔感溢れる店であった。

「竹内、オジサンにドッキリとかじゃないよね?」

「はい、違いますよ」

「まさか、会社の罰ゲーム?」

「長谷川さん、よっぽど信じて無いんですね」

「44歳のオッサンと、23歳の女の子のカップルは無理だと思うけどな。最近、オレは獣の臭いがするんだ。息は歯槽膿漏で臭いし」

竹内は笑いながら、ピータンを口に運んでむせた。

いい感じで飲んでいたが、長谷川の頭に電撃が走った。

「竹内、ちょっとトイレ行ってくる」 

長谷川はトイレに向かった。

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