第9話 地味子の正体は超人気V Tuber
――――【萌目線】
登校すると今朝のクラスはいつもより騒がしいかったの。
「聞いたか、佐々木が石田に誘われて寝たらしい」
「ホントに!? 信じらんない! もしかして白川くんはNTRって奴?」
「そうなるよな……」
「相思相愛だったと思ってたのに~」
えっ!? 佐々木さんが石田くんに寝取られた?
クラスメートたちはその話題で男女関係なく、噂を伝言ゲームみたいに伝えている。私も彼らと同じく二人は相思相愛だとばかり思ってて、白川くんに声かけるチャンスなんて永遠に来ないと悲観していた。
白川くんは優しい……。学校ではV Tuberであることを隠し、眼鏡をかけ地味でまったく冴えない私でも他の男子たちとは違い、差別するようなことはなかったの。
噂でクラスメートたちが持ちきりの中、渦中の人物である白川くんが登校してくる。
やっぱり本当だったんだ……。
いつも佐々木さんといっしょに登校してくる白川くんが一人で登校してきたので、ただの噂だったものが途端に信憑性を帯びてきた。
「珍しいな、優一が一人で登校するなんて……今日は雪でも降るんじゃないか?」
「あははは、かもなぁ!」
そこへ白川くんと仲の良い佐伯くんが駆け寄ってきて話かけている。私は白川くん見せるの表情に違和感を覚えたの。
どうして?
どうして、白川くんはそんな笑顔で居られるの?
私だったら好きな人が他人に、しかもクラスメートに奪われたりなんてしたら、堪えられないかもしれない。
白川くんは、なんて心が強い人なんだろう。
もし白川くんが佐々木さんと別れるようなことがあれば決めていた。私が登録者数百万人を越えるV Tuberの中の人だと打ち明けて、励ましてあげて……いっぱい私の声で癒やしてあげて……そのあとは……。
慰めの必要がないことを残念に思う。
でもそんな心を強く持っている白川くんにいつの間にか吸い寄せられるように彼の席へ足が自然と向いていた。
いつも配信でカメラとマイクの前で話すのとは違い、緊張からか上手く声が出ずにかすれてしまう。
「
私が彼に声をかけようとしたときだった。
「優一っ!!!」
そこにもの凄い剣幕で白川くんの名前を呼ぶ佐々木さんが立っていた。彼女の声は教室中を駆け巡り、みんなの視線が二人に注がれてしまっていた。
午前の授業が終わり、お昼休みを告げるチャイムが鳴ると現国の先生が教室を出るまえから、白川くんと佐々木さんは教室をあとにしていた。
私は図書委員の仕事をほっぽり出して、二人を尾行していたの。三年の図書委員の先輩に好きな相手が白川くんと明かさずに恋愛相談したら、「なにかあったら私が引き受けるから、頑張んなさい!」って背中を押してもらってるのもあった。
――――屋上。
私は見てしまった……。
白川くんと佐々木さんが屋上で別れ話をしている場面を。
立ち聞きするのは悪いと思ったんだけど、どうしても白川くんのことが気になってしまい、気づいたときには二人を尾行していて、二人が先に屋上へ出たあと私も続いて、太陽光パネルの裏に身を隠した。
えええっ!?
でもそのとき意外なことに気づいたの。
ちょっと派手だけど明るくて気さくな高木さん……彼女がコスプレするって言っただけでイベントが立ち上がってしまうほどレイヤーの中じゃ名の知れた存在。
それにまさかの百万人のフォロワーがいるインスタグラマーで学園一の美少女と呼び声高い石田さん。
なんで石田さんまでもが……。
そんな二人までもが白川くん佐々木さんの様子を同じように窺っていたのだから……。
石田さんは言わずと知れたチャラい石田くんの妹なのに。スマホで白川くんたちの姿を撮影する石田さんを訝しみながらも、やっぱり白川くんのことが気になって、そちらに集中していた。
わっ!?
ここからでは二人の会話ははっきり聞き取れないけど、白川くんがスマホに浮気の証拠でもあるのか、佐々木さんに見せつけると彼女は白川くんのスマホを折って壊して、踏んづけてしまっている。
「優一、ちょっと! 聞いてるの? ねえっ! ねえってば!!!」
ここからじゃ二人の話を聞き取れないと思い、身を乗り出しときだった。白川くんが佐々木さんを置いて塔屋のドアに向かってきたので、慌てて私はまた身を隠した。
内容は聞き取れなかったけど、二人は明らかに破局を迎えているように思えたの。
――――萌の部屋。
家に帰ると私は白川くんのことが気になりだした日のことを思い出していた。
『見たかよ? キラリのライブ!』
『見たに決まってんじゃねえかよ。まだキラリストになってねえ奴がいたら、オレが絶対に推しに変えてやんよ』
男子たちが私が中の人とも知らずに登録者数300万越えV Tuber流星キラリの昨晩のライブについて白熱していた。
図書室へ行くために彼らの横を通り過ぎようとしたときだった。
ドンッ!
