第18話 ○フレにしてください

――――【志穂目線】


 胸が痛い……。


 本当は付き合ってくださいと言いたいのに、白川くんが私のせいで心を病んで、おかしくなるまで深く傷つけてしまった私に告白する資格なんてあるはずなかった。


 でもせめて白川くんを身体だけでも佐々木さんの代わりに慰めてあげれれば、と思って処女のくせして「セフレにしてください」ってなんて破廉恥極まりないこと言ってしまった。


 これじゃクズ男と同レベルだ。


 でも……、


【四人でいっしょに()作ろう!】


 とか、まさか白川くんから私の想像の遥か斜め上をゆく言葉がでちゃうなんて……。しかも高木さんも島谷さんも普通に白川くんと子作りすることを受け入れてしまっている。


 でもすぐに分かる。


 高木さんや島谷さんの目を見れば、彼女たちも優しくて頼もしい白川くんに助けられ、支えられ、彼を好きになってしまったということを。


 私も彼女たちと同じように恋する乙女の目をしているんだろう。


 だけど、私は彼女たちと違って罪深い……。


 白川くんを傷つけた私が彼を独り占めする資格なんてない……。私はただ佐々木さんの代わりに白川くんの性欲処理をすればいい……。


 私も授業で習ったとおり、白川くんのおしべから放たれる花粉をめしべで受け入れ、彼の子を身ごもりたいなんて未来も考えたけど、いますぐお母さんになっていいのか、迷いが生じてしまう。


 それにしても白川くんは私たち三人同時にえっちできちゃうなんて相当な性豪としか言いようがない。


 クズ男は色々自慢げに語っているけど、若いくせに、こそこそネットでED治療薬を仕入れてまで女の子たちと遊んでいる情けない男だ。


 ううん、あんなクズ男のことを今は考えないようにしよう。


 私たちを歩道側へ寄せ、白川くんは車道側を歩いていた。そんなさりげない気づかいを自然とできるところも私は彼に惹かれている。


 不躾だけど、ちゃんと確認を取らないといけないと思い、私たちを危険から守ろうとしている白川くんに訊ねた。


「えっと……白川くん、そんなに……(性欲が)溜まっていたの?」

「溜まっていたよ。絵里花への鬱憤うっぷんがね」


 白川くんが溜まっていたと言ったあと、ちょうど車が通り過ぎて後半の声がかき消されてしまう。


 彼の溜まった性欲……。


 果たして、処女の私に受け止められるんだろうか? と不安半分、期待半分な気持ちでこれから白川くんに初めてを捧げるんだ、と思っていたら気づくと白川くんと高木さんは二人で仲良く話している。


「あったあった! これ薄いけど破れにくくて、ぴったりフィットして使い易いんだよね」

「おっ、白川もそれ使ってるんだ! あたしも愛用してるぞ」

「これって気持ちいいよね!」


 白川くんと高木さんは薄いゴムの話で盛り上がっていた。彼といっしょにお買い物したいのに処女の私が夜の百人組手を鼻歌混じりで完遂しそうな高木さんに敵うわけがない……。


 

――――【優一目線】


 俺がスーパーのキッチン用品と調理器具の売り場でゴムベラを手に取ると石田さんは口に手を当て、顔を真っ赤にさせていた。


「うそ……プレイでゴムベラを使うなんて……」


 プレイ?


