第8話 窮地を救われたギャル

――――【いばら目線】


 席に着こうとしたら、めぐみとヨーコがあたしのところに来て、訊いてくる。


「ねえねえ、知ってる? 絵里花の奴、白川くんと別れたんだって!」

「ああ、あれでしょ、寝取られって奴」


 ピリィィィィィィ――――!!!



【高木に電流走る】



 ぬぁんだってっ!?


 白川がいけすかねえ佐々木と別れたと知った途端、あたしの頭のど真ん中を貫くように、強い電流がナレーション古谷徹の声と共に流れたような気がした。


「でもビックリぃぃ。佐々木って白川にぞっこんって感じだったじゃん」

「石田って顔はいいけど、完全にヤリ目だよね」

「いぱらはどう思う?」

「……」


 二人から訊ねられたが、あたしはぼーっとして返事することができなかった。


「違うって。絵里花が浮気しただけだから」

「まだ別れてないってこと? じゃあ修羅場じゃん!」

「うん、うん」


 二人がなんか話してたけど、頭ん中が真っ白になって、あたしの周りの景色は白黒に映ってしまってる……。


「ねえってば、ねえ」

「いばら、どうたっの? どっか痛いの?」

「あ、うん……いやどこも痛くないって。ただ驚いた……」


 めぐみとヨーコがあたしの身体を揺すってきたり、おでこに手を当てたりしてきて、ようやく正気に戻った。


「実はさ、佐々木には白川はもったいないんじゃないかって思ってたんだよ」

「えー、めぐみもそう思ってたの? わたしもなんよ」


「それでさ、白川って地味だけど、なんでも気使ってやってくれて、なんつうか大人の包容力みたいなところを感じるよね」


 そうなんだよ。あいつは面倒見がいいというか、いっしょにいるとしあわせな気分になるというか、とにかく最高にハッピースマイルセットみたいな奴なんだよ。


「あれ~、いばら。うんうん頷いて、どうしたの? もしかして白川に気があるとか……?」

「ち、ちげえよ。ただおまえらの話に頷いてただけだから」



 包容力というか、面倒見がいいっつうか……思い出すのが一年生のとき白川といっしょに勉強したことだ。


――――高木家。【回想】


 あたしは元レディースの総長やってた奴からお説教を受けていた。今は黒髪ロングで清楚を装いミジンコもそんな印象を受けねえけど。


『いばらちゃん……この成績はなんなの? お母さんはあなたが赤点を取ってきて悲しいわ……』

『たまたま……そんときは腹の調子が悪くて、本気出せなかっただけだってんだ』


『それなら仕方ないわね~。じゃあ、追試はちゃんと通るのよね? ね?』


 くそっ、母さんの笑顔で優しげに語りかけてくるが、目はまったく笑ってねえ、すげえ圧力にあたしには選択肢がなかった。


『ああ! もちろんだよ、誰がそうそう赤点なんか何度も取るかよ、バカじゃあるまいし』

『そう、良かったわ~。もし今度赤点なんて持って帰ってきたら、お小遣い抜き、コスプレ禁止、そして塾に入れようかと思ってたの~』


『なっ!? そんな理不尽な!』

『そうなの? さっきいばらちゃんは赤点なんか取らないって、豪語したわよね? それともその言葉は嘘だったの?』


 二十から三十点の答案用紙をあたしにぐりぐりと押しつけて、母さんは訊ねてくる。


『ち、ちげえから……』

『うん、お母さん、いばらちゃんを信じてるわ』


 母さんに苦し紛れに答えるのが精いっぱいだったが、答えると母さんは満面の笑みを浮かべていた。こいつには絶対逆らっちゃいけないオーラをぷんぷん漂わせながら……。


 次の日の放課後。


『いばらぁ~、頑張ってね!』

『こ、この薄情者ぉぉぉ~!』

『仕方ないじゃん、赤点取ったのいばらだけなんだし……』

『あうう……』


 薄情なめぐみとヨーコはあたしを置いてそそくさと帰ってしまった。


『マジわっかんねえ!』


 仕方なく母さんから締められねえよう教室に残って教科書を開いていると、邪魔が入る。


『バカのいばらが勉強してるぞ』

『あ? なんか文句あんのか?』


 石田の野郎!


