第31話 婚約破棄待ったなし
「ところでちゃんと聞いておきたいんだが、お嬢さんたちは優一とは、そのなんだ……深い仲にあるわけではないという解釈でいいのかな?」
父さんが奥歯に物が挟まったような物言いをするので石田さんたちはお互いに顔を見合わせ、なんのことだろう? といった表情を見せていた。
「一磨さん、恥ずかしがっていてはダメよ。ちゃんと言ってあげなきゃ。みんなは優くんとえっちしたの?」
ぶふぅぅーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
母さんの不躾すぎる質問に思わず吹き出してしまう。空気が読めないのか、実は計算高くて、わざとやってるんじゃないかと思ったり……。
石田さんは俺から目を逸らし、高木さんは俯いて、島谷さんは顔を赤くしていた。
「あら、優くん。男と女の仲なら大事なことでしょ? 私は昨晩も一磨さんにいっぱい愛さ……」
こほん。
「小雪……今は私たちのことより優一たちのことの方が先決だ」
「あら、そうだったわね。ごめんなさい、この話はまた今度しましょうね♡」
しなくていいです……。
母さんが俺の友だちの前で「ゆうべはお楽しみでしたね」を語り出そうとしていたので、父さんが慌ててせき払いをして話を止めさせていた。
「優くんはドMってことは無さそうだから……絵里花ちゃんよりねえ。一磨さんはどちらかと言うとMっ気が……うふふっ」
「こ、小雪っ!?」
知りたくなかった父親の性癖……。
父さんまで俯いてしまい、しばらく二の句が告げないでいた。
「白川のお母さんに言っておかないといけないことがあるんだ」
「そんなお母さんだなんてまだ早いわよ~、いばらちゃん。私のことは小雪って呼んでね」
なにが早いのだろうか? 母さんはうれしそうな表情で頬に手を当て悶えていたのだけど。
「小雪さん、白川を誘ったのはあたしなんだよ、だけど白川は絵里花との婚約を理由にちゃんと断った」
「高木さんの言う通りだから。ううん、いかがわしいことをしていたのは佐々木さんの方。彼女は私の義兄と……えっちしてたから。証拠もあるよ」
母さんは希美を部屋へ送ったあと、戻ってきた時点で石田さんが撮影していた淫行を視聴する。
『白川のことなんか忘れさせてやるよ』
『いまは優一の名前なんて出さないで』
『そうだな、いまは絵里花のことだけを……んん』
『きて、渉っ! もう我慢できない……』
『ああ! 行くぞ絵里花』
多少画面が暗いのだが、映っている人物が絵里花と石田ということははっきりと確認でき、それぞれの名前を言ってしまっており、絵里花の浮気の動かぬ証拠だった。
「これは酷いな……自分のやったことを隠蔽するために写真を渡してきたのか」
「優くんだけじゃなく、絵里花ちゃんはみんなを裏切ってしまったのね……」
目頭を押さえて沈痛な面持ちの父さん、あまり物事に動ずることない母さんですら、絵里花のやらかしには頬に手を当てて、心を痛めているようだった。
父さんはソファーから立ち上がると、俺の肩に触れ深呼吸したあと、なにかを決意したようだった。
「最近の佐々木社長には私も思うところがあった。優一が家と会社のことを思い、我慢してくれていたんだな。だがもう大丈夫だ。今はうちがバルキューバを支えている」
「は?」
「うちの意見を取り上げずにバルキューバが自社開発したスマホが大爆死して、優一がデザインしてくれた白物家電に回帰してるからな」
父さんが絵里花の父親である佐々木社長に考えを改めるように伝えたそうだが、社長や役員たちはうちの開発した製品ばかり売れていたことに危機感を覚えてたんだろう。
考えを改めずに押し切った結果が俺たちに売れ残りが回って来てしまうという悲哀に満ちた結末を迎えようとしていた。
テーブルに置かれた父さんのスマホを見た島谷さんが大きな声を出す。
「スマホで思い出しました! これ、使えますか?」
彼女も俺たちに動画を提示してきていた。絵里花が父さんと同じタイプだった俺のバルキューバフォンをへし折ったものだ。
『それに絵里花……これ、おまえのところの製品だろ? いいのか、自社製品をぞんざいに扱って』
『ふん! 私が私のところの製品をどう扱おうが勝手でしょ! それともなに? あんたみたいな庶民はスマホの一つや二つ壊されたくらいでがみがみ言うわけ?』
俺と絵里花が屋上で繰り広げたやり取りが収められていたのだ。
「あの島谷さん……これって……」
「ごめんなさい……。私、白川くんのことが気になって二人のこと盗み見していたんです」
「待ってくれ、それならあたしも同罪だ。あたしも白川が心配で屋上にいた」
「二人を責めるなら、私が最も責められないといけない。私は屋上にいただけでなく渉の義理とはいえ親族……。それに白川くんに動画を送ったのが事件の発端になってしまったのだから」
「大丈夫だよ。みんな、俺のことを心配して来てくれたんだろ。それに俺は絵里花と婚約破棄したかったんだ。みんなが俺を助けてくれたようなもんだよ」
俺は父さんと母さんの目をじっと見て、告げた。
「父さん、母さん。俺は絵里花と婚約破棄したい。いいよな?」
「もちろんだ。こんな裏切り、許せるわけないだろう」
「私たちが優くんを苦しませてしまったようなものなんだから、あとは私たちに任せて」
絵里花は俺以上に敵に回してはいけない人たちを本気にさせてしまったようだった……。
「おっとその前に聞いておかないとならなないな。母さん、希美を呼んできてくれないか?」
「ええ」
希美がリビングへ戻ってきて、家内会議の役者が全員揃った。父さんは俺たち家族だけでなく、外部の有識者ポジションということで石田さんたちにも多数決に参加してもらっていた。
「お集まりいただいた皆さんにお訊ねしたい。優一と絵里花さんの婚約破棄に賛成の方は挙手を」
勢いよく手が上がり、結果は言うまでもなかった。
―――――――――あとがき――――――――――
あ~あ、怒らせてはいけない優一の両親を怒らせちゃいましたwww 絵里花のお家はどうなっちゃうか気になる読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。
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