第16話 恋心を露わにする美少女たち
――――【優一目線】
「ねえ……白川くん、もし良かったら、私を……セフレにしてください」
ん?
俺の思考はフリーズし、
ポクポクポクポクポクポク……チカッ!!!
なっ!?
復旧したときには石田さんは羞恥院学園のようにスカートの裾を摘まむとゆっくりと男を誘うように持ち上げてきていた……。
美少女しか履くことを許されないニーハイソックスとスカートの間の絶対領域が徐々に広がり、露わになる石田さんの太股。黒のニーハイと白く美しい柔肌のコントラストに俺は思わず息を飲む。
いまさっき、この世の美と清浄さをすべて集めたような石田さんが、それとは正反対であり得ないワードを言ったような気がする。
いやいや、石田さんに限ってセフレなんて言うはずがない!
俺の耳がただ腐ってて聞き間違えただけなんだ。
スカートをひらひらさせているのもただ暑いからだけ……。
「いいよ、やろう。いますぐに! 俺の家に来れる?」
「い、いますぐに……? う、うん……いいけど……わ、私、初めてだから、そのお手柔らかにお願いします」
あの妖精のように美しい石田さんが頬を赤らめ、一節を言う度に俺の顔を見たり、視線を逸らしたりしている。言い終わると彼女は恥ずかしかったのか、顔を手で覆ってしまった。
ああ、これは間違いない。
こんな
……ともかく途中でアレを買って帰らないとな。
石田さんがまだ鞄を教室に置いたままだったので、二人で並んで廊下を歩いていると、鬼の形相をした男と出くわした。
「白川っ!!! てめっ、なに俺の妹に手だしてんだよ!!!」
おまいう!?
いまにも俺を殴りつける準備をしているのか、石田は拳を肩の後ろにテークバックさせている。俺はなにも悪いことはしていないので、理路整然と石田に弁明した。
「石田は志穂さんの保護者じゃないよな? だったら志穂さんが決めること、いくら兄貴でも妹を束縛するのは良くない」
「そうそう」
石田さんは俺を背にして後ろに隠れながらも、俺の言葉に同意してくれていた。
「なんだと……」
「それに先に俺から絵里花を寝取っておいて、よくそんなことが言える。石田は志穂さんに構ってる暇があったら、絵里花と過ごしてやれよ」
「白川ァァァァーーーーッ!!!」
狂ったように叫んだ石田だったが、聞き覚えのある声が石田の後ろから響いてきていた。
「あ~ん、渉ぅぅ。ここにいたんだぁ。誰だぁ?」
俺に殴りかかろうとしていた石田に絵里花が教室の方からやってきて背後から両手で石田の目を塞ぐ。
「行こう、志穂さん」
「あ、うん」
俺は絵里花と顔を合わせたくなかったので石田さんの手を引き、その場を離れようとした。
ゴッ!!!
だが廊下で堅い物同士がぶつかった鈍い音が響く。
「いてえぞ! なにすんだ、石田ぁぁぁ!!!」
「アアアアアアッ!!!」
絵里花に目を塞がれた石田は、俺たちのいたポジションと入れ替わりで歩いていたフルコン空手参段、柔道四段の生徒指導の牛島先生の顔面を殴ってしまっていた。
牛島先生は鼻血出したものの、石田のパンチで体幹は揺さぶられておらず、ピンピンした身体で怒り心頭モードに変わっている。
「しかもおまえら、校内でなに不純異性交遊しとるんだ! ちょっと生徒指導室まで来てもらうぞ」
「えっ!? 私も……?」
「あたりまえだろ、後ろから男子に抱きつくとか、節度をわきまえろ!」
「は、はなせぇぇぇ……」
「いやぁぁぁ……」
デスゲームなら最初に死んでしまいそうな上下ジャージのいかにも体育教師の牛島先生に石田と絵里花は首根っこを掴まれ仲良く連行されて行こうとしていた。
「オレは悪くねえよ! 白川にはめられたんだ!」
「そうよ、優一が悪いのよ」
「なに言ってんだ、白川がそんなことをするわけないだろ! つか佐々木はなんで白川のことを悪く言う? まあいい、とにかく大人しくついて来い!」
今日も平和だなぁ~。
二人は首根っこを掴まれていたが、俺は制服の袖を掴まれていた、石田さんに。
「良かった……白川くんが無事で……」
俺が引かれた袖に反応して石田さんを見ると恥ずかしそうに頬を赤くして、顔を背けもう一方の手で口を押さえていた。でも俺の袖はしっかり掴んだまま。
なんですか、このかわい過ぎる天使さまは!!!
