第14話 譲り合い

 はぁ……これじゃあ、話が進まない。

「じゃあ、いいよ。ご飯食ってから、お店行くから」

 沢村はキョトンとした。どうやら自分から折れようとしたけど、先にやられてしまって拍子抜ひょうしぬけしたような感じだった。何か言いたげになったので、すかさず

「いいから、とりあえず飯食いに行こうぜ。何が食いたいんだよ」

 無言で、路地裏を指差した。それは変えないんだな。恐る恐る、進んでいった。何件か、飲み屋が連なってて、その通りの先に

「創作料理? 和食」

 へぇ、意外。結構リーズナブルだし、写真の料理も美味しそう。コース料理あるんだ、予約入れてないけど入れるのか。ちょっと、こじんまりとした良い感じのお店だった。

「そっちじゃないよ、こっち」

 沢村が指差したのは、横にある定食屋さんだった。店の外まで、良い香りがする雰囲気のあるお店だ。

「渋いとこ行くのね」

 思わず、言葉が出てしまった。俺の気持ち的には、通り先の創作料理の和食屋さんだ。


「うん、ここの親子丼が食べたい。かつ丼とも迷ってる。味噌汁も付いている」

「ああ、そう」

「豚汁にしようか、迷っているんだけど。入ってから、決める」

 デートなら、雰囲気的に創作料理の方だ。でも、これは違うから沢村の判断の方が正しい。店内に入ると仕事帰りらしき人も、ちらほらいた。ご飯を食べながら、瓶ビールを飲んでいる。夜は居酒屋にもなるのかな。1人でも、くつろげそうだ。メニューは店内に貼られていた。何がいいかなと、ぐるりと見渡す。

「あっ、決まってんだっけ。何すんの」

「うん、親子丼と豚汁」

 沢村は、ニコニコして応えた。待ちきれないといった感じだ。

「俺も、親子丼にしようかな」

 特に何が食べたいとかはなかったから、同じにした。2人で、親子丼を待つ。

「食べることが好きなんだな」

「うん、美味しい物、食べるのが好き」

「何が、1番好きなの。食べ物の中で」

「決めきれないよ、1番なんて。どれも美味しい物ばかり」

 ずっと、微笑んでいる。

「じゃあ、好きな食べ物って何なの」

「う~ん、カレー、ハンバーグ、トンカツ、親子丼も好きだし、サバの味噌煮かな」

「へぇ」

 親戚しんせきおいっ子と話しているようだ。危うく、大きくなれよと言いそうになった。


「洋服が好きなの? 食べることより」

「俺? そうだな、食べることよりも好きだけど、お店まわることも好きだから」

 多分、待ちわびてしまって俺の返事なんか興味もなさそうだ。

「まぁ、食べたらまわるけど。本当についてくるの?」

「うん」

「別に、無理しなくても。現地解散でいいじゃん」

「いいの、見たことがないから行ってみたい」

 やっぱり、変な奴だ。しばらくすると、親子丼が運ばれてきた。

「美味しそう」

 親子丼が輝いているように見えた。

「これ食べたら……」

 もう1度、聞いてみる。

「ついていく」

 大きな口を開いて、頬張ほおばった。

























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