第10話 クズから美少女を無自覚に守る【ざまぁ】
――――【志穂目線】
入学式当日。
一年A組
石田 志穂
石田 渉
学校の掲示板に大きく張り出されたクラス分け表を見て、私はがく然とした。まさかクズ男といっしょのクラスにされてしまうとか、悪夢でしかない。
『ほらぁ、優一も私といっしょのクラスだね!』
『そうだな、はは……』
佐々木 絵里花
白川 優一
私の顔が蒼白になってると思われる隣で、まさにお似合いのカップルという感じの男女が周囲の目も気にせず、しあわせオーラを発していた。
あっ!?
それに比べて私は……とか思いつつも二人を見るとお嬢さまっぽい女の子の彼氏の顔を見て、私の呼吸どころか心臓が止まるかと思った。
張り出された氏名と悩みをバス停で打ち明けたときに彼が名乗った名前がリフレインする。掲示板と彼の顔を何度も見て、顔と名前の一致に少女マンガの主人公ではないけど、なにか運命めいたものを感じてしまう。
それと同時にやってくる悲しみ。
やっぱり彼女いたんだ……。
当たり前だ。あんなに格好良くて人に優しくできる男の子に彼女がいないわけがない。
でも彼と話すことくらいは許されるよね……。
そう思ったものの、入学して白川くんといっしょのクラスになったのに私から話しかけられず、また彼もバス停で話したのが私だとはまったく気づいてる様子はなかった。
高校に入学して、もうすぐゴールデンウイークを迎えようとしたときのこと、放課後にクズ男が私の手を無理やり引っ張り、校舎裏にまで連れてきていた。
『やめてっ! やめてったら!』
必死で抵抗しても女子と男子とでは力の差は歴然でクズ男は私を壁に押し付け、私の顎を人差し指を使いクイと上げる。
『なあ志穂……オレ、志穂のこと好きなんだよ。いい加減気づけよ』
まさか本当にラブコメみたいなことが起こってしまうなんて思ってもみなかった。
クズ男は策略を巡らして、渉の父親と私の母親を焚きつけて結婚させてしまう……信じられないことに私は渉の義妹になってしまっていた。そんなクズ男は兄妹という関係を利用し、私を公然と口説いてくる。
顔がいいなら何でも許されると勘違いしたクズ男がキスしようと顔を近づけてくるが、私は両手で押し返して耐えていた。
『志穂、おまえはオレの初恋の相手なんだよ、分かってくれ』
『気持ち悪いから、本当にやめてっ! やめてくれないと人を呼ぶから!』
クズ男にそう言うと、私の口を塞いで下半身に触れてこようとしてきたので、危険を感じ……、
ガリッ!
『いってぇぇ!!!』
口に入れるのも嫌だったけど、クズ男の手を噛むと手を振って痛がっている間に私は拘束からすり抜けて、その場を逃げ出した。
クズ男が私にいやらしいことをしてくるときは決まって、いかがしいことをするための女の子に袖にされたり、都合がつかなかった場合だ。
あいつは私のことなんか好きなんじゃなく、ただあいつ好みの容姿をしていて、なびかないから無理やりにでも手に入れようとしてくる。
渉の父親は常識人であることが救いで、父親がいる間は渉も私に手を出してくることはなかったけど……。
『最初は怖いかもしんねえけど、オレとヤったら気持ち良くて自分から腰を振るようになるって』
後ろを振り向くとニヤニヤしながら、私を追いかけてくる。
後ろを向いて走っていると、ドンとしっかりとした、でも柔らかくても温かみのあるものに当たってしまっていた。
『ご、ごめんなさい』
『ううん、それよりも大丈夫? なにか焦っていたみたいだけど』
咄嗟に謝罪の言葉が出たが、誰に当たったかまでは分からなかったけど、恐る恐る見上げると、
嘘っ!?
