第2話 謎
僕はこんな兄の事を軽蔑していた。けれど僕も人に誇れる様な人間では無かった。適当に程よく毎日を過ごして、それなりに友達も彼女もいたが僕にとって何となくの゙存在だった。
〝ふう〟に会ってから僕はそんな日常はどうでも良くなってた。
「なあ、最近付き合い悪くない?彼女に忙しいのか?」
「違うよ。今、色々忙しんだよ。」
学校でそんな話をしていると、付き合ってる彼女が割り込んで来た。
「忙しいって、メールも返さないし酷くない?」
彼女は感情豊かな女で、付き合う事になったのも彼女の強引さに負けてで、僕は彼女を〈好き〉と言う気持ちで付き合っていた訳では無かった。
「もうやめようよ。俺はお前とは付き合えないよ。」
彼女の手を振りほどき、ずっと言えなかった気持ちを口にした。
彼女は泣きながら去って行ったが、心が痛む事も無く逆に今まで抱えてた重い荷物を降ろせた感じでスッキリしていた。
側で見ていた友達に何だかんだと言われたが、僕の耳を素通りして流れていった。
僕が帰宅すると〝ふう〟は兄の部屋で一人で膝を抱えていた。
「兄さんは何処かに出掛けたの?」
僕が聞くと〝ふう〟は黙って紙切れを差し出した。その紙には兄から〝ふう〟への置き手紙の様だった。
〈暫く帰らないから、自由にしてな〉
殴り書きされた紙を見て、僕は兄の勝手さに怒りが込み上げていた。
「どうしよう…」
〝ふう〟は無表情で呟いた。
「ふうは、どうしたいの?」
「此処にいても…いい?」
僕はその応えにホッとした。もしも〝ふう〟がいなくなってしまったら僕は嫌だった。
〝ふう〟は兄がいた時も今いない時も同じで、変わらず部屋でボンヤリして過ごしていた。
僕は毎日話し掛け続け〝ふう〟の事を少しでも知りたかったが、〝ふう〟はいつも返事をするだけで自分からは話してはくれなかった。
それでも〝ふう〟が此処にいるだけで僕は嬉しかった。
ある日、〝ふう〟が見知らぬ女に言い寄られていた。
「あんたがいるから帰って来れないんじゃないの?
何で、あんたみたいな辛気臭い女が此処にいるのよ!」
酷い事を言われても〝ふう〟は無表情で何も言い返せず立っているだけだった。
「兄は勝手に出て行っただけで、このコのせいじゃないです。」
僕は咄嗟に女に向かって〝ふう〟をかばった。
女は腑に落ちない顔をしながらも帰って行った。
「ふう、大丈夫?」
「大丈夫…
この前も違う女の人が何人か来たから馴れた。」
「前にもあったの?
たくっ…兄さんは何やってんだ…
ごめんね。」
僕は兄の失態が招いた出来事がこうなってしまっていると申し訳なくて頭を下げた。
「何で君が謝るの?
でも…ありがとう…」
その言葉に驚いて見上げると〝ふう〟は微かに笑みを浮かべていた。
この時、始めて〝ふう〟のいつもと違う表情を見て僕は〝ふう〟を守ってあげたいと思った。
そして、早く〝ふう〟を守れる男になりたくてバイトを始めた。やはりお金が無いと何もしてあげられないと考えたからだ。
その内、フラっと兄が帰ってきて〝ふう〟は兄の側に今まで通りいるかもしれないと思うと不安になるけど、今の僕は〝ふう〟を幸せな気持ちにしたくて夢中で働いた。
〝ふう〟は兄がいなくなってから、手のひらに何かをずっと握りしめていた。
僕はそれが気になりながらも聞く事が出来なかった。
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