第28話 親バレ

「あ、希美ちゃんだ」


 島谷さんがこちらに向かってくる希美に手を振っていた。


 久々にスカッとした学園生活を送ったあと、四人で帰宅しようとしていたら、家のすぐそばまで来ると希美が慌てた様子で手を振り返す余裕もなさそうだった。


「これは国家存亡の一大事である! ヴィンセントよ、いま大ヴィンセントが舞い降り、今宵はワルプルギスとなるであろう」

「なんだって!?」


 石田さんたちは希美の専門用語を前に「ちょっと何言ってるか分かんない」といった表情を浮かべているが、俺は自分の体温が氷水にダイブしたように下がっていくような感覚に襲われる。


「なにか理由は言ってなかった?」

「大ヴィンセントは黙して語らず……」


 希美の言ってることを意訳しながら伝えると、


「まずいね、父さんが仕事を早く切り上げ、家にいるらしいんだ。しかも家庭内会議を開くつもりらしい」


 みんなはすぐさま反応する。


「それって絶対問題が起こったってことじゃん」

「私たちはいない方が良さそうですね」

「ごめん、せっかく家まで来てくれたのに……」

「気にしないで……また落ち着いたら来るから」


 名残惜しそうに手を振って俺を見送ると彼女たちは帰っていってしまった。



 父さんがなにも言わずとも俺の思い当たる節は絵里花絡みだと睨んでいたので重い足取りで帰宅する。


「ただいま……」

「優一、座りなさい」


 リビングのドアを開けあいさつをするなり、着席を促される。母さんも父さんと一緒に帰宅しており、ダイニングのテーブルに座り、俺は父さんと対峙していた。


「これはいったい何なんだ?」


 父さんが事務用封筒からおもむろに写真を何枚か並べて俺に提示する。俺は写真を見た瞬間、途端に顔が青ざめていたと思う。


「友だちといっしょに帰ってきただけだから」

「友だちか……」

「優くん……私たちはね、怒ってるんじゃないの。正直に話して」


 誰の仕業かすぐに分かる。


 絵里花は自分の浮気を棚に上げて、さも俺が石田さんたちと手を繋いだり、ハグしたり、仲良くしていることを調べ、その証拠の写真を俺の両親に告げ口したんだろう。


 そうすることでお互いさまってことを強調する腹づもりか。


 絵里花らしい汚いやり口だ。


「絵里花さんという許婚がいながら、複数の女の子と友だち付き合いするのは感心しないな。自分の立場が分かっているのか?」

「……」


 父さんは残念ながら絵里花の外面の良さに騙されていて、俺よりも絵里花の言葉を信じるだろうと思っている。だから迂闊なことはしゃべれない。


「だんまりか……じゃあ、希美に訊くから優一はそこで待っていろ」

「なんで希美が関係あるんだよ」

「私たちが不在時に家に女の子を上げていたと聞いている」


 父さんが言ったことから考えられるのは一つ。こんな茶番を仕組んだのは間違いなく絵里花だ。


 だが希美は父さんの剣幕が怖かったのか手を口に入れて、震えていた。


 終わったかもしれない……。


 希美がここで石田さんたちとあったことを洗いざらい話してしまったら。


 俺と別れたがっていた絵里花だが、俺も絵里花の浮気の決定的証拠は持っている。


 こうやって、さも俺が不貞を働いているということを匂わす写真を俺の両親へ送りつけてくるってことは、少しでも絵里花が有利な条件で婚約破棄に持ち込もうとしているんだろう。



 父さんと希美はリビングを出て、父さんの部屋へ行ってしまった。リビングには俺と母さんが残されてしまう。


「お母さんは優くんが優しいから女の子にモテちゃうって知っているからね」


 俺は絵里花から『あんたなんか好きになる子がいるわけない』って人格全否定されてたんだけど……。


「私も優くんと同年代だったら、付き合いたいかも」

「母さん!?」

「うふふ……若い子って反応が素直でかわいいわ」


 もうアラフォーだが希美といっしょに買い物にゆくとお姉さんですか? なんて間違われたりする近所でも美人妻との評判の母さんは俺を揶揄って楽しかったのか、ずっと笑顔でいた。


 ぽんと手を叩き、思い出したようにある提案を俺にしてくる。


「そうだ! せっかく今日は早く帰ってきたんたから、久々に一磨かずまさんと希美ちゃんに手料理を振る舞ってあげようと思うの。優くんも手伝ってくれるなかな?」

「ああ、お安いご用だよ」


 母さんの笑顔を見ていると、つまらないことで悩んでいるんじゃないかと錯覚させられてしまう。鼻歌混じりでお料理を始めた母さんを俺は手伝っていた。



 ぐつぐつと鍋が湯立つってきた頃に希美が長い取り調べから解放され、リビングへと戻ってきた。


 すぐさま希美は母さんに聞こえないよう俺に耳打ちする。身長差のため踵を浮かしながら、耳元でささやく妹がかわいい。


「大ヴィンセントは姑息にも我の魂に刻まれた聖典『禁書大戦』のDVDの全巻セットで我を買収しようとしてきた……」

「じゃあ……もうみんなが来てた日のこと話してしまったんだ……」


 『禁書大戦』というのは希美の愛読マンガで魔導学園に入学した冴えない主人公が禁書の力を得て、学園内で成り上がってゆくというものだ。妹はとにかく『禁書大戦』に目がなかった。


「見くびるでないわ!」

「えっ!?」

「我と盟友は根源で繋がった存在、盟友を裏切れば我自身を欺いたことになるのだ。そのようなことできようはずもない」


「希美はこつこつ母さんのお手伝いをしながらお小遣いを貯めて欲しがっていたじゃないか……なのに……」


「何度も言わせないでもらいたい。我は盟友が苦しめられているというのになにも手助けをすることができぬただの宙の岩礁アステロイドベルト……盟友の言葉で言うなら無用を通り越し邪魔な存在」


「希美……そんなこと気にしてたのか。気にしすぎだって」


 俺が希美の頭を撫でると妹は変身エネルギーが切れたヒーローみたいに素に戻る。


「お兄ちゃん……」


 ひしっと俺に抱きついてきて、泣き出してしまう。


 俺は親指で希美の涙を拭い、妹を励ますためにも厨二っぽく啖呵を切った。


「案ずるな、エカテリン。俺の外れスキルの凄さをエリカに見せつけてやろうじゃないか」

「あい……お兄ちゃんのこと信じてる……」


 希美をソファーでよしよししてると、


「お父さんがお兄ちゃんに部屋に来るようにって言ってた」

「そっか、なら絵里花が俺に喧嘩を売ってきたんだ。洗いざらい話さないとな」


 俺が決意を固めて、父さんと再び相見あいまみえようとしたときだった。



 ピ~ンポ~ン♪



 インターホンが鳴り、リビングにあるモニターで応対すると……。


 えっ!? なんで?


 俺は驚きつつも玄関を開ける。


「来ちゃった……。二人もいる」


 目の前には石田さんと高木さんと島谷さんが立っていた。


―――――――――あとがき――――――――――

彼女たちは、おあずけされてムラムラ来たわけじゃないですからね、たぶん( ´艸`)

それにしても優一は絵里花以外にモテますね~、口の固い希美に救われた優一が絵里花に倍返しざまぁをしてくれると思いますので、ご期待の読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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