第36話 おめでたくない、おめでた【ざまぁ】

――――産婦人科。


 病院に五人で訪れていたが、どうも居心地が悪い……。


 待合室にいるのは妙齢の女性がほとんどで、男は俺だけだった。


 そして彼女たちの視線は俺が石田さんたちを妊娠させたんじゃないか、みたいな物に思えてならない。


 俺は石田みたいに節操のない男じゃない!


 えっちどころか、キスすらしたことのないど童貞なんだっ! って弁明したかったけど、それはそれで恥ずかしいような気がしたのでぐっと堪え彼女たちの俺を蔑むような視線に耐えていた。


「あの……白川くん」


 石田さんが頬を赤らめ、もじもじと指先同士をすり合わせながら、呼びかけてきた。


「どうしたの?」

「ありがとう……付き添ってくれて」

「あ、いや俺が潔白だって証明してくれようとしてくれてるんだから、当然だよ」


「うん……。でも……なんだか私が妊娠したら、付き添ってくれてる旦那さまみたいで、頼もしい……かも」


 なっ!?


「志穂は想像妊娠しちまいそう」

「私は想像じゃなくて、白川くんと実際に……♡」

「ふん! なにをざわざわと話してるの? あなたたちの番よ、さっさっと行ってきなさいよ」


「石田さ~ん、高木さ~ん、島谷さ~ん、どうぞ診察室の中へ」

「「「は~い」」」


 看護師さんの呼びかけで三人は立ち上がると振り返り、俺に微笑みながら手を振ってカーテンで仕切られた診察室へと消えてゆく。


 絵里花と俺だけが待合室に残されてしまって、非常に気まずい。


「こんなことをしても結果は同じだぞ。絵里花と石田が浮気した事実は変わらないんだからな」

「うるさい、うるさい! 優一はパパ活のようにあの子たちにお金を渡してヤってるに決まってるんだから!」


 これ録音しておけば、誹謗中傷でも絵里花から慰謝料取れるんじゃないかと思ってしまう。


「特にあの高木いばらなんて、男に関していい噂がないじゃない。だいたいあの子は高校生としてのモラルが欠けてるのよ!」


 いや、おまゆう!?


 こう言っては彼女に申し訳ないんだけど、以前の高木さんは確かに遊んでそうな雰囲気はしていた。けど、いまは黒髪に染め直して落ち着いていると思う。


 彼女が染め直した理由は謎のままだけど……。


「高木さんは絵里花の思っているような子じゃないと思う。派手な格好をするのも趣味のコスプレが関係しているかもしれないし」


「そりゃ、優一はあの子の肩持つに決まってるわよね。だって都合よく抱かせてくれるサセ子なんだから!」


「絵里花……俺のことをいくら貶そうが構わないが、俺の友だちを悪く言うのは許さない。口を慎んでほしい」

「ふ~ん、優一はあんなのがいいんだ」

「俺は絵里花以外の女の子なら大歓迎だね」


「なっ!!! あんたね……」


 フェイクレザーの張られた長椅子からがたっと大きな音を立てて、立ち上がった絵里花だったがちょうど看護師さんからお声がかかった。


「佐々木さ~ん、どうぞ」

「覚えてなさいよ、私を侮辱したこと許さないんだから!」


 俺を侮辱し続けたことはいいのかよ……。


 絵里花の媚びぬ! 引かぬ! 省みぬ! という姿勢にため息を漏らしていると入れ替わりで石田さんたちが出てきた。


「絵里花、残念だったな。あたしたちは全員シロだ」

「嘘よっ!!! なんで他の二人はそうでも、あんたがシロとかおかしいでしょ!」

「医者がシロって言ってんだから、しゃーねえだろ。つか早く行けよ。あとが支えてんだ」


 渋々、絵里花は看護師さんに伴われ、診察室へと入っていった。


「まさかいばらさんが処女だったなんて、信じられません。てっきり一万人くらいお相手されてたのかと」

「んなに相手できるかっ! あたしを何だと思ってんだよ」


「い、痛いれふぅぅぅ~」


 高木さんは島谷さんの両頬を摘まんで引っ張っていた。


 パチパチパチパチパチパチ~♪


「なんだろ?」

「「「さあ……?」」」


 俺たちが絵里花の診察結果を待っていると、診察室から拍手が湧き起こり、みんなで首を傾げながらも、耳を済ますと、


「佐々木さん、おめでとうございます。ご懐妊ですよ」


 そんな声が漏れてきて、俺たちはお互いの顔を見合わせた。


 まさか俺が石田さんたちの誰かとえっちしたんじゃないかっていうチキンレースを仕掛けてきた絵里花が妊娠していたとか、ブーメランすぎて吹き出しそうになる。


 相手は言うまでもなく石田に違いない。



 診察を終え戻ってきた絵里花の顔は蒼白で、にこにこした看護師さんの顔とは真逆だった。


「良かったな、絵里花。おめでとう! 俺じゃなく、石田と幸せに暮らせよ」


 もう俺たちの潔白が証明されたので、病院に長居するのもなんだからと絵里花に一言だけかけて帰ろうとするとわけの分からないことを言いだした。


「優一が私の寝ている間に襲ってきたのよ。ま、まあ許婚だから、今回は許してあげる。でも次はちゃんと言ってほしいんだからね」


「絵里花さ、バルキューバの社員寮は防犯カメラが完備されてるんだ。調べたら、すぐにうそだと分かってしまう。悪いことは言わない、絵里花のご両親に本当のことを話すんだ」


「いやっ、いやっ! そんなこと言ったら、パパとママが私を許してくれない。ねえ、お願い……この子は優一の赤ちゃんってことにしてくれない? そうすれば、やり直してあげるから……」


「は? 俺がいつ絵里花と寄りを戻したいなんて言った? 勘違いしないでほしい、俺はむしろ絵里花とずっと別れたいと思ってたんだよ」


「うそよっ! こんなにかわいい私が彼女どころか、優一みたいにキモオタのお嫁さんになってあげるって言ってるのにまさか断るとか、言わないわよね?」

「ああ……断る!」


「えっ!?」


「絵里花、ありがとうな。俺……絵里花がいなかったら、ここまで何でもできなかったと思う。色々とパワハラやモラハラ紛いのことはされたけど、鍛えてもらったことには感謝してるから。絵里花は絵里花で石田と仲良くやってくれ」


「別れたくないぃぃぃ……い、いまさら都合のいいことかもしれないけど、渉なんかより優一の方が何倍……いいえ、何百、何千、何万倍もいい男だと分かったの……私たちって最高に相性のいいカップルだったでしょ? ねえ、いまからやり直さない? 私みたいにいい女……そうそういないわよ。優一に婚約破棄を撤回させないと実家に連れ戻されちゃうのよぉぉぉ~!!!」



【知らんがな】



 突如として俺に関西弁の突っ込みが浮かんできたのだった。


―――――――――あとがき――――――――――

種の監督繋がりといいますか、クロスアンジュにて身体検査という名の○辱が行われちゃってました。実際、身体検査で処女かどうかは個人差もあり、はっきり分からないらしいのですが、一応本作では判別がついたという体で進めております。


そういや無印種ガンダムのOP歌ってたVo.さんもデキ婚で抜けてしまったような記憶が……。いや気のせいだ、気のせい。

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