ふう

桜 奈美

第1話  出会い

〜ふう…君は何故あの時、泣いたの?〜


あの頃、僕はまだ学生で幼稚な男だった。

僕には一緒に暮らす5歳違う兄がいる。無気力な僕と違って兄はいつも新しいモノを探しては楽しく自由気ままに生きている男だった。

そんな兄の彼女が〝ふう〟君だった。

〝ふう〟は春から自然に家転がり込んで一緒に暮らす様になっていた。

家の親は僕達には無関心で誰が来ていても何も言わなかったから、兄が誰を連れて来ても知らぬフリだった。

〝ふう〟が笑ったり怒ったりしている所は見た事は無く、いつも静かに此処にいた。何が良くて兄と付き合っているのか僕には分からなかった。

と言うのも兄は〝ふう〟以外にも色んな女と付き合い連れて来ていた。

僕から見れば、兄は女にダラシないクズ以外の何者でも無かったから、関わりたく無くて殆どは見て見ぬふりをしていたが、〝ふう〟を連れて来た時から僕は言葉では現せない変な感情を抱いてしまった。

〝ふう〟は今まで連れてきた女とは違って、心に何かを秘めている感じの不思議な女だった。

いつもボンヤリ何を考えているか分からない〝ふう〟に会えば会うほど僕は気になって仕方なくなっていた。

兄が他の女を連れて来ると、〝ふう〟は必ず家の前でずっと待っていた。

「中で待ってれば?」

と言っても

「いいの。私は此処で待っている。」

そう言って、寒かろうが暑かろうが雨が降ろうが待っていた。

〝ふう〟は兄が好きなんだろうと始めは思ったが、少し違うと知った。

それは兄と〝ふう〟の会話が聞こえた時だった。

「ふう、俺といるの嫌ならいつでも帰っていいんだよ。」

「もう私がいらないなら、帰る。」

「じゃ、此処にいな。」

その会話を聞いて、兄が〝ふう〟を上手く引き止めている気がした。

僕は兄に

「兄さんには他にも女がいるなら、ふうを自由にしてあげたら?」

と言った。

「あいつは、此処にいる方がいいんだよ。」

意味深に言った兄はそれ以上の事は言わなかった。

僕は兄の勝手な思いで、〝ふう〟を自由にさせないんだと感じていた。

〝ふう〟は自分から何かを話する訳でも何かを求める訳でもない。ただ家にいてぼんやり過ごしていた。

そんな姿を日々見て、〝ふう〟が何を考えているのか知りたくなっていった。

ある日、僕が帰って来ると〝ふう〟はいつもの様に家の外でしゃがみ込み待っていた。

僕は〝ふう〟に聞いてみた。

「何でいつも待ってるの?兄が他の女といるの嫌じゃないの?」

「別に嫌とかじゃない…

行く所が無いから待ってるだけ…」

〝ふう〟は無表情で答えた。

僕はそれは可笑しいと思った。彼女なら彼氏が他の女といるなんて嫌なハズなのに平気な顔で言えるなんて、〝ふう〟は兄の事をどう思っているのか分からなくなった。

「じゃ、…」

僕が言い掛けると兄が女と家から出て来た。

〝ふう〟と僕が目の前にいるのに、二人はイチャつき女は機嫌良く帰って行った。

「ふう、もう入っていいよ。」

〝ふう〟は兄の後について家の中へ入って行った。

その光景に僕は何とも言えない虚しさを感じた。

…ふう、君はそれで良いの?…

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