第3話 律儀
もらったみかんを食べながら、洗濯機にタオルを入れる。
“ いいタオルだったのに ”
ああっ、もう面倒臭い。
1週間は、あっという間に過ぎて行った。油断すると、残業して忘れかねないから、早めに会社を出た。洗濯したタオルは乾いていて、フワフワというよりもガサガサになっているような気がした。これを渡せば、全てが終わる。俺の過去の恥ずかしいことと共に忘れよう。
夕方のスーパーは、会社帰りの人や子供と一緒の人で、少し混んでいた。どこにいるんだろう。このスーパーで買い物していると言っていたけど、待ち合わせ場所とかは決めていない。何も知らないけど、デカいリュックから、みかんとバナナを出していたことだけは覚えている。本当にいるのだろうか。野菜コーナーから行って、果物、きのこ……いないなぁ。キョロキョロと見渡して、それらしき人を探す。
あれ? あのリュック……もしかして。
お肉のコーナーに、突っ立っていた。何を買おうか、比べているようだ。どうしよう、今さら……こんばんわって挨拶する? いや、この間ずっとタメ口だったから、そのままで通してみる? まぁ、いいか。もう、会うことはないだろうから。さっと、返して帰ろう。
「何、買ってんの?」
静かな空気が流れる。あれ? この人だったよな、もしかして人違い? 反応が無いため、汗が徐々に出てくる。もう一度、声をかけてみる。
「ちょっと、このタオル! 覚えてない?」
「はい? 私ですか」
「そう! この間、雨に濡れて借りてたタオル返しにきた」
少し、キョトンとされて時間が止まった。
「ああっ! この間の……風邪ひきませんでした? あの後、大丈夫かなって」
「おかげさまで、大丈夫です。ほら、ちゃんと洗ってきた」
「本当に持ってきたんだ、タオル」
笑って、受け取った。当たり前だろ、そんなこと常識だ。よし、帰ろう……いや、待て。お礼を言えてない。すぐに、振り返って戻った。
「何ですか?」
「あの、この間は……えっと、ありがとうございました」
「いえ、そんな
もう恥ずかしかったから、急いで帰ろうとした。一応、大人だから。
「ちゃんと、食べてる?」
「えっ何を?」
「あっほら、ご飯とかスーパーで買い物しないの?」
何かと思ったら、ご飯か。
「いや、俺1人だから。弁当買って帰る」
「待って待って、野菜とか買わない?」
「買わない。料理しないし」
「果物とか、お
なんで? 1人で料理しないのに、何が言いたいんだろう。
「いや
「そんな、ちゃんと食べないと頭痛くなっちゃうよ」
それは困る。俺は、頭痛だけは嫌だ。風邪も嫌だ。どうしようとモジモジしていると、その女はホッとして笑顔になった。
「カゴ持っておいでよ。一緒に買い物しようよ。教えてあげるから」
えっ? カゴって買い物カゴのこと? 近くの位置にないか見渡していると
「待っているから、入り口のところに取りに行ったらいいよ」
急いで、入り口のところまでカゴを取りに行った。
スーツ姿の男に、リュックの女。何、この組み合わせ。会社の同僚? 近所の人、
「あのね、鶏肉を買う時は、本当はもも肉を買いたいんだけど少し高いから、むね肉を買うの」
「はぁ、そうですか」
「でもね、さっぱりして
え? もしかして、バカにされてる。コイツ、肉の種類、言っても分からないと思われている?
「分かりますけど、もも肉とむね肉の違いでしょ。俺はササミも好きですけど」
「そうなんだ。美味しいよね、ササミも」
実はあんまり、分かんないんだけど。
「あっ野菜の方、行こうよ。一番、大切だった」
「え~、野菜。いいよ」
まったく盛り上がる
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