私はまさかの白川くんに抱きついていたのだ。しかも私が体当たりする形になっていたのに、しっかりと受け止め、怒るどころか心配までしてくれている。
ああっ、このまま彼の懐にいて、時間が止まってくれれば……。
そう思ったときにはすぐに邪魔が入るもので、私たちの目の前にはクズ男が顔を歪ませ、怒りを露わにしていた。
『なんだ、おまえ? オレの妹に手出すなよ。殴んぞ!』
『手は出してない。偶然通りかかったら彼女とぶつかってしまって、謝っていたところだ』
『だったら何で離れねえんだよ! さっさとオレの妹から手を引けって』
『俺は手を出していない。彼女が怖がって俺を離してくれないだけだ』
まるで自分の女みたいに白川くんに主張するクズ男に呆れてしまう。
『だったらオレが志穂をおまえから引き剥がす! それなら文句ねえよなぁ!』
『彼女は嫌がってるみたいだから、それはできない。俺が連れていく』
ドキッ!
優しい彼から出た、「俺が連れていく」という言葉に気づくと私の胸の鼓動がトクントクンと早まっていた。
『……』
だけど緊張からかなにも答えることができず、彼のそばで沈黙するだけ。それでも白川くんはただ微笑んで、クズ男のせいで男性恐怖症になってしまい氷のように固く閉ざされた心と身体を温めてくれている。
少しでも彼のそばにいたいと思っていると、クズ男は勝手に激高していた。
『クソ陰キャのくせにオレの志穂に手出してんじゃねえぞ、ゴラァァァーーー!』
『な!? 夕方に流星キラリのゲリラ配信だと?』
クズ男はあろうことか、白川くんの背中に飛び蹴りを放っていた。
『石田さんだっけ? キミはV Tuberとか見る?』
『あ、少しなら……』
白川くんはクズ男には目もくれず、さっと私を抱き寄せながら、彼のスマホの画面を見せてくれる。
『って!? うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』
パリーーーーン!!!
白川くんの鮮やかすぎるスルースキルでクズ男は校舎の出入口のガラス戸を蹴り抜いてしまい、血まみれになった姿がクズ男の行動と相まって、二重の意味で痛々しかった……。
『いでぇぇよぉぉぉーーーー!!! ひっ!? お、オレの顔から血、血、血がぁぁぁぁっ!?』
さっきまでの威勢は消えて、だらだらと流れてくる血液に狼狽えるクズ男だったけど、私は
『なにやってんの? 頭、大丈夫か?』
『て、てめえ……ふ、ふざけんじゃねえぞ! これが大丈夫に見えるのか!』
『だよなぁ……』
白川くんはクズ男の額からも出血していたことを心配していたんだろうけど、もの凄く煽っているようにしか思えなくて、笑ってはいけないんだろうけど、おかしくて口に手を当てて、クスクスと笑ってしまっていた。
『あ、やっと石田さんの笑顔が見れた。笑わない子なんじゃないかと心配してたんだ、よかった』
『うん、笑うよ。私も』
白川くんのそばでなら……。
結局渉は白川くんが先生に知らせたおかげで大事には至らなかったものの、入院となってしまい退院後に生徒指導の先生からこっぴどく叱られていた。もちろん私はお見舞いになんて行ってない。
――――【優一目線】
俺と絵里花が別れたという噂が広まった翌日のことだった。
朝、登校してきて外靴と上履きを履き替えようと靴箱のノブに手をかけた。
バサーッ!!!
靴箱を開けた途端にあふれ出てくる封筒の数々……。
俺の周囲に散らばった封筒を見た男子は目を見開き、女子は口に手を当て、口々に噂をし始めた。
――――なにあれ?
――――す、すげえ……
――――まさかラブレターとか?
ははは……俺に限って、そんなわけないって。
―――――――――あとがき――――――――――
やはり世の中、スルースキルは大事ですねwww
残念ながら本作はイケメンイズジャスティスが通じません。
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