第3話 オタに優しいギャルとV Tuberな地味子
高木さんの耳にはいくつもピアスがあり、爪にはグラデーションの入ったラメのネイルが施されていて、姫ギャル系のファッション紙の表紙を飾っていてもおかしくなさそう。ギャル好きな男子なら目が釘付けになるに違いない。
だが女子はというと……。
「まったく下品な話ばっかり。これだから下級国民と同じ空気を吸うのも嫌になる……」
絵里花は高木さんと追い越し様に耳元でわざと聞こえるようにつぶやいた。その言葉に高木さんは即座に反応する。
「あ? 佐々木ぃ、今なんつった?」
「品がないだけじゃなくて、お金も美貌も学もない……ダメを表す典型的JKと言いました」
語気は強いが高木さんは拳を握り締め、絵里花の挑発に興奮しながらも堪えているのが分かる。俺は彼女が見た目と違い、優しいことを知っていた。
「待って! 絵里花が高木さんのこと、悪く言ったのなら、謝るから。みんな喧嘩しないで」
「白川がそう言うなら……」
「所詮負け犬は黙ってて欲しいわね」
「なんだとぉ!?」
「絵里花……。ごめん、高木さん……」
「白川、おまえはなんも悪くねえ」
俺が謝ると高木さんはぽんと俺の肩を叩いて、一触即発のところを許してくれた。
とにかく絵里花と高木さんの仲は険悪で顔を合わすとだいたい口喧嘩に発展しそうになる。
「いばら、早くいこ」
「だな」
高木さんと一緒にいた子が彼女の手を引いて先へ歩いていった。その足取りは早く、よほど絵里花と一緒にいたくない、同じ空気を吸いたくないといった感じだった。
優等生タイプの陽キャをまとめる絵里花とギャルっぽい子のリーダーの高木さんはことあるごとに揉めている。
翌朝。
「ホント優一はぐずなんだからっ! 遅刻したらどうすんのよ!」
「ご、ごめん……」
絵里花がインスタ、インスタとうるさく騒いだので俺は気合いを入れ、早朝4時に起き眠い目を擦りながら弁当づくりに勤しんだ。
だが絵里花へのモーニングコールが遅れたことでのうのうと寝ていた彼女はお化粧する時間がわずかしか取れず、俺を家にまで呼び出して教科書などを鞄へ入れる手伝いをさせた挙げ句、遅刻すると文句を垂れているのだ……。
ここまで来ると責任転嫁の女王さまになれるんじゃないかな?
俺が世の中の理不尽を嘆いていると絵里花の友だちの秋月が話しかけてきた。
「絵里花、おっはよー! もう数学の課題できた? あれ、難しかったんだよね」
「恵美、おはよ。もちろんよ、あんなのチョロいもんだって」
「さっすがー!」
ふ
ははは、そりゃ俺にやらせて、ノート写せばチョロいもんだよなー……。
「はあ……マジで優一といっしょに歩くとかない」
奇遇だな。
俺も絵里花と一緒に歩いて、教室に仲良さそうに振る舞って入るとかない。一緒にいたくもない教室にたどり着いて鞄を机の上に置いたときだった。
俺たちの目の前を黒髪ツインテの三つ編みに長い前髪と黒縁眼鏡の女の子が通り過ぎようとしたのだが、絵里花が彼女に向かって足を出す。
バッサーーーーッ!!!
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
眼鏡の女の子は絵里花の足を避けたがバランスを崩し、抱えた大量の本を教室の床にぶちまけてしまい、ぺこぺこと平謝りしている。
「はわわわ……どうしよう、どうしよう……」
「トロい子」
絵里花は吐き捨てるように口に手を当ててうろたえている女の子に言い放つと無関心を装う。
悪癖だった。絵里花は自分より劣っている人間に対して、態度が横柄になる。
俺は本を落とした彼女がいたたまれなくなって、気づくと身体が動き、しゃがんで彼女と一緒に本を集め出していた。
「俺も手伝うよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
彼女は図書室の地味子と渾名されている島谷萌。
ブレザーよりセーラー服の方が似合いそう。
すべて30冊近い本をすべて拾い上げ終えると島谷さんは俺に丁寧にお辞儀した。
「白川くんのおかげで助かりました」
「いや、俺は特になにも……」
俺が島谷さんのお礼に照れて、こめかみをかいていると絵里花から横槍が入る。
「そうだ島谷さん。私、本返し忘れてたから、ついでに返しておいてくれる?」
「あ、はい……」
まるで自分の召使いみたいに島谷さんが抱える本の束の上に借りていた文庫本を重ねる。
二人で返却本を運びながら、図書室へたどり着くと島谷さんは受付をしていた図書委員と軽くあいさつを交わすと彼女たちに本を渡していた。
島谷さんが受付を変わろうとすると、
「ほら萌、言ってた子って彼でしょ?」
「う、うん……でも白川くんには幼馴染の彼女が……」
「もう、萌はスゴいんだから、自信持って!」
なにかひそひそと内緒話をしていた。
「白川くん……良かったらお話できませんか? あ、ダメですよね、私みたいな陰キャとお話なんて……」
「ううん、別に構わないよ」
二人でテーブルに座りながら、世間話に興じていた。
「それにしてもみんな酷いよな。島谷さんが図書委員をしてるからって、自分たちが借りた本を押し付けて返させるなんて!」
「いいんです、これも図書委員の役目ですから。それにこうやって、いっしょにしらっ、しらっ、しらか……」
島谷さんは指を誰かが返し忘れたのか、テーブルに置いてあった『城の崎にて』の表紙の上でもじもじと人差し指を回していた。
「
「は、はいっ! いいですよね、白樺派!」
緊張で顔を赤く染めたかと思うと俺の問いに答えたら、ぷしゅーっと音を立てて溜まった蒸気が抜けたようになる。それでも彼女は俺との会話を成り立たせようと努力しているようだった。
「あ、あの~、
「そうだなぁ、
「ほ、ほ、ほんとですかーーーーっ! うれしいです!!! 私、寿桃ましまろのなか……」
「なか? 中の人?」
「あわわ……私と白川くんはましまろ仲間ですね」
「ああ、ましまろってホント面白いし、観てて飽きないよな」
「はい!」
そういや、どことなく島谷さんって、ましまろの声が似てるような。まあ、ましまろはおどおどしたところはないし、自信に満ちあふれてるから、そりゃないか。
委員の仕事がある島谷さんと別れて教室に戻ってくると、絵里花は取り巻きの陽キャグループの女子の間で島谷さんの陰口をしている。
「ホントあの子、萌っていうか、芋って感じ。あの子の両親の前でお子さんに似合ったお名前をつけてあげましょうね、と伝えてあげたくなっちゃう」
「あははは、ほんとそれ!」
絵里花に合わせ島谷さんを笑い者にして、ゲラゲラと彼女たちはお腹を抱えていた。
こいつら見た目と裏腹に中身はクソだ。
もう絵里花といっしょにいることが限界を迎えようとしていたGWに事件が起こった。
ピロン♪
スマホを握った手ががたがたと震えた。
【おまえの彼女はオレが寝取った】
そんなシンプルなメッセージと共に添付された動画。フェアリーを名乗る正体不明の人物から俺のLINEに送りつけられた動画の内容が衝撃的過ぎたものだったからだ。
―――――――――あとがき――――――――――
次回、脳死どころか笑死するかもしれないNTR回です。期待値を込めてのフォロー、ご評価お願いいたします。
オタクに優しいギャルと言えば喜多川
作者も海夢たんが五条くんの畳んだお布団の上にビキニで座るというえちえちシーンが書きたいぞ!
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