第3話相談

「おはようございます、長谷川さん」 

「お、おはよう、竹内。……あ、あのさぁ、お腹の事なんだけど」

と、長谷川は腹を擦りながら、

「良い病院探してくんない?もう駄目」

竹内はここぞとばかり、

「任せて下さい。先輩。休み時間に探します。過敏性腸症候群の治療ですよね?」

「オレが妊婦に見える?」

「ちょっと、出てますよね。お腹」

「あのさぁ〜、オレは44歳なの。20代の時はシュッとしてて、カッコ良かったんだから」

と、長谷川が反発すると、

「……まあまあ、今もカッコイイですよ!」 

「どこが?ねぇねぇ、どこが?」

「……歯ぐき」 

「あ、あぁ〜そうかい。竹内、頼んだよ。僕も探したんだけど、決め手が無い」

長谷川は名探偵の様に呟いた。

「私、ホームズ好きですよ。先輩はホームズ、私はワトソン君ですね」

「じゃ、夕方。一緒にまた食事しようか?お礼に」

「はいッ!」

長谷川は、自分のデスクに向かうと思われたが、トイレに向かった。


昼休み、竹内は病院を検索した。

消化器内科のある病院をチェックしたり、担当医の出身大学まで検索していた。

この街で一番の病院を発見した時は、ヤッターと叫びたくなった。

『種田病院・消化器内科・担当医は水谷卓。東都大学医学部卒。』

定時になると、竹内は会社の正門に立っていた。

「持たせたな、竹内。首尾はどうだ?」

「抜かりはありやせん」

「そうか、今からだるま寿司だ!」

2人はタクシーに乗り、だるま寿司に向かった。

車内で話しをした。

「長谷川さん。もし、ホントに過敏性腸症候群を治したいなら、お酒辞めなくてはいけないでしょうね」

と、竹内は呟いた。

「それなら、病院行かない。せめて、少量でいいから酒を飲んでもいい、病院を探す」

竹内は、深いため息をついた。


寿司屋に着くと、長谷川は支払いして2人して暖簾をくぐった。


へい!らっしゃい!あ、旦那!お久しぶりです。


大将は長谷川の顔見ると、破顔した。

「旦那、今日はかわいいお姉さん連れてナニ〜」

「良いじゃねぇか!ビール、2本取り出すからな」

「すいやせん」

ここの寿司は、大将とバイト君1人の2人で切り盛りしているので、店の手間を省く為に常連さんは、業務用冷蔵庫から瓶ビールを取り出すのが、ある種のマナーになっていた。

「じゃ、最初の一杯だけだよ」 

と、長谷川は言って竹内のグラスにビールを注いだ。

竹内は、ありがとうございますと言った。

乾杯して、後はめんどくさいので、大将のおまかせにした。


「で、病院はどこ?」

「この街の外れに、種田病院を発見しました。担当医は、水谷卓。東都大学医学部出身です」

長谷川は、お通しの煮物を食べながら、

「良くやった。来週、有休使ってその、種田病院とやらを受診する」

「私も行きます」

「おいおい、オレはガキじゃ無いんだよ。44歳のおじさん。それに、23歳の女の子を付き合わせたらバチが当たるよ」

「心配なので、付いていきたいんです。ダメですか?」

長谷川は、一瞬何かを言おうとしたが、ビールを飲んで誤魔化した。

知らぬ間に、大将の握りが並んでいた。

2人は取り敢えず話しは辞めて、食べ始めた。

竹内は、回転寿司には慣れていたが、カウンターの寿司屋はドキドキした。

ホントに長谷川は金を持っているのか?自分から、2万円くらい出してくれと言わないだろうか?と、心配した。

種田病院に行く日にちを話し合い、瓶ビールをもう2本長谷川は追加した。

竹内は、子供っぽいオジサンが好きだった。セクハラのセの字も出てこない、こんなオジサンは初めてであった。

大抵のオジサン社員は、お酒が入ると鼻の下を伸ばして話し始める。

そして、会社の歴史を話し出すのだ。

実際、長谷川は若い女子社員から人気がある。

出世は目指さず、一生現場に拘っている。

今の課長は、長谷川に腰が低い。

幹部連中らは、彼に一目置いている。

その、長谷川が竹内に頼る。この、男性は何と言い表していいのか?竹内にとって魅力的なのである。

長谷川が勘定をした。彼女はドキドキした。

「旦那、12000円です」 

「あいよ」

えっ、こんなに飲んで、食べて12000円?

そう、長谷川は安くて、美味しい店を渡り歩くプロなのだ。 

帰りもタクシーで送ってもらった。

来週の金曜日。 

種田病院を長谷川は受診する。

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