第6話 理由

 まずかったかなぁ、また会う約束しちゃった。悪いくせだよな。いや、あの女が買い物させたからだ。俺が、スーパーも料理もはじめてを良いことに言葉巧ことばたくみに。悪い女だ。きっと、そうやって幼気いたいけな男を引き寄せてきたんだ。これ以上、傷つく男性が出ないように、俺で止めなきゃ。


 なるほど、タオルね。最初は、さりげない優しさから声かけて、スーパーに誘い込み、家庭的いい女をアピールして、1人暮らしの男の弱みにつけこんだって訳ね。なかなかの策略さくりゃく。まぁ、俺はだまされないけど、全然タイプじゃないし。


 騙されたふりして、君のやっていることは、間違っているよと教えてあげようか、少しの情はある。


 とりあえず、さっさと味噌汁作って、写真撮って食べるか。鍋に水を入れる……って、どれくらい? 聞いてない、面倒だけど調べるか。1リットル、300cc……どっちなの、1リットルは知ってる。それで? どうしろと、グラム? 何袋とかじゃないんだ。ラーメン作ろうかな。いやいや、味噌汁。


 聞けば良かった。水の量。汁物しるもののおわんを手に取り、普通に考えれば、これの2杯くらいだよな。味噌汁を作る量って……。お椀に水を2杯計って、鍋に入れた。パックを入れて、だし汁を作って、野菜、キノコ、肉をぶちこむ。いや、完全に汁が少ない。水をすと、量がかさばって多くなった。分量って、何? 最大の難関は味噌の量だ。パックは、いつ取り出すんですか。


 はてさて、お玉に味噌を入れて溶くんだな。大さじ1、2、3って、大さじって、どれくらいよ。難しいな。味噌を溶いている写真を拡大して、目で計測する。うーん、このくらいの大きさかな。


 ちびちびいて、ちびちび味見あじみをする。だって、失敗したら食べるの俺しかいないし。おっかなビックリだ。


 うまっ、あれ俺、天才じゃね。


 何? この優しい味、俺作ったの? ああっ、写真から動画に変更だ! この感動は写真じゃ伝わらん。


「はい、実クッキングの時間です。今日は、少し寒くなってきた時に作ると温まる、具沢山ぐだくさんの味噌汁を作ってみました」


 さっそく、携帯のカメラをまわして、話し始める。しかも、1人2役で。

「先生、こう寒い日が続くと温かいものを食べたくなりますよね。でも、1人暮らしですと、お鍋とかそこまで手間でなく、こうサッと作るれるものがあると助かりますよね」

 アシスタントも必要だ。 

「そうですね、そういう時にこういうレシピを1つ知っておくと、すごく便利だと思います」

「はい、それでは出来上がったものが、こちらになります。分量は、画面に出ております、2人前となっております」

 そんなのは、出ていない。これも雰囲気だ。ちゃんと、食べる前の味噌汁を映して、アシスタントが味噌汁を食べる。感想は、とても大事。


「すごく、優しくて美味しいです。色々なお野菜が入っていて、バランスも良いですし、この体調崩しやすい季節にはピッタリですね」

「ええ、これはとても簡単で、カットされた市販のお野菜を入れて、だしと味噌を溶けば出来るんですよ」

「じゃあ、料理が不慣れな方も作りやすいという事ですね」

「そうですね、強い味方になると思います」


 完璧だ。カメラを止めると、撮ったものをチェックする。1人で、ちょこまか何してんだろうって感じだが

「ダサいな、俺。でも、ウケる」

 2人役の寒い自分に、笑ってしまった。よし、これで十分じゅうぶんだろう。

 あ~、早く誰かに見せたい。



























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