10 無才の冒険者 その10

 裏庭の倉庫にてホーンラビットで満載されている回収袋を係員に預け、ギルドカードも預けて実績を記録。空の回収袋を借り受け、早目のお昼を食べてから再出撃して行くラハク。そしてその実績を伝えられた受付裏の事務作業を請け負っている裏方ではちょっとした騒ぎが起こっていた……

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──え?……登録したその日にこれ?……ひょっとして……──


「いいえ。魔法通信で調査したけどそれは無かったわよ」


「……いや、質問する前に答えをいわないで下さいよ!……話しが早いからいーんだけど……」


 先輩事務員に突っ込む後輩事務員。要は、他の冒険者ギルドなんかで高ランクの冒険者がこの「ニノコマナミエタ町」支部に来て再出発……なんて可能性は無きにしもあらずだが。


「ラハクくんは15歳だし、仮に再出発組だとしても他ギルドで高ランクってのはあり得ないわね」


「なんでですか?」


「彼は隣村の「エメヒチカ村」の出身で、数日前に出て来たって話しだから」


「あぁ……ひょっとして良いスキルに恵まれなかったのかな?」


「……そういうのは「あっ、はいっ、口にチャックですねっ!?」……宜しい」


 多感な子供だし気にしてる場合は傷付けてしまうのだ。大人で指導すべき彼女らが彼らを傷付けてしまうのはタブーだし傷付けるのはもっての外……という訳だ。


※後輩事務員は今年成人15歳したばかりで、先輩事務員も2歳年上なだけですがw



「さて……午後はグラスウルフでも狩ってみよっかな?」


 午前中はホーンラビットを30頭くらい狩りまくり、角を30本。毛皮は最初こそ失敗してたけど……20枚くらいは何とか納品できる程度にぎ取れたと思う。肉は最初の1頭だけズタズタになったので自分用に取って置き、残り29個は納品用にはなったと思う……多分。


(まぁ……幾つか仕分けしてたから、幾つかは売り物になってないのかもなぁ……)


 ギルド内の酒場?……で料理用に引き取って貰ってれば御の字かな? そう思いつつ、時折見つけるホーンラビットを狩りつつ、草原の奥へと歩いて行く……



「ん?……あれかな?」


 ホーンラビット3頭を囲んでいる10頭近い狼の群れ……あれがグラスウルフだろう。ホーンラビットは割と強い。彼らの武器は瞬脚と額の角だ……一瞬にして加速する脚の力とその突進力を生かした角の貫通力。だからこそ、グラスウルフたちはその突進力を生かせないように囲み、連続で攻撃して反撃を受けないようにしてるんだと思う。


 でも、油断していたのか1頭のホーンラビットが囲いを脱出し……


「おお……」


 あっという間に、文字通り脱兎の如く逃走して……


「お?」


 急角度のUターンを決めて、追い掛けて来ていたグラスウルフの頭部を貫く……


「おー……」


 そして今斃したグラスウルフの背中を蹴り、後ろのグラスウルフを側頭部から貫いてぶち斃す!


「あっという間に2頭斃したか……でも、ホーンラビットって肉食なんか?」


 なんて思ってる間に2体を斃されたグラスウルフたちが唖然としてる間に囲っていたホーンラビットが脱出→Uターンダッシュ→頭部をぶち抜く……というコンボで残りのグラスウルフを襲い出した!


「うわぁ……10体居たグラスウルフたちがあっという間に残り4……3体に……あ、逃げた」


 狼なのに脱兎の如く逃げ出すグラスウルフ。餌と思って襲ったら、実は兎の皮を被った強者だったという……


(うーん……弱肉強食の世界だなぁ)


 ……と思いつつ。ホーンラビットは逃亡するグラスウルフを見て、そしてこちらを見て……


(こちらに気付いたか……襲いに来るのかな?)


 と思ってたら、ぷいっとそっぽを向いて去って行く。


「……これ、要らないの?」


 置き去りにされたグラスウルフの死体が気になり、何となく聞いてみる。いや、ホーンラビットが返事するとは思ってないけどさ。


「……」


 足を止め、ぴこぴことうさ耳を動かして、また走り出す。どうやら特に腹は空いてないようだけど……


「わかった。ありがとな……じゃあ、お礼にこれでもっ!」


 ……といいつつ、赤い野菜を3本投げる。


「「「!?」」」


 投げた先にダッシュして、ジャンプ。3頭が1本づつ、それぞれの口に咥えてキャッチして着地……そしてこちらを振り向いてうさ耳を暫くぴこぴこ動かしてからその場で咀嚼……食べ終わると満足したのかそのままうさぎらしくぴょんぴょんとスキップ?して去って行ったのだった……w


「お気に召したようで。じゃ、遠慮なくこいつらは頂くね?」


 ラハクはグラスウルフの死体を7体。流石に解体の仕方がわからないので回収袋に全部仕舞い込む。


※ホーンラビットは村でも狩ってたので解体の仕方がわかったが、グラスウルフは図体が大きいし毛皮の綺麗な剥ぎ取りの仕方がわからなかった為だ(7体しか無いし)



「さて……ちょっと早いけど戻るか……」


 だが、帰還して報告の段階で、また受付嬢の悲鳴が轟くこととなる。何故か?……それはまた次話で!


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ヒント:

遭遇したホーンラビット3体は希少種のジェットラビット。脚力が通常種の3倍もあり、額の角も通常種より硬くしなやかで1.5倍も長い。雑食で肉も野菜も食すが特に好物なのが人参と呼ばれる赤い根菜であり、グラスランドの町の草原の畑では栽培されてないので少し遠く100kmにある森の近辺まで行かないと自生してないらしい……。尚、出会ったら絶対逃げろ!……と呼ばれる程に狂暴(空腹時限定)であり、普通装備薄い金属鎧の冒険者など、腹を角で貫かれて死ぬしかない……とまで恐れられている。

※ラハク?……普通の布装備……というか布の服でしたよ?w

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