第35話 寄りを戻そうとしてももう遅い!

――――パーティー会場。


 佐々木社長は意識をすぐに取り戻したみたいだったが、絵里花たちのテーブル席はまるでお通夜みたいに沈み込んでいた。


 一方、お酒も入り饒舌となった父さんは種明かしをしてくれていた。


「半友好的TOBとでも言っておこうかな。実はバルキューバの佐々木社長を除く、役員と社員から相談を受けていてな、社長のごり押しで進めたバルキューバフォンの失敗の責任を取るどころか居座り続け、このまま倒産することを危惧した彼らから買収を持ちかけられていたんだよ」


 なるほど! それで父さんは俺を問い質した日からほとんど家に戻らずに、やつれていた表情でいたのか。


「ただ……私の決心がつかなかったこともあって、遅くなってしまった。それに今回は徹夜が続いて……どうやら電池切れらしい……」

「あらあら、一磨さん。こんなところで寝ちゃって、子どもみたいにかわいいんだから♡」


 ふら~っと寝落ちしてしまう父さんを母さんは抱き寄せ、胸元で父さんの頭を受け止めていた。


「優くん、希美ちゃん、できるとしたら弟か妹、どっちがいいかしら?」

「「えっ!?」」

「や~ね、冗談よっ、うふふ」


 母さんの笑えない冗談に希美は厨二病は鳴りを潜め、年頃の乙女らしく顔を赤くしている。


 父さんの体調が回復したら、もしかしたら……。いやいや今は考えないでおこう。


 うちの家族が増えるかもとか思っていると石田さんが声をかけてくれた。


「白川くん。こんな言い方するとおかしいんだけど、婚約破棄おめでとう」


「ありがとう、それもこれも石田さん、高木さん、島谷さんのおかげだから。俺一人じゃ、絵里花の奴隷のまま高校を卒業と同時に地獄の結婚生活を送っいたと思う」


「気にすんなって! あたしもだが、志穂も萌も白川に助けられたんだ。こいつは恩返しの一歩手前ってとこだな」


「そうそう、まだ誰も白川にあげてませんからね♡ やっと勝負のスタートラインに立ったっていうか、キャハッ」


 島谷さんは言い終わると目を瞑りながら頬を両手で押さえていた。


「さすが盟友であるな! 数々の民草を救うとは……では我が輩エカテリン・テネブラエールが祝杯の先鞭を取ってやる。一堂、我に続け!」


 希美はぶどうジュースの入ったグラスを手に取ると俺たちに乾杯を促した。


「盟友ヴィンセントの完全なる勝利に祝福を!」

「「「「祝福を!」」」」


 チーン♪


 お互いに合わせたグラスの音色は奴隷解放を告げる鐘の音に聞こえ、飲み干すサイダーは勝利の美酒に思えた。


「あ、あの……宴もたけなわともうしますが……」


 司会のお姉さんが顔を引きつらせながら、パーティーを締めようとしたときだった。


 目を開けた佐々木社長は絵里花とその母親に肩を借りて、会場をこっそり抜けようとしていたのだが、社員たちに取り囲まれている。


 完全に怒りの矛先が絵里花一家に向いてしまったらしい。


「社長! もう我慢なりません! 夜遅く残業を終えて帰ってきて寝ようと思ったら、絵里花さんの声が聞こえてきて、眠れないんですよ」


「そうだ、そうだ! 注意しようものなら『パパに一言でも言ってごらんなさい、あんたなんて首なんだから』って凄まれたんです。酷いじゃありませんか!」


 社員さんたちの醸し出す雰囲気にヤバさを感じて、そばに寄ると絵里花は涙目になりながら、訴えてくる。


「ち、ちがうから! 私は優一とその……愛情を確かめ合っていただけよ、ね? ね? 優一……お願いだから、ちゃんと答えて。私はあなたの許婚で幼馴染なのよ」


 もう石田とガンガンお付き合いしてる動画が流れちゃってるのに、詰められて俺に助けを求めてくるとか、都合が良すぎるとしか言いようがない。


「絵里花、いままでありがとうな。だけど、絵里花に好きな奴ができたなら、俺はいらない子なんだよな? だったらお互いけじめをつけて、婚約破棄を破棄するのが一番だ」


「なんで今まで私をいつもかばってくれていたのに、かばってくれないのよ!」


 ダメだ、もう絵里花は救いようがない。呆れて物が言えないでいると島谷さんが俺を擁護してくれていた。


「部屋に出入りしていたのは白川くんじゃなくて、動画に映ってる目つきの悪い男ですからね」

「そして絵里花に出入りしてたんだよな」

「高木さん……恥ずかしい……」

「あたしだって恥ずいよっ!!!」


 みんなが絵里花の不貞を責めていると、わけの分からない責任逃れをし始める。


「私ははめられたのよ、そこにいる泥棒猫の志穂に! 優一に気のあった志穂が渉を私に差し向けて、優一から寝取らせた。そして志穂は優一と家の財産を手に入れて、玉の輿確定ってね。なんて浅ましい女なのかしら。吐き気が湧いてくる」


「はめらたんじゃなく、はめてた、だろ? なに自分の都合いい解釈ばっかしてんだよ」


「あはは! さすがいばらさんです。それに志穂さんが財産目的で白川くんと仲良くする意味なんてありませんよ。だって志穂さんはあなたの浮気相手の義理の妹なんですから!」


 切羽詰まって、絵里花は俺が浮気していると主張してきた、自分の浮気は棚に上げて。


「優一とべたべたして! あんたたちがヤってないって言うんだったら、出るとこ出て、調べてやるんだから! 覚悟しなさいっ!」


「別に私は構わない。優一くんはあなたが思っているような人じゃない。本当に思いやりのある人なのに、あなたはすべて自ら捨ててしまったのよ」

「あたしも構わないぞ」


「もちろん私もです。佐々木さんももちろん検査してくれるんですよね?」


 島谷さんは微笑みながら、絵里花にやり返す。


「えっ!? うそ……困るのはあなたたちなのよ? 処女じゃなかったらどうするのよ……」


―――――――――あとがき――――――――――

何か忘れてない? とお思いの読者さま! ご安心ください、超忘れっぽい作者ですが忘れてませんよ。ヒントは優一の両親が話していた内容ですね。

まあ渉があんなのだから、責任逃れするでしょうね( ´艸`)

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