 よく分からないが志穂さんは石田と違ってもとてもいい子だし、かわいいんだけど、もしかしたら妄想癖がものスゴいのかもしれない。


 それにしても、いま俺が置かれている状況がいまいち飲み込もうにも喉を通らなかった。


 これって俺……いっしょに下校してるよね、絵里花以外の女の子と。しかもうちの学校のほとんど男子が告白して撃沈したという氷結の美少女の二つ名を持つ石田さんだ。


 それに超有名レイヤーの高木さんと国民的V Tuberと言っても過言じゃないことをカミングアウトした島谷さん。


 ちなみにさっき石田さんがお願いしてきたことを俺なりに分析してみた。


 俺の頭脳が弾き出した回答は……、


 セフレにしてください×


 スフレにしてください○


 だった。


 石田さんは俺にスフレケーキを作るようにお願いしてきたと結論づけたのだ。


 悶える石田さんに俺は告げた。


「石田さんは俺にスフレを作ってほしかったんだよね?」

「え?」

「お菓子作りならあたしも手伝うぜ!」

「私は食べるのを手伝いますぅ!」


「どうしたんだ、志穂……耳たぶが真っ赤だぞ」

「こ、これは違うからっ! 白川くんのお家に初めて行くから緊張してただけ」

「そっか」


 高木さんに答え終わると石田さんは壁に向かってぶつぶつとつぶやいていた。


「もしかして私……勘違いしてて、一人で盛り上がってたとか。は、恥ずかしい……そうよね、白川くんがクズ男とおんなじなわけないよね。それにしても彼が心を病んでも優しいままで本当に良かった」


 いつも張り詰めた空気をまとう石田さんの表情がどこか安堵したものに変わり、良かったと思っていたら高木さんが俺と横並びになって肩に手を置いた。それと同時にシャンプーのいい香りが漂い、ぽよんと柔らかな感触が伝わってくる。


 お、お、おっぱいが当たっとる!?


 絵里花のパッド盛り盛りの偽乳で実質ギリBカップとは、だんぜん違う大きさとその柔らかさに生きてて良かったと思えた。


 俺が驚いて高木さんを見るとニヤっと笑って、当ててるんだよ、って表情をした。


 これがコミュ力が鬼ってるギャルのスキンシップ……マジすげえってなった。


「ああ、白川くんが高木さんとくっついて顔を赤くしてる! 高木さんだけずるい! 白川くん……冷房が効いて寒いからくっついていいかな?」

「えっと……島谷さんが寒いなら……」

「うん、寒い寒い」


 島谷さんはよほど寒かったのか、大きなぬいぐるみにハグするように後ろからがっつりと俺に抱きついてしまう。小動物のように小刻みに震え、背中から柔らかな感触とともにひんやりとした体温が伝わってくる。


「あったか~い。ごめんね白川くん。私、冷え性なんだ。でもこうしてるとぽかぽかしてしあわせ♡」


 まるで流星キラリのウィスパーボイスが耳元に伝わってくる。しかもバーチャルなものでなく、温めたハチミツのような甘い吐息の混じりで……。


「なっ!? やっぱりこのあとみんなでスるんだ……」


「ほら志穂もぼーっとしてたら、あたしらが白川を持っていってしまうぞ、ほらほら」

「ちょ、ちょ、高木さんっ!?」

「い~じゃん、い~じゃん、これくらい」


 高木さんは石田さんを挑発するように俺におっぱいを押し当ててくる。


「う~、う~……」

 

 石田さんは唸ったあげく、俺の空いてる隣に並んで手を恐る恐るだしてきていた。みんなが羨むような美少女なのにどこか初々しい彼女がたまらなくかわいい。


 俺が手を差し出すと石田さんと指が触れる。


 びっくりした石田さんはぴくんと身体を揺らすがまた俺に手を差し出してきたので、しっかりと彼女の手を握った。


 俺は絵里花という幼馴染と婚約していたから周りにリア充と思われていたけど、まったくそんなことなかった。


 知らず知らずの内に俺は女友だちを作れていたことがうれしい!



 放課後に大型商業施設のZeonで卵や牛乳などの材料を買い終える。


「えっ!? 白川くん……それ、ぜんぶ一人で持つの?」


 みんなにいっぱい食べてもらいたくて牛乳5リットルに卵30個、薄力粉は5袋に……あと諸々。それらをレジ袋に分けていれると島谷さんが驚いた。


「いやこれくらい一人で持てるよ。いつもより軽いくらいかな。絵里花と買い物に行ったときなんて30キロの荷物を抱えて、10キロくらい運ばされたことがしょっちゅうあったからね。あ、もちろん絵里花は自転車で先に帰ったけど」


「そんなツラい目に……それで別れなかった白川くんは聖人すぎる」

「マジで訴えてもいいくらいひでぇ……」

「控え目に言って佐々木さんは鬼ですね」


 やっぱり絵里花はおかしかったんだ……。


―――――――――あとがき――――――――――

おおん。゚(゚´Д`゚)゚。 読者さまにサトラレされた作者ですぅwww

また絵里花のマジクズエピソードで締めちゃいました。もう三人の美少女たちに溺愛されながら、絵里花がざまぁされてほしい読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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