第5話 自信

 大丈夫、好きにならないって。だって、色気なんかなかったし、ドキドキもしない。なんなら、お母さんと話しているみたい。朝、鏡の中で自分に言い聞かせた。俺は変わったんだ。少し前の俺は確かに、だらしなかった。いや、素敵な女性が多いから仕方がなかったんだよ。だから、俺は変わる。味噌汁を作って、一人前の大人になるんだ。しかし、あの女は失礼だ。俺が料理をしないことを良いことに、絶対にバカにしていた。本来なら、きちんとしてて優しく教えてくれればいいのに。本当に……残念で失礼な女だ。


 何を朝からイライラしていたのか分からないけど、あのテラス席で最後の最後に会ってやる。これで、本当に終わりだ。その後、俺にふさわしい女性が現れるんだから。今は恋愛は、お休み。なんだよ、スーパーで一緒に買い物って。そして、なんでリュックなんだ、買い物バッグだろ。うん、ないない。必死に何度も言い聞かせた。そして1番嫌だったのは、俺を子ども扱いしているところだ。

「何が “ 風邪ひかないでね ” もう、本当ヤダ」

 あ~、ヤダヤダ。ああいう、上から目線の女。これだけ、言い聞かせりゃ大丈夫だろう。気合を入れた。


「よっ、月本。あれから、元気か。失恋は立ち直った?」

「ああ、まぁね」

 昼休憩に橋本が話しかけてきた。俺の振られた理由を知って、あきれた男だ。

「あれ、思ったよりダメージ少なくない? もしかして、新しい彼女出来た?」

「いや、全然。しばらく、恋はお休みです」

「じゃあさ、今度の合コン来いよ。お前のことも励ましてやるからさ」

「へぇ、可愛い子来るの?」

「来る来る。だからさ、気分転換に来いよ」

 どうしよっかな、気持ちが揺らぐ。顔だけ出そうかな。

「いつなの?」

「1週間後だけど」

 あっ、あの女とかぶる。そっち行ってもいいんだけど。

「ああ、やっぱいいわ。ごめん、まだそういう気分じゃない」

「そっか、そうだよな。幾分いくぶんダメージはあるよな」

「うん」

「まぁ、あんま気にすんなって。また、気が向いたら言って」

「うん」

 橋本は別のヤツに声を掛ける為、そそくさと立ち去った。いいなぁ、可愛い子いるよな、まぁしょうがないか。連絡先さえ分かれば、別の日に変えられたんだけどな。味噌汁作んなきゃいけないし。ちょっと、いつもと違う気持ちが心の中を包んで、少し戸惑とまどっていた。いつの間にか弁当に付いていた味噌汁のカップをさわっていた。





























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