第21話
俺は図書館を出て学校の廊下を早足で歩き自分の教室に向かう。
「今回は珍しく時間通り教室に来たな」
「ええなんとか間に合いました」
冗談ぽく笑いながら言葉を返し自分の席に座る。
朝のホームルームが終わり授業に入る前の少しの空き時間に進藤が声をかけてきた。
「今回のテストどれくらい問題解ける自信あるんだ?」
何気ない口調で訪ねてくる。
「おそらくですけどこのまま順調に覚えていけば8割方解けるようになると思います」
「マジかよ今回のテスト俺8割方も問題解ける気がしねえぞ」
「あくまでこのまま順調に行けばの話ですけどね」
気がつけば明日までテスト本番の日が近づいていた。
生まれて初めてここまでテストに対して向き合ったからにはただで転ぶわけにはいかない。
それに何より鈴原にここまで長いこと付き合ってもらったんだ、 せめてそれなりの結果を出さないと!
「今回もこいつの出番かな!」
言ってポケットの中から取り出したのは数字が書かれた鉛筆だった。
「気になってたんですけど今回のテストが番号の選択問題じゃなかった時はどうするつもりなんですか?」
素朴な疑問を口にする。
「その時はその時に考えるしかないな」
清々しいほどの爽やかな笑顔で答える。
「つまり考えてないんですね」
「まあなるようになってくれるだろう」
昔スポコン漫画で流行ったむこうみずな主人公のようなことを言っているが本当にそれで大丈夫なのだろうか?
とは言っても俺が気にすることでもないので何も言わずにおく。
俺は学校の授業を終え家に帰り自分の部屋でいつも通りラノベを読んでいる最中いきなり明日のテストのことについて考えてしまう。
今考えたところで特にテストの結果が良くなるわけでもないのに。
そんなことを考えながらラノベを読んでいるといつの間にか夜ご飯の時間になっている。
リビングの方に向かうといつも通り母さんが椅子に座り待っている。
「そういえば明日いよいよテストの日じゃない?」
「そうだな」
短く言葉を返しいただきますと言って箸を手に取る。
「帰ってきたらテストの結果どうだったか教えてよ」
「やだよどうせろくな結果じゃないだろうし」
「それでもいいから見せて」
「私が別にテストの点数についてとやかく言う人間じゃないの知ってるでしょ」
「だったら別に教えなくてもいいじゃねえか」
テストの点数を教えなかったとしても母さんの場合どこからかその情報を入手してきそうな気がする。
「分かったよ気が向いたら教えるよ」
その日は早く布団に入って眠りにつこうとしたが、なかなか眠りにつけずまたテストのことが頭によぎってしまう。
「今テストのことを考えても仕方がないのになんでこうなるんだ!」
だが嫌なことを思い出した時とは違いどこか心地の良い達成感のようなものを同時に感じる。
今まで経験したことのない初めての感覚なのは間違いない。
小さな不安と戦いながらその日は眠りについた。
起きて朝ご飯を食べたところで俺の中で朝8時に学校に向かうことがもう当たり前になっている。
いつも通り学校の図書館の方に向かってみると、鈴原が珍しく本を読まずに椅子に座っている。
その姿は誰かを待っているようでもあった。
一瞬俺が入っていいものなのかどうなのか悩んだがここに1人で突っ立っていてもどうしようもないので、中に入る。
今日のテストが始まるのは3時間目からだその最後の悪あがきというわけじゃないがせめて今までやった部分の確認だけはしておこう。
中に入ったと同時に鈴原が俺の方に顔を向ける。
「おはようございます!」
いつも通りの挨拶の言葉ではあるがどこかその言葉には力強さを感じる。
「おはようございます」
「私から一つ提案というか何と言うか、 今日テストの日なので最後の確認をしませんか?」
それは俺から頼もうと思っていたことなので言ってくれて一安心だ。
「もちろんお願いします」
俺は正面の椅子に座りテーブルの上に今まで渡された1日5枚ずつのプリントを全てカバンの中から出し並べる。
「それではまず心苦しいとは思いますが今までやってもらったこのプリントの答えを全て消してもらっていいですか?」
「全て問題を解こうとしなくていいので朝のホームルームが始まるまでの時間までにできるだけ問題を解いて行ってください」
「分かりました」
言われた通り問題を解いていく。
やはり一度解けたことがある問題ということもあって、特に悩まずスラスラと問題が解けていく。
集中して問題を解いていると誰かに肩を叩かれる。
「篠崎さん」
名前を呼ばれようやく肩を叩いていたのが鈴原だと気づく。
「そろそろ自分の教室の方に向かった方がいいと思います」
言われいつも通り生徒たちが友達と喋りながら投稿してきていることに気づく。
俺の勉強に付き合ってくれてありがとうございましたとお礼を言って自分のクラスに向かう。
それからしばらくして3時間目のテストの時間がやってきた。
「全員テストのプリントは行き渡ったか?」
「それでは始め」
俺は筆箱から鉛筆を取り出しプリントに書かれた問題を読む。
問題1: 「月が綺麗ですね」という言葉の意味を述べたせりふは?
これは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』
問題2: 「猫」や「犬」といった動物の鳴き声を表した言葉を何という?
答えは鳴き声。
それからも冷静に問題を解いた。
「そこまで!」
「やり終わったプリントは前の生徒に回していけ」
「なんとか終わった」
安堵のため息をついたと同時に今まで感じていた緊張が一気に体から抜けていくのがわかる。
そういえば進藤さん問題がわかんない時は鉛筆を転がして決めるみたいなこと言ってたけど、今回の問題洗濯問題じゃなかったから使わなかったんじゃないか?
「よう手応えはどうだった」
そんなことを考えているとちょうど声をかけてくる。
「テスト用紙が帰ってこないとそればっかりは分かりませんけどまあまあ自分ではできた方だと思います」
「俺は赤天才回避できてればいいかなって感じ」
俺も最初はそう思ってたんだっけ。
「今は4月だからまだいいけどこれで夏休みの補修とかになってると地獄だな」
「貴重な夏休みが何日間か潰れちまう」
その日の学校の授業を終え家に帰っている最中考えていた。
「短い間とはいえ俺の勉強を見てくれたお礼を鈴原さんにした方がいいんじゃないか」
「プレゼントを渡すにしても何がいいんだ?」
本人が何が好きなのか全くわからない。
唯一わかっていることがあるとすれば本が好きだと言うことぐらいだ。
「前に話してた時結構何でも本読むって言ってたし俺が買った本を持ってる可能性だってあるからな?」
同じ本を集めるコレクターの趣味を持っていたら話は別だが、大抵の場合は同じ本をプレゼントされても困るだけだろう。
そんなどうしたらいいかわからない悩みを抱えながら家に帰る。
「テストはどんな感じだった?」
なぜか母さんが嬉しそうに聞いてくる。
「まあそれなりには問題解けたと思う」
そっけなく言葉を返し自分の部屋に向かう。
仰向けで寝転がりながらスマホの検索窓のところに女の子が喜ぶプレゼントと入力し検索をかける。
よく言えば一般的な女の子が喜びそうなプレゼントが画面の上の方に上位表示される。
プレゼントを渡すとなると学校に行って渡すことになるので先生にあんまり怪しまれない方がいい。
しばらく考えて探してみるがなかなかいいのが見つからず一旦諦めることにした。
「女の子のプレゼント選びって難しいな」
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