第12話 マジ告を嘘告だと思い込む主人公

――――【優一目線】


 俺と絵里花が別れたという噂が広まった翌日のことだった。朝、登校してきて外靴と上履きを履き替えようと靴箱のノブに手をかけた。



 バサーッ!!!



 靴箱を開けた途端にあふれ出てくる封筒の数々……。


 その一つを恐る恐る拾う。


 恐々としていたのは絵里花が腹いせに靴箱になにかイタズラをしかけたのかと思ったからだ。絵里花なら呪殺とか平気で書きかねない陰湿さがある。


 俺は何一つ絵里花から恨まれるようなことはしていないはずなのに。


 うなだれ己の運命を悲観していると俺の周囲に散らばった封筒を見た男子は目を見開き、女子は口に手を当て、口々に噂をし始めた。


 ――――なにあれ?

 ――――す、すげえ……

 ――――まさかラブレターとか?


 ははは……そんなわけない。


 慌てるな、これは絵里花の罠だ。


 常日頃から絵里花から優一が女の子にモテるわけないでしょ、って言われてる俺に誰がラブレターなんて出してくるんだよ。


 周囲の視線が気になったし、とりあえず絵里花の呪いの手紙の数々を放置しておけば、他の生徒にまで怨嗟えんさが広まり、Anotherとなって俺がいないものにされかねない。


 なので特級呪物のすべて回収すると鞄が豚の腹かってくらい、ぱんぱんになってしまった。


 そういや豚で思い出すのが絵里花。あいつ、俺と朝の運動をサボり出してから、瞬く間に太ってきたような気がする。そんなこと口に出したら、俺が立てなくなるまでローキックを連発してきそうだから、黙っておいたが……。


 まあ、あいつの望む石田と結ばれて、しあわせ太りでもしたんだろう。せいぜいおしあわせに、って盛大に祝ってやりたいところだ。


「えっ!?」


 しゃがんだ姿勢から起き上がろうと顔を上げると俺の眼前にはまさしく清楚といった感じの白くて三角型の布がチラついていた。アクセントにかわいらしい薄ピンクのリボンがあしらわれていている。


 驚いて俺は床に敷かれたすのこに尻もちをついてしまうと神々しいおパンツを履いた女神さまと目が合ってしまった。


「嘘っ!?」


 銀髪の女神さまこと石田さんは口を当てて、涙を流して走り去っていってしまう。


 やってしまった……。


 ラッキースケベで彼女から嫌われてしまったのだ。


 そりゃそうだよな……俺みたいなキモオタに下着を見られたら、末代までの恥だと思われても仕方ない。


 今朝は残念なことに不幸が続いたけど……絵里花といっしょにいることに比べれば、この春だし、俺にとってはまさに天国パラダイス、些細なことだ!



――――教室。


 絵里花から解放されたことで俺は赤い雄牛のエナドリのキャッチコピーのように背中から翼が授けられたように心身ともに軽やかだった。


 こんなこと人に話すと大げさだと笑われるかもしれないが、はっきり言って絵里花といっしょに過ごすということは、精神と時の部屋で修行させられるという拷問を受けているようなものだ。もちろん一年が一日なんてことはなく、リアルタイム。


 俺が晴れ晴れとした気分で席に着くと佐伯が血相を変えて、俺の机の前で両手をついて訊ねてくる。昨日はいきなり佐伯が号泣しだすものだから驚いた。


 佐伯は俺を覗き込むようにしながら、訊ねてくる。まるで俺の主治医といった感じに。


「優一……おまえ本当に大丈夫なのか? どこかに頭をぶつけたり、サッカーボールが頬を掠めたりしてないよな?」

「なにがだよ、俺はいたって普通だぞ。それよりキラリのゲーム配信のこと話そうぜ」


 思考転換なんて起こってないのに大げさだなぁ。


「いやキラリのゲーム配信の話なんて、今はどうでもいいだろ……。石田から佐々木さんを取り返さなきゃ。僕はいつでも手を貸してやるから」


 佐伯は石田に幼馴染をBSSされて、石田に対して恨みを持ってる。佐伯はいい奴だから逆に俺が手を貸してやりたいくらいなんだけどな。


「ははは、佐伯! 真面目なおまえにしては今朝からマジで冗談が冴えてるな! 絵里花は石田が良くてなびいたんだ。しっかり二人の仲を応援してやらないと」

「それマジで言ってんのか!?」


 俺は悲しみなど一切なく、モンスター絵里花を引き受けてくれた石田に感謝しかなかったから、本心を打ち明けると佐伯は目を丸くして驚いたあと、俺の額に手を当てて熱を測ってくる。


「優一……おまえ、本当に本当に大丈夫か? 無理して明るく振る舞う必要なんてないんだ。つらいなら知り合いの心療内科を紹介してやるから。僕の紹介って言ってくれたら、カウンセリングはただでしてもらえる」


「ありがとな、佐伯。俺は彼女に恵まれなかったがマジで親友には恵まれたみたいだ。ズッ友でいようぜ」

「ああ!」


 まあできれば石田さんみたいな激かわな女の子に心配される方が良かったんだが、ここは友情に感謝すべき……って、なんで俺の前に石田さんが?


 俺と目が合うと石田さんはさっと目を逸らして、頬を赤らめる。


「白川くんに……伝えたいことがあるの。放課後、校舎裏まで来てほしい」

「「えっ!?」」


 まさか……今朝、石田さんのおパンツを見たことを怒って、セクハラで訴えられるとかなのか……?


 そうだよな、俺に辱めを受けたんだ、頬が赤くなるのも当然だ。こんなかわいすぎる石田さんを傷つけたとか俺はなんて最低な男なんだろう……。


「分かった……ちゃんと行くから」


 男として、誠心誠意謝罪しないといけないと俺は覚悟を決めた。



――――放課後。


 来るのが少し早かったみたいで石田さんの姿は見えない。俺に不幸が訪れた原因はやはりラブレターに見せかけた絵里花からの呪いの手紙に違いない!


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


 俺は鞄を校舎裏のコンクリートの地面に置き、九字を切った。昼休みにどこの神社でお祓いしてもらおうかと鞄の中身を恐る恐る開封する。


 幸いなことに絵里花異形の物が鞄の中から出てくることはなかったのでひと安心。


 一つをピックアップして内容を読むと……、


―――――――――――――――――――――――


 高校に入ってから白川くんのことを知り、クラスは違うけど、ずっと白川くんのことが好きでした。今もその気持ちは変わりません。


 白川くんが佐々木さんと別れたと聞いて、いても立ってもいれらなくて、私の気持ちを伝えるためにお手紙を出しています。


 放課後、時計台の下で待っています。


―――――――――――――――――――――――


 ふむふむ。


 絵里花からの呪いの手紙ではなかったが、石田と組んで、嘘告を仕組み、のこのこ勇んでやってきて、誰もいないことに残念がる俺を影からバカにする腹づもりなんだろう。


 そう易々と俺がおまえらの罠にかかると思ったら大間違いだ!


「白川くん?」


 俺が絵里花たちの汚いやり口に憤慨していると目の前には石田さんが目の前に立っていた。


―――――――――あとがき――――――――――

果たして志穂の告白は成就するか? 一方の優一は謝罪要求だとしか思ってないみたいですけどw

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