第18話
今日は朝早くに図書館の方に行っていないなとなんとなく教室の窓の外の景色を見ながら思う。
別に図書委員でもなければ絶対に行かなきゃいけないということもない。
だがなんとなくこの中学校に入学してからずっとあそこに行っていたので何だか行かない日があると不思議な感じがする。
お昼休みの時間に行くということも何度かあったのでそんなに珍しいことではないが。
「おいお前先生の話をちゃんと聞いてるのか!」
窓の景色を見ながらそんなことを考えていると先生が俺の方を見て睨みを聞かす。
「すいません少し物思いに耽っていました」
「何中二病をこじらせたみたいな言い方をしてる前を向いて先生の話をちゃんと聞け」
「はいそうします」
素直にそう答えると周りの生徒たちは俺が怒られているのを見てクスクスと笑う。
「さて後もう少ししたら始まるこの中学校に入学してきてから初めてのテストのことなんだが」
先生のその言葉に驚き俺は思わず立ち上がってしまう。
「なんだいきなり立ち上がったりなんてしてトイレにでも行きたいのか?」
先生がそう言うと周りの生徒たちが再び笑い声を上げる。
「いやそういうわけではないんですが…」
「特に何もないなら自分の席におとなしく座っておけ」
「すいません…」
言われた通り大人しく席に座り直す。
言われてみれば昨日の帰りのホームルームでテスト勉強の話をしてたような気がする。
昨日は進藤さんにどうにか元気になってもらおうとそっちに意識をさきすぎてテストのことが頭からすっぽり抜けてた。
そもそも今回やるテストの内容ってどんなだ。
周りの生徒たちは口々にテストなんてやりたくないと不満の言葉を漏らしているが俺の場合はそれ以前の問題だ。
とにかく恥をかいていいから今すぐにテストの科目だけでも教えてもらわないと。
「あの先生!」
俺は綺麗に手を伸ばし先生に質問する。
「なんだ?」
俺の方に顔を向け言葉を投げかけてくる。
「今回やるテストの科目って何でしたっけ」
尋ねると案の定クラス全員の生徒から笑い声が上がったが俺は先生の言葉を待つ。
先生は小さなため息をついた後国語だと答えてくれた。
ありがとうございますとお礼を言って椅子に座る。
どうしようどうしよう頭の中からすっぽり抜け落ちてた!
国語のテストって何が出るんだろう?
誰か国語に得意そうな生徒に教えてもらうにしても誰かいたか!
すぐに頭の中に思い浮かんだのは鈴原の顔だ。
鈴原さんに教えてもらうか?
朝早くに毎回来て読書の時間を楽しんでいる人を勉強に付き合わせるわけにも行かない!
だからと言ってこのまま1人でテストの日まで頑張ってもダメなような気がする。
思わずどうしたらいいのかわからず頭を抱えてしまう。
「どうした篠崎頭でも痛いのか?」
生徒たちの方を向いて説明をしていた先生がそう声をかけてくる。
「いえ何でもありません 」
「そうかだったら授業に集中しろ」
先生がそう言って後ろに向き直り文の続きを書く。
「さっきの3時間目の授業頭抱えてたみたいだったけど大丈夫か?」
「実はもうすぐ国語のテストがあることを忘れててどうしようかなと思って」
「俺自身勉強がそんなに得意な方じゃないから大したことは言えねえけどきっとなんとかなるんじゃねぇの!」
何の根拠もない地震に溢れた爽やかな笑顔を浮かべる。
「だといいんですけどね」
言いつつ大きなため息をつく。
「知り合いに国語が得意なやついねえかな」
それからしばらく悩んだ結果やはり国語の授業に関して当てにできそうなのは鈴原しかいないと思い、お昼休みになったところで図書館に向かう。
「あの鈴原さん…」
ゆっくりと扉を横にスライドさせながら緊張を含んだ口調で名前を呼ぶ。
「何ですか?」
ゆっくりと読んでいた本から目線を外し訪ねてくる。
「今度やるテストのことなんですけど」
「国語のテストのことですか?」
「その…国語のテストの勉強を見てもらえないかなと思って」
「国語の授業そんなに得意な方ではないんですけど私でよければ」
「本当ですか!」
嬉しさのあまり驚きの声を上げてしまう。
「はい基礎的な部分しか教えられないと思いますが」
「それでも十分ありがたいです!」
「実は最近色々あって国語の授業があるっていう先生の話を聞き逃してたみたいで」
「今日の朝のホームルームでテストがあるって聞いた時は思わず驚いちゃいました」
「ここ最近はお友達を元気づけようと必死に色々と頑張ってましたもんね」
進藤が友達と言われるとまだ少し違和感があるが確かにあのクラスの中で一番仲良くしてくれているのは事実なので一番近いのかもしれない。
「私の横に座ってもらってまずはどのくらいの問題が解けるのか見せてもらっていいですか?」
「はい」
短く返事を開始言われた通り横に座る。
すると制服のポケットから紙とペンを取り出し紙に何かを書く。
「短い問題文を作ってみたのでといてみてもらっていいですか?」
言って手に持っていた小さな紙を俺に手渡す。
「おそらく小学6年生の時にやっている問題だと思うのですぐに解けると思います」
その小さな紙にはこう書かれていた。
ある日、公園で友達と遊んでいた。
鳥のさえずりを聞きながら、ボールを投げ合ったり、かくれんぼをしたりしたとても楽しい時間だった。
この文章で何が起こっているでしょうか?
鈴原から持っていたペンを借り紙の下の部分に公園で友達と遊んでいると答え書く。
「はい正解です」
その言葉を聞いた俺は心の中で安堵する。
「篠崎さんがもしよかったらなんですけど…」
どこかためらったような口調で言ってくる。
「テストが終わるまでの間少し早い時間にこの図書館に来て2人で一緒に勉強しませんか?」
「それは俺にとっては願ってもない話ですけど」
「俺の勉強の面倒を見てたりなんてしたら鈴原さんが日課にしてるこの図書館で本を読むってことができなくなるんじゃないですか?」
「そのことなら大丈夫です」
「もともとテスト期間の間はこの図書館に早く来て1人で勉強しようと思ってたので」
そう言われてしまえば事ある理由がない。
最初は本を読むのが好きなだけで鈴原が国語が得意なんだと思ってしまっていたが、よくよく考えてみたら理想の押し付けもいいところだ。
だが一緒に勉強をしてくれると言うなら心強い。
明日から一緒に勉強するという約束ができたところでよろしくお願いしますと言って俺は自分の教室に戻る。
「なんか嬉しそうだな」
進藤が声をかけてくる。
「国語のテストをどうにかできそうなので安心しちゃって」
「篠崎俺に国語の勉強を教えてくれよ」
「そもそも国語が苦手だからさっきまで困ってたわけで俺が教えてもそんなに良い点取れませんよおそらく」
「俺はそれなりに問題を解ければいいんだ」
「いつも家で小説とか読んでるんだったら国語も得意だろう」
「小説を読んでるからって国語が得意なわけじゃありませんよ」
小説は好きで読んでいるが読むのと問題を解くのは全く違う。
「仕方ない、いざとなったらこのペンを使うか」
言ってポケットから取り出したのはいくつかの番号が書かれた鉛筆だった。
「いざとなったらこの鉛筆を転がして答えを書く」
洗濯問題じゃなかった時はどうするつもりなんだと思ったがそれは口に出さないでおく。
とりあえず俺には他人のテストをコントロールする力はないのでせめて天に赤点が回避できるように祈っておく。
「俺もせめて赤点が回避できるぐらいには勉強しとかないと」
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