異世界転生(これ、私が最初に考えたことにならないだろうか……)

森羅ユイナ

異世界転生(これ、私が最初に考えたことにならないだろうか……)

 ある日、天界で神様が叫んだ。


「良いことを思いついたぞ!」


 その大声を耳にし、天使が神様のもとへやってきて言った。


「みっともないので、急に大声を出すのはやめてください。……で、今回は何を思いついたのですか?」


 神様のこうした唐突な発言は、さして珍しくない。

 その証拠に、かなりの声量であったにも関わらず、様子を覗きに来たのは多数いる天使のうち、彼たった一人であった。


「まあ、黙って聞いてくれ。今回の計画は、とにかく凄い。多くの不幸な人々に希望を与えることができるかもしれない」


 神様は拳をギュッと握って力説した。

 真偽の程はともかく、かなりの自信が見て取れる。

 天使は目を細めて尋ねた。


「それは結構なことですね。で、その計画とは?」


「これまでは、各々の死因に関わらず前世と同じ世界に生まれ変わらせていただろう? けれど、今後は不慮の死を遂げた者に限り、その者の望む世界に望む形で生まれ変わらせてやろうと思ってな。つまり、アドバンテージが与えられた状態で来世に挑めるというわけだ。周囲が一から始めるところを十とか百……いや、千から始めることができるだろう」


「不慮の死を遂げた者にアドバンテージを……ですか。けれど、『望む世界に望む形で』となると一人一つの世界が必要になるわけですよね。いちいち新しい世界を作っていたら、キリがないのでは?」


「そこは問題ない。事前調査によると、我々の管轄する日本という国は、ほとんどの者が中世ヨーロッパ風のファンタジー世界に生まれ変わりたがっているらしい。そういった世界を一つ作ってしまえば、コピーアンドペーストで無限に同じ世界が作れるだろう。あとは、そこに生まれ変わる人間の希望に沿った微調整を加えれば良いだけだ」


「そんなに上手くいきますかね」


 眉をひそめる天使を無視して、神様は言った。


「というわけで、さっそく作戦を実行に移すとしよう。ちなみに、この計画は『異世界転生』と命名する。以降はそれで通すように」


「はあ、分かりました。神様の仰せのままに」


「よしよし、決まりだな。では、他の天使たち全員に今の話を伝えてきてくれ」


 その瞬間、天使は目を丸くして聞き返した。


「天界にいる天使全員に……ですか?」


「今回の異世界転生計画、私は天使たちがメインになってやってもらおうと考えている。この計画は『来世はどんな風になりたいですか?』と、いちいちヒアリングしなければならない。どっちにしろ、私一人では手が回らないだろう。だから、窓口係は天使。私はそれの監督係という形を取ることにする」


 お気楽に微笑む神様に、天使は静かに語りかけた。


「たしかに、理屈は分かります。不慮の死を遂げた者に限定しても、全体を数えれば相当なもの。けれど、このような重大な計画を天使に丸投げてしまって問題ないのでしょうか?」


「大丈夫だろう。異世界転生といっても、こちらの業務内容は希望を聞いてあげるだけなのだから」


「……本当にいいんですね? 後悔しませんね?」


「後悔などするものか。私は天使たちが、みんな真面目で仕事ができることを知っている。というわけで、私はさっそく基準となる世界の創造に取り掛かろう。あとは頼んだぞ」


「なるほど。では、これ以上わたしが口出しする必要はありませんね。他の天使たちに伝えてきます」


 天使はスッと神様に背を向けると、作業に取り掛かった。






 それから、数か月の時が流れた。


「神様、こちら今週に旅立った転生者と転生先の一覧になります」


 天使から淡々とした態度で手渡された報告書に目を通しながら、神様は呟いた。


「なんか最近、変なのに転生する者が増えてしまったな」


 神様の主導で始まった、異世界転生計画。

 最初のうちは勇者や魔法使いなど、本人の意向に沿ったロマンのある転生先を案内することができていた。


 しかし、月日が経つにつれ、段々と雲行きが怪しくなってきた。

 何故か最近、不慮の死を遂げる者が急増している。

 トラックにはねられて亡くなるケースにおいては、人類史上最悪の数値を叩き出していた。


 こうなると、天使たちの対応も追いつかなくなり、次第に業務が雑になる。

 ろくにヒアリングも行わず、前世の記憶だけ持たせて、とりあえず異世界へ送り出すことも珍しくなくなった。


 このままではまずい……。

 そう思った神様は、「冒険者ギルド」と呼ばれる公共職業安定所のような施設を各異世界に急いで設置し、雑に異世界へ送られた者たちに対して救済措置を施した。


 けれど、不慮の死を遂げる者の数に歯止めは効かず、死に方のバリエーションだけが増えていく。

 もはや、初期に思い描いていた異世界転生とは、大きく様変わりしていた。


 俗に雑魚モンスターと呼ばれる存在に転生する者、何故か悪役と称される存在に転生する者、さらには虫や家畜に転生する者など……。

 むしろ、前世より不幸になっているのではないかといった事例までもが多発した。


 神様は頭を抱え、相変わらず淡々とした態度で作業を行う天使に尋ねた。


「私がこれほど頭を悩ませているのに、どうしてお前はこの状況で平然としていられるんだ?」


「そりゃあ、これはこれで別に構わないと思っているからですよ。新鮮かつ奇抜な設定で送り出す方が、世界ものがたりを作る側としては面白いに決まっていますから」

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異世界転生(これ、私が最初に考えたことにならないだろうか……) 森羅ユイナ @yuina-S

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