第32話 控え目に言って神デザイナーでした

 石田さんたちゲストを招いての家庭会議で絵里花との婚約破棄が全会一致で決定した。


 それから間もなく俺はグッドデザイン受賞を祝うパーティーに出席していた。


 なにか飲み物はないかとテーブルに近づいたところ、さも自分が主役と言わんばかりに着飾った人物が寄ってくる。


 舞踏会に参加しているご令嬢といった感じにキラキラとしたラメ入りのドレスに身を包んだ絵里花はドレスコードすら知らないの? と学生らしくブレザーを着ていた俺を蔑んだ目で見ながら言い放った。


「あら、どこかで見かけた顔だと思ったら、女を寝取られた情けない男じゃない」

「何度も言ってるだろう、俺はむしろうれしいってさ」


 流石の絵里花でもバルキューバの社員たちが多く出席する中、浮気したとは言えないようだ。逆に俺の方を非難してくるので呆れて物がいえない。


「私を糾弾しようったって、無駄よ。優一だって志穂たちといかがわしいことしてたんだから」

「俺と絵里花をいっしょにしないでほしい。俺は絵里花みたいに周りの期待を裏切るような真似はしていないから」


「どうかしら? お互いさまってことで手打ちにするなら、許してあげるんだけど?」

「絵里花が俺を許す?」

「ええ、そうよ。私は一人、優一は三人と浮気したんだから、当然でしょ?」


 スゴい!


 怒りとか、呆れを通り越して、絵里花の思考に畏怖を覚えた。できることならもっと突き抜けていってもらいたいところだ。


 俺と絵里花のやり取りが心配になったのか、


「あら、あなたたちもいたの? 華やかなパーティー会場にネズミが紛れ込んだのかと思ってしまったわ」


 高木さんたちがこちらに来てくれたのだ。


「うるせえ、それよりその弛んだお腹をどうかしよろよ」

「ぱつんぱつんとか笑えてきます」

「私たちはハムスターのようなネズミかもしれないけど、豚ではないわ」


 石田さんの皮肉が効きに効いた返しに絵里花は余裕の笑みが消え失せ、怒りを露わにしているが、俺を含め、高木さんたちは笑いをこらえるので必死だった。


「なんですって!?」

「ぶひっですって!?」


 島谷さんが悪乗りして、絵里花をおちょくる……。


「あなたねえ、私をなんだと……」

「あん? 浮気症の牝豚かなぁ」


 高木さんの的確すぎる回答にクールなはずの石田さんまでぷっぷっと吹き出しそうになる笑いをこらえていた。


「不愉快です!」


 絵里花が俺たちに対して怒りを露わにするが……、


 ビリッ♪


 絵里花のドレスから縫製が破れたかのような音がする。よく見るとウエストの縫い目が破れており、絵里花の顔が青ざめていた。


「私をあざ笑ったこと、覚えていなさいよ!」


 まるで悪役がヒーローに敗れたかのようなセリフを吐き捨てて、絵里花はパーティー会場を出て行ってしまった。


 それからしばらくして、


「お嬢さま、どうか機嫌を直してくださいませんか? でないとパーティーが始められませんので……やはりお嬢さまがいらっしゃらないとパーティーが花がなく地味になってしまいます」


「しょうがないわね。こんなの、これっきりだから!」


 絵里花がバルキューバの社員さんたちに宥められながら、パーティー会場のドアを開け戻ってきた。


 司会の女性から壇上に上がることを促されると絵里花はテーブルに並べられたトースターなどのバルキューバ製品を誉め始める。


「みなさん、ご覧ください! 素晴らしいデザインでしょう? 我が社の製品は、ただの道具ではありません。生活の質をワンランク……いえそれ以上に高めるものです。見ているだけで空間が和む、そんなデザインをバルキューバはみなさまにお届けする、それが私たちの使命だと存じております」


 知らないって本当に怖いと思いつつも、絵里花から誉められると全身がむず痒くなってしまった。


「絵里花お嬢さま、ありがとうございました」


 司会からお礼を言われると俺たちに向かって、ドヤ顔を向ける絵里花だったが、今から起こるショーに裸の王さまならぬ、裸の王女さまに憐れみを禁じ得ない。


 絵里花と入れ替わりに壇上で父さんが司会の女性からインタビューを受けていた。


「こちらのトースターなどは白川一磨さんがデザインされたとか? 素晴らしいデザインですね!」

「ありがとうございます。ですが、こちらは私がすべてデザインしたわけではなく、私の息子が描いたものに微修正を加えたものなんです」


 ぐらり……。


 インタビューを受けている父さんの身体が崩れ落ちそうになり、司会さんが慌てて支える。父さんの目の下にはくまができており、もしかしたら俺と絵里花との婚約破棄に相当頭を悩ませたのかもしれない。


 ごめん、父さん……。


 そう申し訳ない気持ちで溢れている俺を父さんは壇上から手招きする。会場に集まった関係者からのどよめきと拍手で沸いていた。俺がきょろきょろと周りを見て、挙動不審になっていると母さんが背中を押す。


「ほら、みんな待ってるわよ。今日の主役さん」

「あ、ああ」


 俺は母さんや希美、石田さんたちから送られる拍手の中、壇上へ上がる。


「えっ!? 今なんて?」


 絵里花は壇上に上がった俺を指差して、口を鯉みたいにパクパクさせていた。


「ではそちらの方がもしかして……」

「はい、その通りです。紹介いたしますね、私の自慢の息子、白川優一です」

「どうも……父からご紹介に預かりました白川優一です」


 俺がみんなの前でぺこりと頭を下げると一際大きな声で絵里花が叫んでいた。


「うそよっ!!! キモオタの優一がうちの主力商品のデザインなんてできるわけない!」

「やっぱりそうだったんだな。私の見込んだ子だけある。絵里花、おまえの許婚はよい男だ」


 絵里花の隣に座っていた佐々木社長、つまり絵里花の父親が俺を誉めていたが、彼女は俺を認めようとしなかった。


「うそ……パパ、これ優一がデザインしたってうそでしょ? あのキモオタの優一が……? ははは、みんなで私を騙そうとしてるの? 冗談きついわよ!」


―――――――――あとがき――――――――――

バカにしていた優一がまさかの絵里花の会社の主力製品だったとかw あ、まだまだ白川親子のざまぁパーリィーは終わりませんよ( ´艸`)


うおおお、あと残り1万字切ったし、近日中に種ガンダム見に行きたいぜ! ネタバレしちゃだめだぞ、ネタバレ感想が届いたらエタかもしれないからな。振りじゃないぞwww なんかNTRって見かけたんだけど、マジ?

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