あまりの尊さに俺の耳にはフランダースの犬のラストで流れた賛美歌320番『主よ御許に近づかん』が響いてくる。俺の魂が浄化され、天使に誘われ天に昇ろうと……って、天使は目の前にいたわ!
絵里花はあざとい表情はできても素でかわいいといったところはなかった。すべて紛い物と言えるような代物だったが、それで人の目を欺けたからあんな風になってしまったんだと思う。
総天然美少女のかわいらしい仕草に目を奪われていると、
「あ~、お取り込み中のとこ、悪りぃんだけどよぉ、あたしも混ぜてくんねえかな?」
誰?
「ちょっと待ってください。石田さんだけ抜け駆けとかズルくありませんか!」
またまた誰?
俺たちの前に現れた謎の二人の美少女。
「あの……どちらさまでしょう?」
「ああっ!? 白川……あたしは悲しいぞ。あたしの顔を見忘れたのかよ」
切れ長の瞳に黒髪ロングの美少女は、俺の耳元に手を当てて、ぐいっと引き寄せ俺の顔を彼女の顔へと近づけさせる。
「高木さん!?」
「おう、やっと分かってくれたか」
いや女の子って、髪型が変わるだけで印象がまるっきり違うから分からなかった……。
俺がようやく謎の美少女の正体に気づくと、高木さんは小さな男の子のようにニヒヒと口元を緩め、屈託のない笑顔を見せていた。
それにしても近い。
あとほんの数センチでキスできてしまうほど。間近で高木さんを見ると鼻筋が通って、吊り目だけど瞳が大きくて愛嬌のある顔だから、超人気レイヤーってのも頷ける。
ぐいい……。
「むう……」
俺の袖を掴む力が強くなり、引かれた方向を向くと石田さんがハムスターのように頬を膨らませて、少し拗ねている。
俺が知らない、いつもクールな彼女が見せる素の姿になにか俺だけ知ってる彼女みたいに優越感を覚えてしまう。
「二人とも待ってください! 私だって白川くんのことが好きなんです!」
「えっ!?」
「うそ……」
「なっ!?」
突然の見知らぬ女の子の告白に俺たちは一様に驚いたが、まずは誰なのか気になって訊ねた。
「ところでキミは……誰?」
「私ですよ、島谷萌です」
いや変わりすぎだろ!
と思わずツッコミたくなるほど島谷さんは変貌を遂げていた。
野暮ったさの象徴だった黒髪の三つ編みの面影はまったくなく、セミロングとなり明るめの髪色がとても彼女に似合っていて映える。それに眼鏡をしていないことでより整った顔立ちが目立つようになった。
地味子と男子から呼ばれていた島谷さんはモデルや女優と言っても誰も疑うことのないほどの美少女だった。
もちろん俺は彼女が男子に地味子などと揶揄されるような子じゃなく磨けば光る逸材であることは見れば分かってはいたんだけど、彼氏でもないのに余計なお世話をすることは避けていた。
「う、うそだっ!!! なんだよ、おまえらおかしいだろ! 超イケメンのオレの告白を蹴ったり、オレにかわいいことを隠していたりとか、信じらんなねえよ! なんで冴えねえ白川にべったりしてんだ、離れろよ! なぁなぁったら!!!」
「こらっ、抵抗するな早くこいっ!」
「いやだぁぁぁぁーーー!!! オレの女たちが白川に奪われるぅぅ!!! このオレが冴えねえ白川にBSSされるとか許されねえよ!!!」
まだ石田が仙台先生に抵抗して廊下にいたことに驚いたが、さらに驚いたことにみんなはイケメンの石田に一切なびくことなく彼を袖にしていたらしい。
でもなんで俺?
色々疑問に思ったが……俺は絵里花が俺に構うことなく白川といっしょにいてくれることがうれしかった。
―――――――――あとがき――――――――――
そうそう志穂たんがセフレとかぶっ飛んだこと言い出した理由は後ほど回収する予定です。
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