第12話 意外

 カッコいいって素敵、渋いって素敵。思わず、言葉が出てしまった。

「よし、カッコいいのは分かった。計量スプーンって、どこ?」

「あっ、これは」

 スプーンの内側にみぞが付いていて目盛りが描かれている。

「1個で大さじも小さじも計れるんだね。場所取らなくていいし、便利だね」

 へぇ~と感嘆かんたんの声をらした。おい、こっちは初心者だぞ、スプーンは1個1個に決まっているだろ。

「うん、俺は別に場所とか取っても気にならないから。あっ、これいいな」

 持つ部分が長めの、いくつかスプーンが付いているものがあった。

「これは何?」

 最初のスプーンじゃない奴が付いている。

「これは、すりきり用のヘラとかかな」

「すりきり? へら」

 沢村は、えっそこから!?という表情を一瞬浮かべた。何だよ、しょうがないだろ、だって初心者なんだもん。


「えっと、まず粉や調味料とか普通にすくって、はみ出している部分をすりきって、たいらにしてそれではかるの」

「そのまま入れるとダメなの?」

「そのままだと多いし、正しくないからね」

「それ用の道具ってこと?」

「うん、大さじ半分の場合はこれに半分を取ればいい」

「すげぇ」

 何、この便利でカッコよさ。こんな簡単にできるの。しかも、それ用の道具もみ出すなんて、すごい。沢村の動作をマネて、自分もやってみる。

「これ、買う」

「ありがとうございます」

 別に、沢村の為ではない。俺の為だ。ちょっと、子供っぽくなる。大丈夫、それさえ分かれば、こっちのもんだ。何も恥ずかしくない。ただ教えてくれる人が、もう少し優しくなれば、俺だって多少、素直になる。


「よし、買うべきものは買った。これさえあれば、何だって出来る」

 道具を手に入れた、もう満足。

「私も何か買っていこうかな」

「何か、欲しいもんでもあるの?」

 自分の欲しいものが買えたので、買った計量スプーンを見つめながら応えた。

「何か、見ていたら欲しくなってきたな。このお玉買っていこうかな」

「お玉? 持ってないの」

「ううん、持ってるけど。内側に目盛り付いてて、便利そうだなって」

 それは、お玉の内側に線と目盛りが付いていた。この人、内側に目盛りが付いているの好きなのか。さっきも、1個でいくつも計れるって計量スプーン見てたっけ。

「ふーん、俺は道具は道具で買うタイプだから。そういうのは、便利とか追い付かない。使いこなせないから」

「う~ん、お玉はあるんだけどね。買おうかな」

 悩んでる、迷ってる。

「迷っているなら、買えば」

「う~ん、また今度考えてみる」

 決まってんじゃん、何この時間。

「そういえば、お腹空いたね。所々、料理の写真があるからお腹空いたのかな」

 確かに、お鍋やフライパンコーナーに料理の写真があった。それよりも、俺はここに来る所にあった店の洋服やスニーカーを見に行きたい。でも、俺にもこの人に恩というものはある。本心の言葉は、そのまま飲み込んだ。


 何だよ、サバサバしているかと思ったら優柔不断なところもある。そうかと思ったら、心の中決まっているし、マイペースなのか、分かんねぇな。とりあえず、今回のお礼は果たさないとダメか。その後に、自分の行きたいお店に行こう。俺は、心の中で考えた。


「分かったよ、何が食べたい?」

「う~ん、ここ出て歩きながら見てみようよ。いいお店があったら、そこに入ろう」

「いいけど」

 早く決めて、サクッと食べて終わらせたかったが、そうもいかないようだ。自分の思い通りには中々いかない。しょうがない。俺たちは店を出て、ご飯屋さんを探した。




























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