第19話
明日から鈴原さんに勉強を見てもらうことになったとはいえ今のうちにできるところはやってをこう。
「でもな俺の部屋の中に勉強するための本なんてないしな」
「勉強に使えるかどうかわかんないけど俺にとっての教科書はラノベだから何か役に立ってくれるかな」
とりあえずこの部屋には国語の教科書らしきものもないのでスマホで調べてみることにした。
調べているとさっき鈴原に作ってもらった問題と同じ問題が1つのサイトに書かれていた。
とりあえずサイトに乗っていた中学1年生レベルの国語の問題をといていると部屋の扉が開く。
「学校の方でもう少ししたら国語のテストがあるみたいだからせめて赤点回避できるぐらいには勉強しておきなさいよ」
「今そのテスト勉強で赤点を取んないように頑張って勉強してんだよ」
「あらあなたが自主的に勉強するなんて珍しいこともあるものね」
「ていうか何で母さんが学校でテスト勉強があることを知ってるんだよ」
教えていないどころかそもそも俺自身がテスト勉強があることを分かっていなかった。
「お母さんの情報網を甘く見ちゃダメよ」
なぜか地震ありげなくちょうで胸を張りながら言う。
「そもそも母さんまだうちの学校で知り合い1人もいないだろう」
「お母さんのトークスキルをなめないでちょうだい」
「学校の入学式の時に何人か話してくれる人がいたからその人たちと連絡の交換をしといたのよ」
「私はあなたと違ってトーク力が高いから、テストがあるかどうかの情報ぐらいだったら簡単に手に入れられるのよ」
今さらりと自分の息子のことを馬鹿にした発言を口にしたような気がするがスルーしておく。
「そうだ母さん」
「何?」
「明日から知り合いと一緒に朝早くからテスト勉強することになったから」
「もしかしてその人篠崎が前に言ってた頬に絆創膏貼ってくれた人?」
「別にそんなの女でも男でもどっちでもいいだろう!」
「あなたがそうやって話をはぶらかすってことは女の子の方の友達なのね!」
嬉しそうに目をキラキラさせながら子供のように喜ぶ。
別に母さんに勉強を教えてもらうのが鈴原だということを教えるのが恥ずかしいとかそういうわけではなく。
ただ単にこういう風に必要以上に盛り上がられるのが嫌だっただけだ。
全くこの親の少女趣味はいつになったら治るんだ。
次の日俺は約束通り学校の図書館に向かう。
中にちゃんといるか念のため確かめてみるといつも通り椅子に座り本を読んでいる。
ゆっくりと扉を開けて中に入る。
「おはようございます」
「おはようございます」
少し本のページを見ながら訝しんでいた顔を上げこっちを向く。
「何の本を読んでいるんですか?」
正面の椅子に座り尋ねる。
「本を読んでいれば中学生レベルのテスト問題をいくつか作れるかと思っていたんですがなかなかそううまくはいかないみたいで」
言いながら手に持っていた本をテーブルに置く。
「昨日帰ってすぐに問題をいくつか作っておいたんですけど、ちゃんとできているかはわかんないです」
制服の内ポケットから1つの小さな紙を取り出し手渡してくる。
その紙には全部で5問の国語の問題が書かれていた。
「ネットに転がってる問題の作り方を参考にしながら作ってみたんですけど、もしかしたら問題と答えが間違ってることもあるかもしれないのでご了承ください」
「いいえこうやって問題を作ってくれるだけでありがたいですよ」
「あの良かったらこれを使ってください」
さっき紙を取り出したのとは反対のポケットからボールペンを取り出す。
「ありがとうございます」
ボールペンを受け取りしばらく作ってくれた問題と向き合う。
多少時間はかかったがとりあえず全ての問題に答えを書くことができた。
「採点お願いしてもいいですか?」
「はい」
俺が手に持っているボールペンを渡そうとしたその時。
お互いの手が触れてしまう。
「あ! すいません」
「いえこちらこそ」
何やってるんだ俺、わざとじゃないとはいえ手を握るなんて!
少し気まずい沈黙の空気が流れる。
その沈黙を破ったのは鈴原の声。
「…全問正解です」
「…ありがとうございます」
動揺し声が少し震えてしまう。
「俺そろそろクラスの方にいかなきゃいけないので今日は勉強に付き合ってくれてありがとうございました、また明日もよろしくお願いします」
「あの!」
図書館の扉の方に足を向けたところで呼び止められる。
「何でしょうか?」
顔だけ鈴原の方に向け言葉を返す。
「よかったらこれ …」
そう言ってカバンの中から取り出したのはA4サイズのいくつかの紙だった。
「これは何ですか?」
近づいて確認してみるとその紙にいくつかの問題が書かれていることがわかる。
「これは私が勝手に作った問題集なんですけどもしご迷惑でなければ使っていただけませんか?」
「これを俺のために?」
「昨日家に帰ってから作ってみたんですけど、もしいらないようでしたら私が家に持って帰ります」
「やりますやらせてください!」
俺のためにわざわざ問題を作ってくれたと言うなら断る理由は何もない。
「ご迷惑でないのであれば良かったです」
安心したような表情でほっと一息つく。
念のため紙が何枚あるのか確認してみると全部で5枚、1枚の紙に5問の問題が書かれている。
「もしかしてこの問題全部わざわざ考えてくれたんですか?」
しかもわざわざ手書きで書いてくれている。
「ええまぁさっきと同じようにネットに転がっていた問題を参考に私がアレンジしたものがほとんどですけどね」
「本当にありがとうございます!」
俺のためにわざわざここまでしてくれると思っていなかったので驚きと喜びが混じった感情が心の中で暴走している。
作ってくれた問題集を丁寧に自分の鞄にしまい、今度こそ自分の教室に向かう。
クラスに向かっている最中 俺はとてつもないプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
「どうしよう…」
俺のために作ってくれたという問題集を受け取った時ものすごい嬉しかったが、 同時にこれで赤点など取ったら申し訳ないという不安の感情がかけ上がってくる。
「おはよう」
「おはようございます…」
「どうした元気ないみたいだけど?」
「ていうか何その表情どういう感情」
「この表情はですね何とも言えないプレッシャーの感情に耐えようとしている表情です」
「一体どんなプレッシャーに耐えようとしてるんだお前は」
自分の席に座り窓の方に顔を向ける。
鈴原さんは一体今回のテストで何点ぐらいを取ったら満足してくれるだろう?
俺は今回のテストで赤点さえ取らなければ何とかなるだろうと思っていたが、こうなってしまっては話が変わってくる。
ここは素直にあなたの求めている点数には今回のテストで届きそうにないのでこの作ってもらったプリントはお返ししますと言った方がいいのか?
いやそれはそれで申し訳ないやめておこう。
40点台を取ったら満足してくれるかな?
70点ぐらい。
それとも100点しかあり得ないって言われたりするのかな。
もしかして失敗したらペナルティとかあったりする?
だとしたら俺かなりピンチだけど。
お前は赤ずきんの狼の刑だとか言われたりするのか?
「大丈夫かさっきから思い詰めた表情してるけど?」
進藤が声をかけてくる。
「ああ、すいません今回のテストでよくない点を取ったらどうしようと思って」
「だからってそんなに怯えることないだろう、テストで悪い点を取ったからって死ぬわけじゃないんだから」
「俺なんて毎回学校のテスト30点台だったんだぜ!」
なぜか自信ありげな口調で言う。
「まぁやれるだけのことをやるしかないか…」
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