第7話 興味

 ふんふん、昼休みに携帯で検索をかける。“美味しい味噌汁の作り方”、マジマジと画面を見つめて顔を外す……これは難しいな。“初心者、簡単、味噌汁の作り方” 検索を、やり直す。これは、ちょっと物足りないな。もっと、いい感じにったやつ出てこないかな。その前に、大さじについて調べて、水のはかり方、グラム、この計り方を知りたい。あ、それ用の道具があるのね。見たことある、家庭科の時間で。遠い過去の記憶を呼び戻し、メモをした。帰りに買って帰ろう。

「何、見てんの」

「あっ、お疲れっす」

 部署の田中先輩が出先から戻ってきたのか、缶コーヒーを片手に近づいてきた。

「ご飯食べたんすか」

「うん、食べてきた。戻る前に、ちょっと休憩して行こうと思って、お前が見えたから。何してんの」

「味噌汁の作り方、調べてました」

「なんで?」

「いや作り方、分かんないんで」

「へぇ、お前一人暮らしだっけ」

「はい、弁当とか買ってたんですけど、この間、初めて味噌汁作ってみたら、いい感じだったんで。ちゃんと、作ってみようと思って」

「何、料理に目覚めた?」

 田中先輩が椅子を引いて近づき、画面をのぞき込む。

「いや、そんなんじゃないっす」

 顔の横で、小さく手を振った。


「味噌汁ねぇ、そういや俺も最近、飲んでないな」

「先輩も一人暮らしでしたっけ?」

「うん、俺も買ったり外食するからな。家で作るなんて、ほとんどないかも」

「そんなもんっすよね」

「冷蔵庫の中とかさ、ビールとか水とかしかない」

「ははっ、分かります、分かります」

「俺、作ろうとした時、大さじの意味が分かんなくて、えっどうやって計るのって。それで、水の量はお椀を使いました。あっ、計量スプーンてのがあるんですよ」

「そうなんだ、お椀で計ったって。すごいな、お前」

「作る前に材料の量自体が、分かってなくて。ずっと、どれくらい入れるの?って考えながらやってました」

「で、うまく出来たんだ。初めてで」

「はい、いい感じでしたよ。一応、味見しながら作ったんで」

 缶コーヒーを飲み干した。

「天才じゃん、隠れた才能が見つかった?」

「いや、違います」

 まんざらでもない、俺も一瞬そう思った。

「あっ、戻んなきゃ。じゃあな、ゆっくり」

「はい、お疲れ様です」

 田中先輩は、鞄とスーツの上着を持って戻った。


 いいよなぁ、仕事の出来る男は。ちょっぴり、先輩の背中がうらやましかった。缶コーヒーが似合う男に、俺もなりたい。


 会社を出て、さっそく料理道具を買いに行った。今の俺に必要なのは、料理道具だ。あらかじめ、調べて行ったものの種類の多さに、たじろいでしまう。

「うわ~、いっぱいある。どれ買って良いのか、分かんないや」

 えっと、計量スプーン……こんなにあるの。計量スプーン一つにしても、種類が色々あった。迷い、調べる、無理だ。あっ、お玉も買っちゃおうかな。まな板もいいね。あまりの多さに、関係のないものまで目が行く。


「そうだ、会う時に聞けばいいんだ」


 そうだそうだ、味噌汁作るのに必要な道具を聞いてみよう。あっ、でも必要以上の物を買わされたらどうしよう。そこは警戒しないとな。俺は、心を引き締めた。

































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る