『きゃっ!?』
たまたま男子が振り向いたときに私と身体がぶつかり、転びそうになる。
『大丈夫? 島谷さん』
『あ、ありがとう……白川くん』
そのとき、たまたま近くにいた白川くんが私の身体を包みこんでくれるかのように受け止めてくれたの。
白川くんが私にやさしく微笑みながら、心配する声をかけてくれたけど運命の人なんじゃないかって思っちゃった。
だけどぶつかった石田くんたちは謝るどころか、スルーしようとしていた。
『あん? 島谷が勝手によろけただけか』
『まったく地味子は鈍臭え奴だなぁ、おい』
『はは、違いねえ』
『地味子が勝手にバランス崩して、転んだってだけだろ。オレらに責任なんてねえし』
石田くんはかわいい子にはやさしいけど、私みたいに地味でいる女の子には感じがよくない。
『それはないぞ。島谷さんは石田に当たって転びそうになったんだ』
『あ? オレが悪いって言うのかよ』
『悪い悪くないの問題じゃない。人として最低限のこともできないのかって言ってる』
普段はおっとりしている白川くんが私のために本気で石田くんに抗議してくれていた。もちろん、騒ぎ立てずに冷静に対処してくれている。
佐々木さんが白川くんのことが大好きなのも納得できる、と思っていたの。そのときは……。
『いいの……私がどんくさかっただけだから』
『はは! だとよ、せいぜい地味子相手にポイント稼いでおけって』
何も知らない石田くんに呆れてしまいそうになる。私は彼からスパチャを稼がせてもらっている存在だというのに……。
私のために喧嘩になったりして、白川くんに迷惑なんてかけたくなかったから、独り言のようにその場凌ぎの言葉を口にすると石田くんは彼の取り巻きの男子とまたキラリのことで雑談を再開していた。
頭の切れる白川くんは石田くんに口喧嘩で負けるわけないのに、私が妥協したことでがっかりさせてしまったんじゃないかと思ったら、
『ごめんね、俺が不甲斐ないばっかりに鳥谷さんに不快な思いをさせて……』
『えっ!? そんなことないよ……私は……』
うれしかった。
地味に振る舞う私に気づかいしてくれる白川くんとお話できたことが。
いけない……もうこんな時間。
置き時計の針を見ると二十時前で私は慌てて、パソコンを立ち上げた。
ヘッドセットを装着し、マイクを合わせると不思議とテンションが上がってきて、普段の私とは真逆の自分がカメラの前でしゃべっていた。
「こんばんきらり! 流星キラリ、今日もあなたの心に綺羅星を届けるね♡」
隊長〈キラリ最高過ぎる〉
ロック〈ああ今日も神ってる〉
佐伯〈¥1000 癒された〉
星々〈¥2000 クッソかわええ!!!〉
ユキタ〈キラリたん、どうしたの?〉
佐伯〈放送事故?〉
ユキタ〈寝てる?〉
「あははは、そうそう寝ちゃってた♡ キラリの特技は立ったまま寝れることだからねっ!」
ロック〈キラリ最高!〉
佐伯〈クソワロタ〉
ロック〈¥10000 ベッド買ってオレと寝て〉
隊長〈¥5000 キモっ〉
ユキタ〈下心見え見え〉
学校ではただ本好きの地味な女の子で白川くん以外、誰も私の言うことに耳を貸してくれる男の子なんて居ないけど、カメラの前でつまらないことを話すだけで、みんなよろこんでくれていた。
管理用のモニターには同接はすでに5万人を超えてしまっているけど、私は佐々木さんが寝取られてしまっても悲しむことなく毅然としていた白川くんのことが気になって仕方なかったの。
佐伯〈ああっ!?〉
ユキタ〈登録者数300万超えてるっ!?〉
ロック〈マジ!?〉
隊長〈おめでとう!!!〉
のじ〈キラリ最高ーーっ〉
地味な私を毛嫌いすることなくお話してくれる白川くんには、イソモチママから借りたガワじゃなくて、本当の私を知ってもらいたい。
「キラリ、明日は美容院に行ってくるね!」
私は戻ろうと思う。白川くんの隣に居ても恥ずかしくないような女の子に……。
中学生の頃、声優事務所に通っていて、周りの子たちよりかわいいと言われてストーカー被害にあって以来、地味な格好で過ごしてきたけど、もうそれも終わり。
ユキタ〈300万……〉
隊長〈流石、俺たちのキラリさま!〉
ロック〈登録者数300万なんて、通過点としか思ってねえとかエクセレントでしょ!〉
「へ? 300万ってなに?」
―――――――――あとがき――――――――――
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