第2話 続きがあって

 あの日は散々な日で、俺はイライラしていた。普段は温和なんだけどカフェで、彼女から水をかけられ振られて恥ずかしい思いと共に道を歩いていたら、声を掛けられた。

「あ、あのちょっと、ちょっと!」

「ん? なんだよ」

 イライラしているから、ぶっきらぼうになってしまう。不機嫌ふきげんのオーラを出していたのに、誰だ!? 能天気のうてんきに声を掛けてくる奴は。その顔を見られて、一瞬ギョッとされつつ

れてますよ。スーツの肩」

「知ってる。通り雨に会ったんだよ」

 見知らぬ女だった。えっ、きょろきょろと空を見上げている。前髪が、まだ湿っていた。

「今日は晴れて、気持ちの良い青空って言ってましたよ」

「そう、じゃ」

 ここで、立ち話になるほうが風邪を引く。

「待って待って、風邪引いちゃう。寒いから、タオル使ってください」

「いいって、これぐらい。なんてことないから」

「いや~頭もれてますし、いた方が……。頭痛くなりますよ」


 それは困る。俺は、頭痛ずつうだけは嫌だ。渋々、タオルを受け取って頭を雑に拭いた。スーツは、適当に拭いた。頭が冷えて痛くなりませんように。そのまま返そうとしたけど、手が止まった。

「ありがとう、やっぱ洗って返す」

「別に、いいですよ。そのままで」

 いや、今日は散々な日だ。もしも、このタオルが目の前の女によって、何かに使われトラブルに巻き込まれかねない。もしかしたら、それが目的で声をかけて来たとも考えられる。そして、なんかこのまま返すのも……なんか嫌だ。


 差し出された両手とタオルがちゅうに浮いたまま、2人固まる。続きの言葉が出てこない。何をたくらんでいるんだ、この能天気。


「分かりました。じゃあ、そのタオル返さなくていいですよ。いいタオルなんですけど」

 ダラッと、あきらめて両手を落とした。えっ、俺が悪い感じ? 何、この空気。それも、嫌。

「それは、もっと嫌」

 何だろう、きっと何言われても嫌。最初は、俺がからまれて面倒になっていたのに、なぜか女の方が面倒だと言わんばかりだ。


「じゃあ、しょうがない。これ、あげるから」

 大きなリュックの中から、みかんとバナナを一つずつ取り出して、両手にとった。

「体調崩しやすい時期だから、これ食べて」

「えっ、いいって」

「いいの、あそこのスーパーで買ったばかりだから」

 無理やり、持ってたタオルの上に置いた。違う、そうじゃない。


「返すよ洗って、ちゃんと。だから、どうしたらいい?」

 俺は、常識のある大人だ。ただ、今は気がく言葉が出て来ないだけ。多分、もう会いたくもないだろう。

「あそこのスーパー、この時間に買い物するんです。その時にいいですよ」

「いつ?」

「いつって、じゃあ一週間後の同じ時間に、あのスーパーで買い物してますから。じゃあ、風邪ひかないで」

「分かった」


 それで、別れたんだ。名前も何も聞いてない。夢だと思ったけど、ちゃんとタオルはあった。みかんとバナナをくるんで。








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