第11話 関係

 家に向かう道で、思い出し笑いをしてしまった。


「いいじゃない、お互いダメダメだから」


 何が、ダメダメだよ。気兼きがねない関係だな。だって、俺らはダメダメなんだから。何も怖くない。少しずつ、彼女のことを知っていく。失恋を引きずっていること、少し気が短くてせっかちなところ、そして名前は沢村花穂。お互い嫌いになったこと。そうすれば、別に気にしなくていい。


「計量スプーン……いつ買いにいこうか」


 携帯の連絡先の画面に問いかける。まさか、連絡先をもらってしまった。あんなに会うのは最後にするつもりだったのに、何がそうさせたんだろう。あの時は、想っていることと言っていることが正反対で、自分でも驚いた。


 女性の前では、カッコつけたいんだけどな。すごい、カッコいいと言われると嬉しかったし、楽しかった。でも、そんなことなんて言われなかった。


「いろいろ考えても仕方ない。風呂入って寝よ」


 今日は、ずっと考えてばかりで疲れてしまった。よく分からないことは、眠って忘れよう。


 昼休みはほとんど、味噌汁について調べていた。味噌汁って色々あるんだ。実家で飲んでいたのは、具がほとんど決まっていた。お豆腐にワカメに、キノコ、そんなもんだった。でも、調べてみると色んな具を入れているのがあった。ほうれん草、にんじん、鶏肉、あっ、豚肉は豚汁か。夢中になって調べてみる。


 味噌にも、色んな種類があるんだ。奥が深いんだな、料理一つにしても。


 嫌いな人と買いに行く。買いに行くまでに、味噌汁のこと少しでも分かるようにしておかなきゃ。沢村に、バカにされないように笑われないように。分からないことがバレると、すぐ上から目線になるからな。知識が上になれば、そんなことは無くなる。俺が上に立つ。一緒に行くまで、想像したりする。


 待ち合わせは、買い物するショップの最寄りの駅にした。


「お待たせしました。待ちました?」

「待った待った。とっても」

 先に来たのは俺だったので、待っていた。

「嘘でしょ、待ち合わせの時間ピッタリよ。あっ、楽しみ過ぎて昨晩寝れなかった感じ?」

 あっ、イラっとした。

「はっ違うし、忙しすぎて忘れそうになったし。そして、ぐっすり寝たし」

 嫌味いやみっぽく、どや顔で返してやった。気持ちがいい。

「そうなんだ、いんむほど楽しみだったんだね。私も楽しみにしてたし、あんまり、こんな事ないし、何買うか知らないし、よろしく」

 ふふっと、笑って返した。くそっ、やられてしまった。嫌い合うって、こういうこというんだね。負けないぞ。


「なぁ、どこに行くんだよ。駅ビルの中にあるだろ」

 黙々もくもくと道を上がっていく、沢村に声が荒くなってしまった。路地ろじの中に入って、洋服のショップが点々としている。本当は、そのショップに入っていきたいくらいなのに、ディスプレイがカッコよくて、自然と足が中へと向かう。古着屋、デニム、スニーカー、いいじゃん。俺好みのショップが立ち並んでる。

「待って待って、味噌汁」

「いいだろ、少しくらい。味噌汁はいつでも」

「ダメだよ、味噌汁作れないじゃん」

「アウター探してるんだよ!」

「アウターって何!?」

 ダメだ、会話がダサすぎる。これを、お洒落おしゃれな店員さんに聞かれていると思うと、どんなに恥をしのんでも入れない。入り口で地味な女に腕をつかまれ、外に出されそうにあらがっているあわれな男に見えるだろう。味噌汁って。


「計量スプーン買いに行ってから」

「なんで、こんな道、知ってるんだよ」

「散歩してるから」

 少し息切れの俺に放った。散歩って。そうか、嫌いな者同士だから会話が成立しない。俺が知りたかったのは、なんでいい感じの店がある道を知っているんだよってこと。


「あった。あったよ、久しぶりに来たから、ちょっと道に迷いそうになったけど」

 やっと、辿たどり着いた先に目的の場所があった。

「へぇ、渋い」

「ふふっ、カッコいいでしょ。店構えも海外っぽくて」

 その店は路地に入ったところにあって、レトロっぽい感じの雑貨屋さんだった。店の外に置いている、ちょっとした家具もお洒落だ。

「えっ、料理道具もあるの」

「あると思うけど、もし計量スプーンがなかったら他で買おう」

 店の中に入ると、ドキドキした。ディスプレイが、カッコいい。農具小屋のような倉庫か、作業場のような隠れ家的な感じのワクワク感がある。

「なんか、買っていこうかな」

 手に取る雑貨1つにしても、テーブルに置いているだけでいいかも。店の中を巡るだけで、楽しかった。














































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