第20話
早速家に帰り鈴原に作ってもらった問題集を鞄の中から1枚取り出し自分の部屋にある机の上にそれを置く。
「よしやってみるか」
いつものように30分ぐらいしたら部屋の中にある本棚に手を伸ばしている自分を頭の中でつい想像してしまう。
今回はそんな誘惑に負けている暇もない!
俺のためにわざわざ問題集を作ってくれた鈴原の努力を無駄にするわけにはいかない。
とりあえず1番から順番に解いていく。
30分ほどかけ1枚の紙に書かれていた問題を全て解いたところで2つ目の紙を鞄の中から取り出す。
そこでひとつ気づく。
「紙の上の方に小さく数字が書いてある?」
その数字が何を意味しているのかは全くわからないがなんとなくその紙に書かれている問題を見てさっきの問題よりも難しそうだったのでレベルを意味しているんだと思う。
さっきより難しいと言ってもそこまでじゃないが。
「春樹」
3回ノックをして母さんが部屋の中に入ってくる。
「あなたが自分から進んで勉強してるなんて」
「あれでもテストのプリントが帰ってくるのってまだ先じゃなかったかしら?」
「これはテストのプリントじゃない」
それにテストのプリントが帰ってきたんだとしたらなんでそのプリントを今解いてるんだという話になる。
「まさかテストの点数があまりにも悪すぎてお母さんに見せられないから自分の部屋で書き直してる!」
わざとらしく驚いた口調で言う。
「わざわざそんなめんどくさいことしねぇよ」
うちの親は2人とも成績のことについてあまり言う方ではないのでわざわざ隠す必要もない。
「これは知り合いが俺のためにわざわざ作ってくれたプリント」
母さんが驚きの声を上げ俺がやっているプリントを覗き込んでくる。
「本当だしかもわざわざ手書き」
「友達がここまでやってくれたんだから明日お礼を言っておきなさいよ」
「ああ、分かってる」
「明日学校に早く行って一緒に勉強することになってるからその時に言うよ」
「そのプリントを作ってくれた友達この前絆創膏を貼ってくれた女の子と一緒でしょ」
本当のことを言うとまたからかわれると思い何も言わないでいると。
「あなたが何も言わないってことは正解ってことね」
「その文字の書き方は女の子特有のまるみを帯びた文字の書き方」
なんでわかったのかと尋ねてもいないのにわざわざそう説明してくる。
探偵にでもなったつもりなのか。
母さんのことは無視してプリントの方に集中していたがさすがにずっといられては勉強に集中できないので出て行ってもらう。
「よし終わった」
最初プリントをやり始めた時は何日間かに分けて問題を解いていくつもりだったがうまく集中できたからなのかいつのまにかプリント5枚が終わっていた。
プリントをまとめ忘れないようにカバンの中に入れておく。
「夜ご飯できたよ」
母さんの声が聞こえなんとなく時間を確認する。
「もうこんな時間だったのか」
もうかれこれ3時間以上ぶっ通しで勉強をしていたことに驚く。
「こんな長いこと勉強できたのは生まれて初めてじゃないか?」
小さな達成感を感じながらリビングの方に向かう。
どうして今日はこんなに勉強が自分からできたんだろうと少し思い返してみると、あのプリントには仕掛けとは言わないまでも勉強以外のいろんなことが書かれていた。
プリントの縁の部分に小さく応援メッセージが書いてあったり面白い豆知識が書かれていたり。
俺にやる気を出させるために意図的にやったものなのかは分からないが、勉強をしている最中に少し吹き出して笑ってしまった。
「勉強頑張ってやってきたにしては随分と嬉しそうな顔をしてるな」
今日は珍しく仕事が早く終わった父さんがもう椅子に座っている。
「久しぶりに家族全員が早く揃ったところで食べましょうか」
「いただきます」
母さんが嬉しそうに言う。
「それで今回のは何のテストなんだ?」
父さんが訪ねてくる。
「国語のテスト」
「それでなんで今までテストで満点を取ることに対して興味なかったはずなのにやる気出したんだ?」
「別にやる気を出したわけじゃない」
「ただ知り合いが俺のために問題集を作ってくれたからそれを水の泡にするわけにもいかないだろう」
「なるほどお母さんが言ってた通りこれは女が絡んでると見て間違いないな」
父さんがいきなり冗談交じりの取り調べをする刑事のような口調で言う。
「父さん聞いてよしかもその女の子が作ってくれたプリントが全部手書きなの!」
「それはすごいな」
「だったら向こうもある程度は篠崎に大して気があるかもしれないってことか」
「明日プリントを作ってくれたお礼を言うついでに告白してきたらどうだ」
テスト勉強を頑張っている実の息子を応援しようという気はないのだろうかこの家族には。
完全に他人事だと思って楽しんでる。
次の日。
鈴原にプリントを作ってくれたお礼を早く言おうと学校に向かう。
図書館の中を覗いてみると鈴原が珍しく本を読んでいるのではなくスマホを使って何かを検索している。
おはようございますと互いに挨拶を交わした後俺はカバンに入れておいたプリントを中から取り出す。
「昨日鈴原さんにもらったプリント全部終わらせました」
「本当ですか?」
言いながらテーブルに置いたプリントを1枚1枚丁寧に確認していく。
「本当だ全部終わってる!」
普段表情をあまり変えない鈴原にしては珍しく驚きの表情を浮かべる。
1日で全て終わらせてくるとはさすがに思っていなかったようだ。
「早くて1日1枚のペースでやってくるかと思って作ってたので正直これはびっくりです」
「なんかプリントの端っこに書いてある応援コメントが面白くて勉強している最中に少し笑っちゃいました」
「すいません勉強の邪魔になるかなって思ってやめておこうかと思ったんですけど、なぜか書きたくなっちゃって」
「いいんですいいんです面白かったんで」
「それでどのぐらい正解してたんですかね?」
自分で合ってるかどうかの採点をしないままカバンの中に入れてしまったので不安だ。
「全部合ってます」
俺はその言葉を聞きひとまずほっとする。
「ところで鈴原さん俺が中に入ってくる前に何かスマホを使って調べてましたよね」
「ああれはスマホのアプリを使って中学生レベルの国語の問題を解いてたんですよ」
「そんなアプリがあるんですか」
俺は普段勉強という勉強を全くしないのでそういうアプリを使ったことは一度もない。
「それじゃあわざわざ毎回問題を作ってもらうのも申し訳ないですし俺もそのアプリをダウンロードしてやってみます」
「私問題文を作るのは全然大変じゃないですし構いませんよ」
「でも…」
そうは言ってもプリントを作れば作るほど紙のお金もかかってくるし俺の問題文を作ることによって鈴原さんが勉強する時間が削られて行ってしまうはずだ。
「問題文を作っていると私の勉強にもなったりするので一石二鳥かなと思ったんですけど!」
どこか必死なように聞こえるのはおそらく気のせいだろう。
「それとも私がプリントを作ってやってもらうのはやはり迷惑ですか?」
「全くそんなことは、大変じゃなければむしろありがたい話なんですけど」
「本当にこれからも作ってもらっていいんですか」
「はい作らせてください」
「と自分から言っておいて何なんですけどまだ次のプリントができてなくて」
「自分の勉強もあると思いますし俺のは別に後回しでいいので」
これはなおさらテストで悪い点を取るわけにはいかなくなったな。
どこまでできるかわかんないけど試しにやってみるか!
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