第9話 連絡先①

 一通り、動画を見終わって、ホッと安心したのかコーヒーを味わって飲んだ。見終わるまでは、味が感じられなかった。

「ありがとう。面白かった。良かった、味噌汁作れて」

「違うよ、面白く作ったんじゃない。美味しく作ったの」

「そうそう、美味しく作れて良かった」

 言いたい、計量スプーン買いに行きたいって。料理道具なんて持ってないから、お椀や普通のスプーンで計ったんだって。いつもなら、そのままのノリで言えるのに。お酒が入っていないからか、言葉が出てこない。連絡先だって、名前だって聞けてない。もう一度、コーヒーを飲む。別に、ただ道具が必要だから、分からないから……そう、それだけだ。


「カフェオレが身体にみる。美味しい」

「好きなの、カフェオレ?」

「うん、昔はよく大人ぶってコーヒー飲んでたな」

「俺も。最初はミルク入ってないと飲めなかったけど、慣れて飲めるようにした」

「そんなことしなくてもいいのに。あの時は、それがカッコいいって思ってた」

「うん、なんかそのまま飲めないとバカにされそうで、そうじゃないのにさ」


 聞きたかった。過去に何かあったのって、テラス席を見つめた瞳の理由が、いや過去のことを掘り下げるのはやめよう。俺みたいにイタい別れをしたかもしれないし。


「なんで、味噌汁なの?」

「えっ?」


 もう一度、コーヒーを飲む。女は一瞬ビックリしたように、こちらを見て、目線を落とした。あの時と同じ目線だ。

「いや、料理をしたことがないって人にさ、料理といえば卵焼きとか、簡単なものを言ってくると思ったんだけど、なんで味噌汁なのかなって思ってさ」

「濡れてたから、風邪引くといけないと思って」

「本当? レトルトのおかゆでもいいじゃん」

 問い詰めるつもりはなかったけど、理由があったら知りたかった。

「分かったよ、前の職場で密かに想いを寄せてた人に言われたの」

「前の職場?」

「うん、今はやめて別の職場に変えた。前の職場で、仕事を一生懸命してて、そうすれば誰か見ててくれるって。その時に言ってくれたの」

「何て?」

「風邪気味だった時に、味噌汁作ると良いよって。体調崩した時は、暖かい物を飲んで寝ると、ラクになるんだって。それで、嬉しくて作るようになったの」

「へぇ、そんなことがあったんだ」

「でも、その人は別の人と結婚しちゃった。そうだよね、気持ちなんて伝えてないし、ずっと仕事やってたらダブルデートとかしてたんだって。みんな、忙しい中でもちゃんとしてたんだなって。そしたら、私、今まで何してたんだろうって」

「まぁ、そうか」


 俺も、合コン行ったり、飲み会行っているからな。真面目だったんだ。

「前は、ちゃんとメイクして男性が好みそうな服装してたけど」

「また、新しい恋でもしたらいいじゃん。そんな男よりも、もっといい男と付き合えばいいじゃん」

「そんな簡単に言わないでよ、給料も下がっちゃったし。お金かかるんだよ、メイクって……いいや。もう、いいの」

「なんだよ、失恋して引きずっているってことか」

「あんたに分かんないよ。もう、最悪」

「――水、掛けられた。そして、振られた彼女に……」

「えっ?」

 怪訝けげんな顔して、俺のところを見つめた。いや、にらみつけていた。

































 













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