第15話 楽しさ①

 お腹が満たされて、気持ちも満たされたのか、沢村はずっとニコニコだった。

「美味しかったね、親子丼。うん、美味しかった」

 何も返事をしていないのに、1人で会話している。よし、今がチャンスだ。

「じゃあ、俺はここで……」

「なんで? どこ行くの」

「え? いいだろ、どこだって別に」

「お店に行くんでしょ」

「いいだろ」

「行く」

「来たって、つまんねぇって。途中で、帰りたいってなるって」

「ならない」

「とりあえず、洋服とか広げるだろ」

「広げない」

「チョロチョロ動いて、どっか行くだろ」

「行かない」

「言ったな?」

 本当に、頑固な奴。とりあえず解散して、自由行動の方が有意義ゆういぎなのに。


「俺に付いて行ってどうするんだよ」

「普段は入れないから、中に入って見てみる」

「何を?」

「店内を」

「もう、大人しくするんだぞ」

「うん」

 沢村なぜ、お前はデカいリュック背負っているんだ。今から、俺らはピクニックじゃなくてお洒落しゃれな店に行くんだぞ。耐え切れず、沢村に聞いてしまった。

「そのデカいリュックに、何が入っているんだよ」

 沢村が、しばらく黙ったままポツリと応えた。

「夢と希望」

 そのまま、静かに店に向かった。


「いらっしゃいませ~」

 はぁ~、素敵なお店。ディスプレイもイケてるし、いい匂いがするし、なんていったってセンスがいい。俺は深呼吸して、さっと見始めた。アウターを探していると、好みのものがあった。ネイビーで、暖かそうなダウンだ。合わせやすそう、値札を見ると……やっぱ、結構いい値段するな。他のも見て回った。カッコいいな、革、お手入れが難しいかな。ふぅ、いい値段だな。

「ご試着も出来ますので……」

「はい、ありがとうございます」

 時々、店員さんに声をかけられる。買えそうなら、試着したいんだけどなぁ。あれ、沢村はどこ行った。キョロキョロと、見渡してみると、遠くで店員さんと何やら話していた。何か、買うのか……と思い、会話に耳を傾けてみると

「裾上げのシングルとダブルって、何ですか?」

「はい、折り返しの違いですよ」

 はぁ? こいつ、暇をもてあそばして何を店員さんに聞いているんだよ。慌てて、近寄った。

「す、すみません。お忙しいところ、裾上げの話なんて」

 沢村の腕をグイッとつかんで離した。

「なんで、裾上げのこと聞いてんだよ」

「だって、知らなかったんだもん。ちょっと、聞いてみただけだよ」

「店員さんも忙しいの」

「そうだけど、気になって」


 もう、おちおち買い物もしてられねぇ。まあ、するけど。これは、ちょっと大変な買い物になりそうだ。
















































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る