 あたしにフラれたからって、根に持ちやがって! こういう奴に限って、あそこがやたらちっちぇえとか、早かったり、皮かぶってたりしやがんだ。


 マジ最低だよな。


 石田に勉強の邪魔されて、イラついてるところに白川が現れて……、


『石田、やめろって。高木さんが頑張ろうって思ってるんだから、邪魔するなよ』

『どうせ、無駄な努力って奴だよ、バカらしい』

『無駄なんかじゃない!』


『ああ? だったら、賭けようぜ。いばらがまた赤点取ったら、白川がパン一で土下座してもらう。どうだ?』

『はぁ!? てめえ、無関係な白川を巻き込むんじゃねえよ』


『いいよ、その勝負受けて立つ。その代わり高木さんが赤点を回避できたら、二度と彼女を揶揄ったりしないと誓え』

『いいぜ。まあいバカないばらが赤点を回避できるわけねえって』


 クズの石田はあたしをバカにして帰っていったが、白川は……、


『気にすることなんてないよ。それより分からないところがあれば俺に教えて』

『あ……ありがとよ……』


 なんだか白川といっしょにいると頑張れそうな気がする。


 それからというもの、あたしは白川に認めて欲しくて頑張った。


『なんだと!? バカのいばらが追試を余裕で通っただと……』

『はっはっはっ、あたしが本気だしゃ、余裕余裕!』


 石田に七十五点と赤ペンで採点された答案を見せつけてやると奴はめちゃくちゃ狼狽うろたえてやがる。


『はん、どうせカンニングでもしたんだろうが! バカのおまえがそんな点数取れるわけねえし』


 石田は六十点しか取れなかったことを根に持って、あたしが一番嫌う不正を疑ってきやがった。人からバカと言われようが、あたしはぜったいにそんなことしねえ!


 あたしはなぁ、おまえとは違う!


 と石田に言い返そうと思ったときだ。


『違うよ、高木さんの実力だ。どれだけ彼女が頑張ったと思ってるんだよ!』


 白川があたしを庇うように前に出て、代わって石田に言い返してくれていた。


『くそっ、つまんねえ』

『待てよ、石田! おまえ……あたしが赤点だったら白川にパン一で土下座しろ、とか言ってたよなぁ? じゃあ、おまえもパン一で謝るのが筋だろ』

『なっ!? そんなことするかよ!!!』


 都合の悪くなった石田の野郎は逃げるようにそそくさと教室を出て行きやがった!


『やったね!』

『おう! ざまぁみろだ!』


 白川とあたしはダチみたいにハイタッチして、よろこび合った。


 なんだろう、男子とこの距離感……なんか堪んねえな……。



 家に帰ったあと、勉強教えてもらったお礼にあたしは唯一得意な家庭科でお菓子を作っていたら、めざとくBBAが口を出してきやがった。


『なに、なに? もしかしていばらちゃん、気になる男の子に渡すとか? お母さん、手伝ってあげよっか?』

『ちげえし。それに手伝いなんていらねえから』


『そうよね、お母さんが手伝っちゃうと想いが伝わらないわよね』

『だから! そんなんじゃねえよ!』

『かわいい、いばらちゃんなら大丈夫』

『……』


 くそっ、なんでもかんでも母さんにはあたしの思ってることが読まれちまう。


 でもそんなんじゃねえし!


 ただのお礼だし!


 翌日……。

 

『白かわ……』


 私が白川に声をかけようとしたときだった。白川の男の子っぽいしっかりとした背中に見とれていると、ちらとあたしの方を見て、まるで自分のものだってアピールするようにあの女が白川と腕を組んでいた。


『優一、帰ろ』

『あ、絵里花……うん』 


 渡せなかった……。


 ぼっちのあたしを置いて、白川と佐々木は教室の扉を出て帰っていってしまったから……。


 リボンやらで目いっぱいかわいくラッピングしたクッキーを入れた袋をあたしは手で握り潰した。


 叶わない想いだったんだと。


―――――――――あとがき――――――――――

いばら、絵里花になんぞに負けるんじゃねえぞ! とお思いの読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。たくさんいただくといばらが絵里花と石田にきっちりざまぁをぶちかましてくれるはずですw

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