第5話 転落の始まり【ざまぁ】
――――【絵里花目線】
「んんん……」
まだ優一から連絡ないじゃん。
はあ、早く目が覚めて損した気分。
仕方ないから二度寝しよ。
あとはぜんぶ優一がやってくれるでしょ。
にしてもカーテンの隙間から差し込む光が高い……。
「えっ!?」
もしかして……とベッドテーブルに置いてある時計へ視線を移すと時計の針は七時半を差していた。
あの役立たず!!!
モーニングコールぐらいまともにできないとかマジあり得ないでしょ!
優一は、大して格好よくもない、背だって普通、勉強だって中途半端、運動なんて部活すらしてない、私に蹴られただけでまるで女の子みたいな声をあげる、そもそも頼りない、しかも趣味はプラモ作りとか、イラスト書いたりとキモオタ全開!
もう無理、無理、無理、無理、無理、無理!
あんな冴えない男と結婚しなきゃいけないとか考えただけで頭痛がしてきて、ずっと悩んでいたら渉が声をかけてきて、身体の関係を持っちゃった!
どうせ黙っていれば、鈍感な優一が気づくはずないし、たとえ気づかれても気弱な優一が私に文句なんて言えるはずがないんだから。
ってば、そんなこと
どうしよう、どうしよう……。
焦って気が動転すると、その場で身体がクルクル回ってしまい、なにも手につかない。
えっと、まずはパジャマを脱がないと!
私は両手を上げたが、一向にパジャマの上着は脱げない。いつもなら優一がパジャマを引っ張って脱がしてくれるっていうのに!
「ああっ! もう! 優一の奴、今日に限ってなんで家に来ないのよ、バカ、バカ、バカーーーッ!」
枕元に置いてあったスマホを手に取り、怒りに震える手ですぐさま優一にメッセージを送る。
〈家まで迎えに来なさい! 秒で!!!〉
〈遅い! 遅い! 返信しなさいってば!〉
〈いつまで待たせるのよ!〉
〈ふざけんな!〉
〈見ろよ!〉
・
・
・
〈電源入れろ!〉
〈スルーすんな!〉
〈優一のバカ、バカ、くそ童貞!〉
〈覚えてなさいよ!〉
はあ、はあ……。
おかしい、優一の奴、電源でも切ってるのかと思うほど、メッセージを数十件送っても既読すらつかない……。
ああ、なんだ、スマホの充電し忘れて、電池切れしてただけなんだ。だったらあとで足の指舐めさせるお仕置きしてやんないとね。
椅子に座った私が、目の前で跪いた優一の顔に向かって足を投げ出すとあいつが屈辱にまみれて、悔しそうにするあの顔を見るだけで本当にゾクゾクするっ!
優一は一生、私の犬なんだから♡
って、こうしちゃいられないんだった。
ドレッサーの前の鏡に向かって呼びかけた。
「こんなにかわいい私が優一みたいな冴えない男以外と付き合えないなんて、おかしいのよ!」
前髪をピンで留めてメイクを始めたんだけど、いつも優一にやらせていたから久々で上手くいかない……。
「ああっ! もうっ!」
アイラインがはみ出し、コットンパフで拭いたらパンダか、殴られた人みたいになる。
荒いながらもこれ以上、時間をかけると無遅刻の記録が途絶えてしまうので、我慢してヘアセットにかかるがとにかくアホ毛が跳ねて、直らない!
「優一のバカァァァァーーーーーーーーッ!!!」
イライラがあふれ出して、最後はワックスでアホ毛を無理やりセットしたんだけど、また問題が起きる。
あれ? スカートが入らない……まさかこの私が太ったっていうの!?
心当たりはあるけど、まさかまさか……。
「ああ、もうっ、入ってよ!!!」
ビリッ!!!
あああーーーーーーーーっ!!!
無理に履いて、ファスナーを上まで上げたら、スカートが破れた……。
――――学校。
ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……。
ホント最悪!
以前に比べると、まるで足を進める度にどすどすと音を立てているようで、身体がぜんぜん前に進まなかった。
やっぱり私太ってる……。
無理やり安全ピンでスカートを留めて出てきたけど、またワンサイズ……いいえ、もっと大きなスカートを買わなきゃ。
この頃、渉といる時間が増えて、優一と朝にヨガとジョギングやしなくなったからだ。ううん、運動はちゃんとしてる!
渉とベッドの上でだけどっ♡
それにしても学校が始まるまえから汗をかいて服の中がもの凄くぎもぢ悪いぃぃぃ……。
これもそれもぜんぶ優一のせいよ!
すぐにでも優一を捕まえて、叱ってやるんだから。どっちが上か、下か分からせてやる。そして下僕が主人に逆らったらどうなるかってこともね。
そう思うと怒りも収まり、どう優一をお仕置きしてやろうか、楽しみでならなくなる。
かいた汗は不快だけど、あとで優一に水泳部と交渉させて、シャワーでも借りてこさせればいい。
教室に入るとオタ仲間で眼鏡をかけた冴えない容姿の佐伯となんか話してたけど、佐伯を無視して優一に呼びかけた。
「優一っ!!!」
「あ、絵里花……いやただのビッチか」
なっ!?
私を起こしに来ないばかりか、まさかのビッチ呼ばわりって、なんなのよっ!
学校一の清楚可憐、眉目秀麗、成績優秀の私をそんな高木いばらみたいなケバケバしいギャルビッチでパパ活してるような阿婆擦れといっしょにするとか、あり得ない!
激高のあまり周囲の目も気にせず、優一を一喝していた。
「はぁ? あんた……誰に向かってそんな口聞いてんのよ! ふざけんのも大概にしなさいよ、私がパパとママに言いつけたら、どうなるか分かってふんでしょ?」
「言いつけられて困るのはどっちなんだろうな。ここじゃなんだ、場所を変えて話すか」
「なによ! 優一の癖に偉そうに!」
優一のくせにムカつくことこの上ない得意気な顔をして、スマホの画面を私に見せつけてくる。
「えっ!? うそっ!?」
目を凝らして小さなサムネ画像を見ると私と渉が抱き合ったものが映っていた。
ま、まさかね……そんなわけないわ!
―――――――――あとがき――――――――――
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