第13話 こだわり

 ご飯、ご飯、早くさっさっと見つけて食って、行きたかった店に行かなきゃ。ご飯は、特になんでもいいんだよな。俺は、そこまでお腹空いていないし……。

「って、おい! どこ行くんだよ」

 ずっと、さっきから携帯とにらみっこして、路地裏ろじうらに入ろうとした。

「こういう場合は、路地裏に美味しいお店があると思うの。美味しそうな匂いがする」

 いやいや、ここの土地勘がないんだから、こいつ何、考えているんだ。

「いやいや、待てって。ここら辺で探せばいいだろ。そんな路地裏に入って戻れなくなったら、どうするんだよ」

「携帯で確認していくから、大丈夫だよ」

「初めてのところだろ、危ないって。なんで、そんな……ここら辺でいいだろ」

 迷って戻れないどころか、からまれたらどうするんだよ。

「大丈夫だよ、まだ明るいから。美味しいご飯、食べたいでしょ」

「俺は、別に。ここら辺で適当に探せば……」

「なんで、洋服はあんなに見たがっていたのに! それじゃ、お腹いっぱいにならないでしょ」

「別に、お腹いっぱいにならなくていいし。何だよ、いいだろ」

 ふん、お互いにゆずらなかった。俺は、他の店をまわりたいのだ。こいつは、飯が食いたいんだと。だから、俺らはダメダメなんだ。


「分かった、怖いんだ」

 急に、沢村は腕を組んで言い放った。

「何だよ、怖いって」

「路地裏に入るのが怖いんだ。ここでは強がっているのに、意気地いくじなしね」

 おい、俺を挑発してんのか、この女。女の売ったケンカにのりたくないのだが。

「あのな、別に怖くねぇし、別にお腹空いてないって言ってんだよ」

「私は空いているし、美味しいものを食べたいの。だから、携帯で調べてる」

 何の宣言せんげん? そして、この時間は何だよ。ダメだ、俺たちはケンカになる。一向にゆずらないし、お互いに頑固だ。


「ご飯よりも、店まわりたい」

「ご飯食べてから、店まわりたい」

「そんなに店に興味ないだろ」

「あるよ、今はお腹が空いているから」

 嘘だ、アウターのこと知らないお前が、何寝ぼけたこと言ってんだよ。それは、寝て言えって話だ。俺たちの間に、時間だけが過ぎて行った。

















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