第8話 再び

 カフェで女性を待つなんて、いつ以来だろう。あ、水をかけられて振られた以来だ。しかも、テラス席でなんて。寒いと思っていたけど、今日は暖かかったから意外に冷えていなかった。少し、寒いかなっていうぐらいだ。そこで、味噌汁を作った報告会なんて、しかも動画で。写真で済ませようかな。ここ、来る前に冷静になって、あの動画が恥ずかしくなって見せるかどうかも、散々迷った。何、1人で盛り上がってんのって言われたら、どうしよう。少し、早く来てしまった為、時間を持て余していた。


「本当に来るのかな」


 そういえば、名前も何も知らない。あんなデカいリュックに、何をしている人なんだろう。大人だと思うけど。そんなに洒落しゃれっ気のない地味な感じだったけど。まぁ、あのスーパーで買い物をするってことは、俺と同じでこの辺の人だとは思うんだけど。やっぱ、来ないかな。変な人って思われたかな。しつこいって思われた? 親切にタオルなんて貸したもんだから、勘違いされたとか思われた? いや、逆に俺の方が作ったことのない料理を作らされて、挙句の果てには道具まで買おうとしてしまった。はっ、もしかして味噌のメーカに勤めているのか、だから味噌汁を作って味噌を沢山買ってもらおうとしたんではないか。


 いつもは、眠気眼ねむけまなこの脳みそが、フル回転で回り始めた。やっぱり、怪しい。注意しないと、つけこまれてしまう。また、心を引き締め直した。


「あっ、こんばんは。本当にいた」

「いるよ、だって言ったもん。何、飲むの」

「いいよ、お水で」

「いいって、俺が誘ったんだから。何? コーヒー、紅茶?」

「じゃあ、カフェオレで」

 えっと、少しホットコーヒーより値段がするけど、いいや、俺が声掛けたし。

 荷物をカゴに入れて置くと、女はグルッと見渡した。

「こうなってんだね、ここって。いつも、外からしか見たことなかったから」

「寒くない?」

「うん、今日は暖かったね。ここのところ寒かったり暖かくなったり」

「すみません、ホットのカフェオレ1つ」

 近くに来た店員に、声をかけた。

「ちゃんとめてよ、あんだけの説明でさ、味噌汁作ったんだから」

「本当? 作れた?」

 あ、またこの笑顔だ。上から目線、やっぱバカにしてる。言葉尻ことばじりも、強くなる。

「作ったって。ほら、あ、動画で撮ったんだけど」

 ちょっと、おふざけみたパロディっぽい実クッキング動画を見せる。

「わざわざ動画撮ったの!? へぇ、そんなに気にしなくていいのに」

「いいの、俺が納得できないの。ちゃんと、やったって!」

「分かった分かった。見せて」

 もう、ちょっと反応が薄いんだよな。他の女性だったら、もっと “すごーい!”とか言ってくれんのに。なんだよ、この女。


「ふふっ、何やってんの。なんで、お椀で水入れてんの? なんか、作る前に戸惑とまどっている。面白おもしろい」

「面白くねぇよ、大変だったんだから。何が何だか、分からなくて作ってるんだから」

「それで、いろんなの入れて、だしのパックいつ取り出すかって。ふふっ、いいね。そして、味噌の大さじが分かんなかったんだ。ねぇ、これ本当なの。わざと、こうしてる?」

「してないって、なんだよ、大変だったんだから。本当に初心者にはこくだぜ」

「そっか、大さじかぁ。大変だったね、でも、美味しく作れた?」

「当たり前だろ、誰が作ったと思ってんだよ。一応、俺だからなんとか出来たんであって、他の奴なら大変だよ。ここまでたどり着くかどうか」

「もう一回見せて」

「どこ?」

「あの何回も、味噌溶いて、味見してるとこ」

 ああ、あの不安気に何回も味見しているところね。

「そう、ここ。ここの表情いいね、可愛い。何度も確認してる」

 違う、そうじゃない。可愛いとか要らない。俺の大変さを知ってほしかった。そして、すごいと言われたい。おかしいな、いつも合コンとかだったら “ すごーい!”のオンパレードなのに、やっぱ分かってないな、この女。










































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