第25話 変化④

 一通り話が終わった後、沢村が笑いながら落ち着きを取り戻しつつ聞いて来た。

「何か言いたくて呼んだんでしょ。話し過ぎちゃって、れちゃったけど」

「えっと、そうだな」

「本題、忘れちゃった?」

「忘れてない、忘れてないけど。なんというか……」

 昼休みに作ったご飯を持って行って言われたことに、モヤモヤしていた。自分の為に作って嬉しかったんだけど、周りにはそう見えなくて言われた言葉に、少し傷ついていた。でも、それを言うとダサいかなぁと躊躇ちゅうちょしていると、

「料理が面倒めんどうになったとか?」

「違うよ、そんなんじゃない」

「じゃあ、何? 何かあった?」

「うん、作るのが楽しくなって簡単な物も作るようになったんだ。卵焼きだったり、ウィンナーを焼いただけの物とか」

「すごいじゃない、作れるおかずの品が増えると嬉しいよね」

「うん。でも、それを昼ご飯に持って行ったら、彼女が作ったのかとか婚活かと言われたりして。そうじゃないのに、なんか嫌だなって。飲みの誘いも断ったら、前と変わったって言われたり、飲むよりも作ることが楽しくなっただけなのに」

 まっていた想いを吐き出した。恥ずかしかったけど、なかばやけくそになっていた。


「そんなこと言われちゃったんだ。せっかくのモチベーションが下がっちゃうね」

「なんか、嬉しいのに恥ずかしくなったり、でもやめるのも嫌だし」

「うん、いいんじゃない。せっかく料理の楽しみを見つけたのに、もったいないよ。周りのことは、言わせておけばいいんじゃない。美味しいものが作れるって、楽しいよ」

「続けられるかなぁ、俺」

「気軽にやったほうがいいよ。無理しないで、楽しいものも楽しくなくなっちゃうから……あっ、料理来たよ」

 ちょうど、頼んだものが運ばれてきた。ミックスサンドとパスタ。それぞれの食べたいものだ。

「美味しそう、食べたいものを食べれるっていいよね」

「お腹空いてたから、ちょうど良かった」

「食べることが好きだから、作れる料理が増えたらいいなぁと思うけど、難しいのもあったりするから。味噌汁が、初めて作って嬉しかった料理なの」

「へぇ、そうなんだ。よく、料理本にはハンバーグとかチャーハンとか人気の料理が載っているよな」

「うん、作れたらいいけど、難しくて。調味料をそろえるのに大変だったり、作業が多くて、日常的に作るとなると味噌汁だなって」

「そうなんだ、俺も自分の好きな物作ろうとしたんだけど、やることが多くてさ。途中で訳分かんなくなっちゃって、これは慣れたからにしようって。卵焼きにとかになった」

「そうだよね、そうなるよ。作れそうなものから作っていった方が、楽しかったりするんだよね。食べたいものって難しかったりするから」

 

 食べたいものと作れるものは違うことを、その時、初めて知った。

「うん、出来ることを増やした方が続けやすいなって思って、ほうれん草のお浸しとか、冷奴とか。定食屋さんの小鉢こばちとか見て、作ってみたりしてる」

「いいね、それ。そういう方法もあるんだ」

 きっと、他の人からしてみれば、何やってんだってなるんだろうけど。些細ささいな事でも、大発見だ。料理初心者の俺にとっては、それが嬉しかった。その嬉しさを共感してくれることも嬉しかった。人にとっては、大したことでないことも俺たちにとっては大きなことだった。





















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はじまりの後 水上絢斗 @mizuaya-710

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